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決戦前譚 

 ヴァルテン帝国基地惑星の一つ。任務を終え、次の仕事まで暇を持て余している化け物が四匹居た。


「あぁ〜〜〜〜!!暇ぁ〜〜〜〜!!」


 身長よりも大きなクッションに身を投げ出し、魚人種……それも鮫人間の男が唸る。

 青み掛かった灰色の髪は毛先に行くほど黄色へグラデーションになっており、クリクリと大きな瞳は深海を思わす紺。ヒレ耳に水掻きの付いた手、触れるだけで切れてしまいそうなギザ歯。胸元に輝くブローチは黄石。“黄龍おうりゅう”カノンである。


「おい、カノン!だらしないぞ!いついかなる時も四龍としての自覚を持ち、背筋を伸ばせ!!」


 ハスキーな声で叱咤が飛ぶ。

 腰まである漆黒の長髪。深緑の涼やかな瞳に、キリリと吊り上げられた美眉。百獣の王の印である耳と尾を持つ黒獅子の男……“黒龍こくりゅう”の名をウニベルに与えられたエスパーダだ。青い騎士服の胸元には、漆黒の石を嵌め込んだブローチが、まるで勲章のように光を放っている。


「相変わらずエスちゃんは真面目さんねぇ〜!う〜ん、そういうの好みよ〜ん!」


「ウフッ」と図体に似合わぬ甲高い声で、鰐人間の巨漢がエスパーダに投げキッスを贈った。

 縦ロールにアレンジされた黄緑色のウェーブヘアに、鮮やかなオレンジ色の瞳。あかで引かれたアイラインとマスカラで強調された下まつ毛、唇も目を惹く濃いあかで彩られているが、バッチリメイクを決めている顔面とは対照的に、腕や脚などは石が浮き出たようなゴツゴツとした肌をしていた。フリルとレースをふんだんに使ったド派手な青い戦闘服……その胸元ではあかい石が一際目立っている。アルマ……四龍の一角“緋龍ひりゅう”である。


「てか、マジで暇なんだけど〜!こんなに待つなら、もっと遊んでから惑星破壊すれば良かったじゃ〜ん!」


 身体を覆ってしまいそうな一対の翼を持つ鳥人種……鷲人間の男が不満を口にする。

 明るい茶髪は一房だけ白が混じり、吊り上がった細目は藤色をしている。口調同様、随分と幼い見た目をしているが、足の鉤爪や鋭利な牙が物々しい雰囲気を感じさせていた。名をランチェ。“白龍はくりゅう”の名を持ち、その胸元を飾るは神秘的な白い石だ。

 この四人こそ、ヴァルテン帝国皇帝ウニベルが誇る最強の特攻部隊……“四龍”の四人であった。


「あらダメよぉ〜。『遊び過ぎるな』ってウニベル様からの命令なんだからぁ〜ん」

「って言ってもさ〜……ほら!カノンなんて、暇過ぎてクッション食べてるじゃん!!」


 嗜めるアルマに口を尖らせれば、ランチェはビシッとカノンへ人差し指を突き付ける。

 カノンは気にせず、そのギザギザと尖った歯でクッションの綿を部屋中に散らしていた。


「うぅ〜、食べてない!壊してるだけ!どうせ食べるなら、カノは肉が良い〜!!できるだけ油の乗った食べ応えある奴!!」

「もう!カノちゃんってば、欲しがりさんなんだからぁ〜ん」

「えぇい、貴様ら!!弛んでるぞ!!そんなことでは、ウニベル様から命が下された時、素早く出動できんだろ!!」

「「エスうるさ〜い!!」」


 とてもじゃないが最強の四人組とは思えない空気感を出して、わちゃわちゃと言い合っている四人。

 そこに一人、帝国の末端兵が慌てた様子で駆け込んで来た。


「し!四龍様!!大変です!!帝国本部ともウニベル様とも……否、帝国軍全ての通信機が一切繋がりません!!」

「「「「!?」」」」


 八つの瞳がギョロリと末端兵に向けられた。

 最初に反応を示したのはエスパーダだ。


「何だと!?どういうことだ!?……ウニベル様!!ウニベル様!?」


 焦って自身の通信機を試してみるが、コール音が鳴り続けるだけで、ウニベルが出る気配は微塵もなかった。

 どうやら兵の言うことは本当らしいと理解したところで、ランチェが「だから全然ウニベル様から次の指示が来ない訳?」と愚痴が飛ぶ。


「そうねぇ〜ん。待たされるのは割といつものことだけど〜……本城に戻れば何かわかるんじゃないかしらん?」

「よっしゃー!じゃあ本城行こう!!」


 アルマの提案に、すぐさまカノンが乗ってくる。

 だが、兵の男から「そ、それが」と大変言い辛そうに制止が掛かった。


「う、宇宙船も機能が停止しておりまして……」

「「「「!!!???」」」」


 通信機に引き続き、有り得ない報告に今度こそ四龍達の動きがピタリと止まった。

 男はしどろもどろになりながら続ける。


「す、少なくともこの基地に在る全ての宇宙船が起動せず、…そ、それどころか通信機、宇宙船を始め……こ、コンピューター系は全て反応がなく……お、恐らく司令塔のメインコンピューターに不具合が起きたのだと……」

