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番外編 月猫族に呪福を

 

「ッだぁあ!!クソッ!!」


 再び戻ってきた十六年前のベッドの上で、俺は盛大に愚痴を吐いた。

『強くなり、月猫族じぶんたち運命みらいを変える』と決めて、早幾歳月。既に数回目のループが終わった。

 何度も何度も……ウニベルに裏切られ、ユーリンを殺され、どうすることもできずにイタガ星が消滅する。

 一体どれ程自身の不甲斐なさと脆弱さに憤り、打ち拉がれれば良いのか。


 ……『……月猫、族……呪われた種族ッ……()()()()()()()()()()ッ……其方に、神の意思を、授けるッ……どれだけ足掻こうとッ、何をしようとッ……其方達は滅び去る運命であると……運命さだめに従い、自らを呪うが良いッ!!………………』


 死ぬ度に頭の中に響いてくる声が、脳内を支配する。

 この声の正体は、俺が十五の頃に侵略したジューア星人……その最後の一人に遺言のようにして告げられた言葉であった。思い出したのは何回目かの死の後だったが……それと同時に、その蛇人間から意味のわからない行動を取られたことも一緒に思い出した。

 奴は自身のへそ下辺りを抉り出し、その血肉を俺に食わせた。当時はくだらない腹いせとしか思わなかったが、今考えるとアレは何らかの超能力の発動条件だったのだろう。

 そしてその超能力というのが、『死んだ瞬間また過去に戻り、延々とソレを繰り返す』という内容……そう考えるのが自然だ。だとすれば、奴の遺言もまた違った意味が取れる。


 ……『どれだけ足掻こうとッ、何をしようとッ……其方達は滅び去る運命であると……運命さだめに従い、自らを呪うが良いッ!!』


 初めから奴らには月猫族おれたちの行く末がわかっていたのだろう。わかった上で最期の復讐として、何度もこのふざけた“死”を繰り返させている。随分と悪趣味な超能力だ。憎い相手への嫌がらせとしては最適だろう。

 戻れる過去が当時なら、俺は肉弾戦を仕掛ける前に、迷わず奴らの頭上に特大のジンシューをお見舞いしてやる。

 他にも、何回にも渡る死に戻りでわかったことはあった。ソレは、過去に戻っても俺自身の身体そのものは若返っていないということだ。

 毎回死んで戻ってくるのは、俺が二十五歳の時……つまりはウニベルが月猫族に攻撃を仕掛ける十六年前。

 だがどうやら、俺は十六年前に戻りながらも、肉体は死んだ年齢のままだ。ソレがどういうことか。寿命で死ぬ直前まで老化をしない月猫族にとって、歳を重ねることは即ち戦闘力を重ねることと同義だ。死に戻りをする度に、戦闘能力が上乗せされていっているということである。

 皮肉なことに最下位戦士でありながら、俺の実力はユーリンをも越えてしまった。

 それでもウニベルの足下にすら及ばないのだから、本当に皮肉なことだ。

 そしてもう一つ。喜ぶべきか嘆くべきか……この死に戻りは恐らく永遠のモノではない。初めて過去に戻った時、俺は確かに『12』から『11』へと変わる数字を見た。だがそれ以降も、死ぬ度に一つずつ数字が減っていく。そして十一回の死に戻りを経て、十二回目の人生……数字は『1』となり、今度死ねば到頭ゼロになる。確証はないが、ゼロになれば忌々しい超能力も解け、死に戻りの効果も消えるだろう。

 つまり次の人生が、ウニベルを殺すラストチャンスというわけだ。

 にも関わらず、ウニベルを殺す手立てが微塵も見当たらない現状。せめてこの人生で、手段の一つくらい見つけておかなければ話にならない。


 ……後一回……後一回しか戻って来られねぇ……。


 焦りだけが募っていく。

 その最後の一回だって、本当に在る保証は何処にもない。


 ……『どれだけ足掻こうとッ、何をしようとッ……其方達は滅び去る運命であると……運命さだめに従い、自らを呪うが良いッ!!』


 何度もジューア星人の呪いが頭の中に蘇ってくる。


 ……クソッ!どれだけ強くなっても、結局俺如きじゃウニベルには勝てねぇってのかよ!!


