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番外編 月猫族に呪福を 

 そして月日は流れた。

 陽鳥族の母星ほし……ドーバ星を滅ぼした際の戦績で、俺は漸く名実共に『月猫族最強の戦士』として認められ、最強の証(白い服)を贈られた。

 最初こそ多方向から反感ややっかみを受けていたが、片っ端から売られた喧嘩を買うことで収束し、今では最上位戦士チームのリーダーをやっている。何故か戦闘員を辞めて良くなったユーリンも、三年間俺のチームに所属していたが……散々説得して、戦場から離すことに成功した。どういう訳か、代わりにユーリンと結婚する話になったが……まあ他の奴のモノにさせる気は更々ないので良しとする。

 そんな日々を過ごして、十年。イタガ星滅亡まで残り六年となった。


 ……後六年……ウニベルの弱点は掴めず終いか。正攻法で勝てねぇなら、やっぱりイタガ星の爆発に奴を巻き込むくらいしか、殺す方法は思い付かねぇな……。


 などと考え込んでいると、「あ、そうだ」と思い出したかのようにファンが声を上げた。

 今日は任務がない。仲間チームで集まって戦闘訓練をしており、現在休憩中。円になって、それぞれ水を飲んだり談笑したりと過ごしていたわけだが、その中でもファンが話の火種になることは珍しくなかった。

 大抵は興味の湧かない話題なので、俺は聞き流しているだけだが……。

 この日の話題は到底無視できる内容ではなかった。


「知ってるか?ユージュン。最近生まれた赤ん坊の噂!何でも()()()()の天才児が生まれたんだってよ!!」

「『金髪だけ』?」


 思わず聞き返す。

 珍しく俺から反応が返ってきたことに機嫌を良くしたのか、ファンは口角を上げた。


「ああ。潜在能力値は史上初の『100』!何と満点だ!何でも両親が任務で早死にしたらしくて、その赤ん坊は王宮に召し上げられたんだと。王家の養子になったから、つまり月猫族おれたちのお姫様ってわけだ!」

「…………」


 咄嗟に何も言えなかった。

 知らない。そんな奴、今までの人生で一度たりとも出てこなかった。

 本当に金髪だけの赤ん坊が生まれて、今まで一度も知り得ないなんて有り得ないだろう。

 だとするならば、可能性は一つだけ。


 ……未来が変わった……のか?


 何処まで、何が変わったのかはわからない。それでも、何かがこれまでと違っているのは確かだ。


「金髪だけか……やっぱり強ぇんだろうな。一度闘ってみてぇぜ」

「まだ赤ん坊だぞ?俺達とり合えるようになるまで、最低でも十年は必要だろ」

「まあ大きくなったら、間違いなく俺らのチームに入って来るさ。その時の楽しみに取っとけよ」


 ユーエン、ジン、ズーシェンと、その赤子の話題を続けていく。


 ……『大きくなったら』……か…………。


 ズーシェンの言葉が引っ掛かった。

 その赤ん坊がどれ程の天才児であったとしても、運命の日は六年後。その神童が大人になる未来が来る可能性は到底低い。

 そもそも大人になったところで、どう足掻いても人間ではウニベルの次元レベルには届かないだろう。俺やユーリンでさえ、四龍にすら遠く及ばないのだから夢のまた夢だ。


 ……強さだけが勝敗を決めるわけじゃねぇが……まずウニベルに正攻法で勝てる奴は居ねぇ。ガキには悪いが、全てを犠牲にするつもりでるしかねぇんだ……。


 ウニベルを道連れにする為にも、一発でもぶん殴る為にも、最期まで闘ってやるつもりだが……その赤子も俺達も、六年後には母星と共に宇宙のちりと化しているだろう。

 折角だが、所詮は消え行く命である。


 まさか早くも三年後にチームに入って来るとはいざ知らず、この時俺は全くその赤子に興味を持っていなかった――。



 *       *       *



 それから三年後。遂に出会った。


「……と言う訳で、本日よりお前達のチームに配属されることになったリーファ姫だ。一応言っておくが、無礼のないようにな」


 黒で遮られることのない輝く金髪に、何処か見覚えのある真紅の瞳。何より、三歳のガキとは思えない程の威圧感。

 一目でわかった。こいつの実力は本物だ。この歳で既にユーリンと拮抗する戦闘力を身に付けている。


 ……コレが変わった未来で生まれた天才児か……随分と荒んだだな……。


 第一印象はそんなモノだ。

 どれだけ強くとも、才能があろうと、このガキが大人になる未来はおそらく有り得ない。


 ……ただでさえ残された時間が短ぇってのに、ガキの世話なんざしてられるか……。


 と思って、チームに入れるのを反対したのも束の間……想像以上の実力の高さを見せつけられ、加えて王の命令もあったことで、俺はこのガキを渋々仲間チームに入れる羽目になった。しかも仕事内だけでなく、生活面の世話まで任される始末だ。

 国王をいつか殴ることを心に決めながら、俺はジン達に囲まれているガキを横目で見つめる。


 ……面倒なことになっちまったぜ……。


 俺は深く溜め息を吐いたのであった。



 *       *       *



 面倒だ何だと思っていたにも関わらず、俺がリーファを認めるまでに時間はかからなかった。

 それこそ、リーファが大人になる未来を作ってやりたいと思う程には、俺はリーファに期待していた。妙な既視感があることも関係しているのかもしれない。

 しかし『大人になる未来』と言葉にするのは簡単だが、現実はそう簡単なことではなかった。


 ……ウニベルを殺す手段が『惑星ほしの爆発に巻き込む』以外に思い浮かばねぇ以上、リーファを生かすには先にイタガ星から遠ざけておく必要がある……が、ソレを見逃してくれる程帝国の連中は甘くねぇ……。