「……機械類が全部駄目になったってこと?」


 ランチェからの確認に、真っ青な顔で兵が「はい」と縮こまりながら頷く。


「機械類……カニック星人達がミスを犯したのかしらん?」

「えぇ〜!じゃあカニック星人、皆殺しにしよう!!」

「えっ、良いの?帝国の科学力はカニック星人で殆ど賄ってるのに?」


 カノンのぶっ飛んだ発言に、珍しくランチェがまともな切り返しをした。

「エスちゃん、どうするのん?」とアルマがエスパーダに視線を遣る。エスパーダならきっとカノンを止めるだろうと思ってのことだったが……だがしかし。

 今まで黙って固まっていたエスパーダは途端に身体を震わせると、バンッとけたたましい音を立ててテーブルに両手を突いた。

 そして一言……


「皆殺しだ!!!」


 冷静さの欠片も残ってない瞳で宣言した。

 ズルッと肩から転けそうになるアルマとランチェ。喜んでいるのはカノンだけで、報告に来た兵士はエスパーダの憤怒に当てられて、あまりの恐怖に涙目となっている。


「ウニベル様に多大なる迷惑を掛けておきながら、生き永らえる選択肢など存在しない!!直ちに本城へ帰還し、カニック星人共を血祭りに上げてやる!!」

「おぉ〜!!!」


 怒りに燃えるエスパーダと、漸く舞い込んで来た退屈凌ぎにテンションを上げるカノン。

 二人を見つめながら、ランチェはアルマに「ねぇ」と耳打ちする。


「止めなくて良いの?アレ……」

「そうねぇ〜ん。言って聞く二人じゃないし〜……本城に行けばウニベル様がいらっしゃるわぁ〜ん。ウニベル様に止めて貰いましょ」

「それもそうか」


 そんな訳で、今にも帝国の本拠地に殴り込みに行きそうなエスパーダとカノンを、放置することに決めたアルマとランチェ。四人は基地内から外へ出ようと窓へ向かう……その時だった。


「「「「!!」」」」


 四人が一斉にある一点の方へと視線を向ける。

 そのすぐ後に、パリーンと窓ガラスが割れる音が響き、窓枠に足を掛けてウニベルが室内へと入って来た。

 ウニベルが来ることを察知していたのか、四龍は驚きもせず、膝を着いてこうべを垂れる。


「ウニベル様、まさかウニベル様の方からおいで下さるとは……我々も不測の事態に気付き、今しがた本城へ帰還しようと思っていた所存であります。遅れてしまい申し訳ありません!」


 深々と頭を下げ、エスパーダが謝罪を述べる。

 しかしウニベルは謝辞など聞いていない。一言でわかる不機嫌な声音で、「お前達」と四龍へ告げた。


「例の難民の星へと向かいな」

「『例の』……と言うことは、リーファが潜んでいた無人星のことでしょうか?」


 エスパーダが聞き返せば、ウニベルは抑揚のない声で「そう」と金色の瞳を怪しく光らせる。


「詳しいことは後で話す。難民共を皆殺しだ」



 *       *       *



「ウニベルが四龍と合流したようだ。だが……四龍は地球に向かって来てるが、ウニベルは方向が違う。恐らく帝国本拠地に向かってるんだろう。四龍の到着は五日後ってところだな。ウニベルもこのスピードなら、本拠地から地球まで来るのに三日あれば十分だろう」


 ウニベル達の通信機反応を確認しながら、メガがリーファ達四人に告げる。


「『五日後』……ウニベルも本拠地の確認が済めば、地球にやって来るだろうし……そのスピードなら、四龍と大して時差なく地球に到達するかもね。泣いても笑っても、五日後に全てが決まるってことだ」

「おぉ、いよいよ決戦ってわけだな」

「緊張しますけど、でも絶対に負けません!」


 シア、リュカ、アゲハが真剣な面立ちで握り拳を胸の前に持ってくる。

 そんな中、リーファは一人瞼を閉じた。


 ……『五日後』……ユージュン……皆…………。


 静かに息を吐き出せば、リーファは「良し」とシア達を見遣った。


「戦闘訓練だ。五日間、みっちりしごいてやる!」

「「「うん/はい/おう!!」」」

読んで頂きありがとうございました!!


到頭、次から決戦編です!

ですがその前に!次話からユージュンの番外編が始まります!この物語の根幹に繋がる話なので、過去一長い番外編です。

番外編終わった後は一週間休載して、最終章に入らせて頂きます。

次回もお楽しみに!


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