 苛立ちのまま腕を振り下ろせば、ベッドにボスッと穴が空いた。

 とそこで、耳にお決まりの足音が入ってくる。ほどなくして、部屋の扉が開いた。


「!……ユージュン!!」


 患者部屋に現れたユーリンは、俺の姿を確認するなり表情を明るくさせ、勢いよく抱き付いて来た。


「良かったぁ!!覚えてる!?戦闘訓練中、私のジンシューが後頭部に当たっちゃって、昏倒してたんだよ!?全然起きないから心配で心配で……起きて本当に良かった!!!」


 毎度同じ文言。人生を十一回繰り返してきたわけだが、ユーリンはどの人生でも全く変わらなかった。月猫族とは思えない程甘くて、戦闘嫌いで……側に居ると落ち着く奴。


「…………ッ」


 護ると決めたのに、死なせたくないと思っているのに……俺は結局、一度たりともユーリンを生かすことができなかった。

 前回の人生では全てをユーリンに打ち明け、ウニベルが仕掛けるよりも先に二人同時に奇襲をしたが……結果は明白。ウニベルに擦り傷一つ負わせることすらできず、俺達二人は呆気なく殺された。それどころか、命懸けの緊迫した戦闘は、ユーリンの精神に大きな負荷を掛けてしまい……最終的にユーリンの心を壊してしまった。


 ……何をやってんだ、俺は……。


 目の前のユーリンと、あの日……俺の腕の中、笑って死んで逝ったユーリンの面影が重なる。


 ……『ユージュン……ごめ、ね……大、好きッ、だ……よ…………』


 謝るべきは俺の方だ。

 何一つ成し遂げていない。

『逃げろ』というユーリンの最期の願いを……決死の覚悟を踏み躙っておきながら……

 母星こきょう

 同種なかま

 ()()()()一人、ろくに護れない。


 ……『其方達は滅び去る運命であると……』


 何度も何度も……。


「??……ユージュン、大丈……「何だってんだよ!!?」……ッ!?」


 知らない間に口から飛び出していた。

 ユーリンが目を見開いているのが見えるが、止まれそうにない。

 だって、そうだ。毎度毎度……もううんざりなんだ。


「ふざけやがって!!もう十分だろ!!充分愉しんだだろ!!これ以上、俺にどうしろって言うんだよ!!?何が『神の意志』だ!?死んだ後にしゃしゃり出て来やがって!!いい加減ウザってぇんだよ!!『滅びろ』って言うなら、さっさとりゃ良いだろ!!くだらねぇ腹いせしやがって!!何で……何でッ!!!」


 何でよりにもよって“俺”なんだ!?

 死んで過去に戻る度、俺は強くなった。最底辺の最下位戦士ゴミ最上位戦士ユーリンを越す程だ。

 もっと潜在能力の高い奴であれば……それこそユーリンなら、ウニベルを倒せる程の力を手に入れることができたかもしれない。

 何度もウニベルと闘ってわかっていた。

 ウニベル(アレ)は人間が届く次元レベルの存在じゃない。奴の前ではどんな人間だってゴミのようなモノだと……。

 それでも確信して言える。

 月猫族らしくないユーリン(あいつ)だからこそ、きっと……。


「……大丈夫。大丈夫だよ」


 ふと、ユーリンの胸に抱き締められた。

 一体何が『大丈夫』なんだ?

 大丈夫なことなんて何もない。

 どうやったって勝てない。

 俺じゃウニベルを倒せない。

 最初はなから負けると思って挑んだことは一度もない。十一回分の人生全て合わせてもだ。

 それでも……どれだけ強くなっても、毎回手も足も出せずに殺されれば、どうしたって身体が理解する。

「大丈夫だよ」と、もう一度ユーリンが耳元で呟いた。


「ユージュンが何に悩んでるのかは知らないけど……きっと大丈夫。ユージュンはいつだって、今すべき最善の行動を判断できる人だから」

「!…………」


 言われて、ハッとする。

 俺の……否、月猫族の誇り高き戦士の一人として、俺が今すべき最善の行動は何だ?


 ……母星こきょうを護ることでも、同種なかまを死なせないことでもない。例え月猫族の血が途絶えても、その誇りをけがさないこと……月猫族の誇りを最期の最後まで守り抜くことだ!


 『滅び去る運命』……確かにその通りだ。月猫族なら誰だって覚悟はしてる。

 相応の生き方をしてきた自覚がある。数百年もの間、他種族を害しながら生きてきた。

 だが、今まで散々勝手をしてきたからこそ、絶対に譲れないモノがある。納得できないことがある。

 どんな犠牲を払うことになったとしても、どんな手を使っても、ウニベルだけは月猫族の手で討つ!絶対に!