 ウニベルの月猫族への執着心に加えて、リーファの知名度が高過ぎるのだ。

 何と言っても、歴史上初めての金髪だけの子供。その上、月猫族の次期女王となる人材である。ウニベルがリーファの存在を取り溢す筈がない。

 無事リーファをイタガ星から脱出させたとしても、イタガ星への攻撃が中止となり、ウニベルを討つ絶好の機会が失われる可能性もある。一番最悪なのは、先にリーファを殺され、後からイタガ星に攻撃を仕掛けられることだ。

 ウニベルがどういう選択を取るかわからない以上、下手に動くべきではなかった。


 ……チッ!どうすりゃ良いんだ!


 握り拳を机にドンと叩き付ける。力加減をしなかった為、そのままテーブルは音を立てて崩れ落ちた。酒場の店主から文句が飛ぶが、一々構ってる余裕はない。


 ……リーファを生かしたまま、ウニベルを殺せる方法か…………。


 妙案が降りて来る筈もなく、ウニベルに及ばない自身の不甲斐なさを怨みながら、俺は一滴も減っていなかったグラスを思いきり煽った。



 *       *       *



「……あれから三日経ったってのに、未だ何も無しか……」


 リーファが仲間チームに入っておよそ一年。

 先日、王宮から「リーファを返せ」と言われ、黙ってられずに「ふざけんな」と抗議した。ジンシューで脅し、王の側近を追い払ったのは良いが、それはそれとして未だ何のお咎めも無しなのは流石におかしい。

 第一事の発端は、ウニベルがリーファを欲したことが始まりの筈だ。俺が拒否したことにより、必然的に月猫族はウニベルの命令を一つ無視したことになる。

 にも関わらず、王からもウニベルからも今のところ何の攻撃も受けていなかった。


 ……消滅の時期が早まるかもと思ったが……俺の杞憂か……?


 気になることと言えばもう一つ。

 何故ウニベルがリーファを欲したのか。

 側近の話では『ウニベルがリーファを気に入った』と言っていたが、そんなこと有り得るのだろうか。


 ……『気に入らないから、配下にして扱き使って……最終的に使い棄てたら面白いかなぁって』


 ……『所詮月猫族(きみら)は俺に都合良く使われてただけの哀れな消耗品なんだから』


 想像するだけで歯軋りしてしまいそうなウニベルの発言。こんなことを言っていたウニベルに限って、月猫族リーファを気に入る可能性などあるとは思えない。

 なら何故側に置こうとした?


 ……リーファは月猫族の次期女王……次期女王を奪うことで月猫族おれたちへの嫌がらせをしようとした……?……否、惑星ごと消滅させるつもりの奴が、わざわざそんなことする必要あるか?……大体リーファを側に置いて、その後どうするつもりだったんだ…………一度調べてみるか……。


 考えが纏まらない為、強行手段に出ることを決めた。

 バレないように帝国本城に侵入すれば、何か掴めるかもしれない。


 ……丁度明日は、帝国から物資を受け取りに行く日……通信機外して、その船に便乗できれば……明日の任務はジン達に任せとけば、俺一人居なくても大丈夫だろ……。


 そうと決まれば話は早い。

 俺は早速チームメンバー全員をいつもの訓練場へと呼び出したのであった。



 *       *       *



 そして翌日の朝早く――。


「……はぁ?『忘れ物』?」

「ああ。ついでだから良いだろ?乗せてってくれ」


 ターミナルへ行けば、予想通り運搬係の男が船の準備をしていた。

 呼び出しもないのに、いきなり戦闘員が帝国本城に向かうのは怪しまれる為、適当な嘘を吐く。

 嘘を信じたらしく、男は「まあ別に良いけどよ」と渋々了承した。


「あんな所に何を忘れたんだよ?最強様がダセェ真似して、他の連中の士気が下がっちまうんじゃねぇの?」

「うるせぇよ。そう思うなら誰にも言うんじゃねぇぞ!バレねぇように、通信機まで外して来てんだからよ」

「ああ、それで……ん?ちょっと待て。お前の忘れ物が中々見つからねぇ場合は、俺に本城で延々と待てってことか!?あんな胸糞悪い場所で!?」

「そういうことだ。精々怪しまれねぇよう気を付けろよ」

「ふざけんなよ!ユージュン、テメェ!!」

「あ?文句があるなら、拳で決めるか?」


 握り拳を胸の前に持って来る。

 男は舌打ちと共に溜飲を下げた。


「ジン達の苦労が目に浮かぶぜ」

「余計なお世話だ。あ、後今日任務サボって来てっから、本城に行ってたことはジン達にも言うんじゃねぇぞ?」

「チームリーダー失格だな」

「何とでも言え」


 文句を言われながらも、無事船は出航した。



読んで頂きありがとうございました!!


リーファさん視点の過去編で出していた場面に差し掛かったので、めちゃくちゃ進みが早いです笑。

完結した後に、またユージュンとユーリンの馴れ初め話を書きたいと思ってますので、ここら辺の話はフィーリングで流し読みしといてください笑。


次回もお楽しみに。


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