「ユージュン?」


 ユーリンの不安げな声が耳に入ってきた。

 スッキリした心持ちで顔を上げれば、ユラユラと揺れている薄紅色の瞳と目が合う。


 ……もう一つすべきことがあったな……。


 俺はユーリンの髪を結んであるリボンを手に取った。瞳と色合わせしたリボンが金の髪に良く映えている。その純白の服よりも、よっぽどかユーリンに合っていた。


『白い服』


 月猫族で『白い服』というのは特別な意味を持つ。月猫族最強の戦士としての証であり……何よりその昔、伝説の戦士“白虎”が身に纏っていた服の色でもあった。

 月猫族の中で唯一人、最強の戦士だけが白い服を着れるのも、白虎伝説から始まったモノである。

 しかし、ユーリンにとっては荷が重い色だろう。その服の色の所為で、戦場に出向くことを強制されているようなモノなのだから。


「……ユーリン、俺がの服、貰ってやる」

「……え……??」

「俺がお前の代わりに月猫族最強の戦士になってやる。だからもう闘わなくて良い。誰も殺そうとしなくて良い」

「!…………」


 もう二度と、ユーリンに『命を賭けて闘う』なんて選択をさせない。

 運命みらいを知ってるのは俺だけで良い。

 どんな結末を迎えることになったとしても、ユーリンだけは絶対に闘わせない。ユーリンが闘わなくて済む未来を、俺が作ってやる。


「ユー、ジュン?いきなりどうしたの?そ、その……勿論嬉しいんだけどさ!?な、何て言うか……素直なユージュンって不気味って言うか……違和感って言うか……ハッ!やっぱり脳に異常が!?ど、ドクター呼ばなきゃ……」

「喧嘩なら買うぞ、テメェ」


 散々な言われ様だ。

 ユーリンは「あはは」と笑ってるが、正直相手がユーリンでなければ殴り飛ばしている。


 ……ったく、こいつは……。


 呆れながらも、俺はユーリンの纒う“白”を見つめた。

 何回も人生を繰り返して来たわけだが、俺は唯の一度も“白”を着たことがない。

 実力がユーリンを越えたと言っても、死ぬ度に他の連中の記憶はリセットされるのだから当然だ。対ウニベル戦でいっぱいいっぱいの中、他の月猫族達と手合わせしている余裕もない。

 俺は変わらず最下位戦士のまま、弱さと隷属の象徴である青い衣に身を包んでいた。


 ……ユーリンを闘わせない為だが……着れば、何か変わるか……。


 最強を示す色……その昔、伝説を築いた者の纏った色。

 何らかの恩恵を期待して……自分らしくない考えに、フッと笑ってしまった。


 ……もう、やるべきことを見失わねぇ。俺は月猫族の戦士として、その誇りを最期まで護り抜く!!


 そうして十二回目の人生が幕を開けた――。

読んで頂きありがとうございました!!


今作は、カラーリングと言いますか……服の色や宝石の色など、とにかく身に纏う“色”を重要視して書いているのですが、よくよく考えれば月猫族の服の色について詳しく説明したつもりで、ちゃんと本文で書いたことが無かったことに気付きました……笑

ので!説明します!!


月猫族は身分によって、身に付ける服の色が決まっています。


下位戦士……青を基調とした服に、帯やボタン留め、服のラインなどは黒。それ以外の色は絶対に身に付けてはいけない。


上位戦士……服や帯の色は自由(自身の強さの象徴として、自分の瞳と同じ色を基調にする奴が多い)。ボタン留めや服のラインは金色。黒や青を身に付けても良いが、その二色は“弱さ”の証なので、基本誰も着たがらない。何色でも着て良いが、唯一白色だけは身に纏うことを禁止されている。


最上位戦士……月猫族で唯一人、白色を基調とした服を身に付けることを許されている。というよりも、白を纏うことを強要されている。白色ベースなら、他の帯やボタンなどは何色でも構わない。(ユージュンは下位戦士なので、ラインやボタン留めは黒色のまま)


ちなみに帝国軍の人間は、全員青を基調とした服を着用しています。強要ではないが、支給されている戦闘服が青しかないです。帝国の人間で青以外を着ているのは月猫族だけでした(月猫族側のちょっとした反抗心です)

ですが、月猫族の下位戦士が青を着るのは、帝国軍の影響やウニベルへ喧嘩を売っているとかではなく、帝国が台頭する遥か昔からの制度です。何故黒だけでなく、青が弱さの象徴なのか……理由は現代にまで伝わってないです……


そんなこんなで裏設定でした!

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