絶望と希望
「まずはウニベルの超能力についてだ」
リーファによる敵戦力講座が始まったところで、シア達三人は「……超能力……」とそれぞれ反応を示した。
「流石に生身で星間移動できるくらいだし、むしろそうであって欲しいレベルだけど……やっぱり超能力者だったんだ」
「何だ、そこから知らなかったのか?」
リーファの問い掛けに、三人同時に首を縦に振る。
リーファもリーファで、ウニベルの超能力については幹部級以上の人間しか知らない情報だと思い出し、「まあ当然か」と話を続けた。
「奴の超能力の名は“生命喰い”……その名の通り、ありとあらゆる生命体からエネルギーを奪い取って、自分の力にすることができる。動物も植物も、大地も水も、惑星すら奴にとっては食料だ。とにかく無敵だな。今までどれだけのエネルギーを喰ってきたかは知らないが、奴の強さは人間一人が持てるエネルギー量を遥かに超えてる。惑星を破壊なんて、人間業じゃないことを簡単にやってのけるのも、相応のエネルギー量を持ってるからだ。と言うよりキャッチアンドリリースだな。消したい対象からエネルギーを奪って、その奪ったエネルギー弾で心臓を壊せば終了だ」
リーファの説明に、三者三様絶望感を覚えた。
自身のエネルギーを消費することなく、相手を消滅させることのできる超能力。しかもエネルギーを奪える対象に惑星すらも含まれると言うのであれば、この宇宙の何処に居たとしても、常にエネルギー回復兼ステータス大幅アップが可能であるということだ。想像以上に、敵のボスは無敵である。
改めて、自分達が敵対している宇宙の皇帝の恐ろしさを知った。
「……んで厄介な事に、アイツは奪ったエネルギーを他者に与えることもできる。四龍が生身で星間移動できるのも、化け物レベルで強いのも、全部ウニベルからエネルギーを与えられてるからだ。どれくらい与えられるかはソイツ自身の許容量に拠るらしいが……四龍に与えられたのは惑星一個分。人間如きが母なる惑星様に勝てる訳がない……ウニベルにも言えることだが、四龍に挑むってのは、蟻が象を倒そうとするのと同義ってことだな」
何とも無情な現実である。
リーファの話が全て真実なら、ウニベル討伐どころか、四龍討伐すら夢のまた夢だ。
リーファの言う通り、人間が惑星に勝てる訳がない。勝負を挑めるモノですらない。それだけ惑星と言うのは人間にとって……否、全ての生命にとって偉大な存在だ。
「……ちなみにさ、エネルギーを奪われたらどうなるか……とかわかる?」
恐る恐るシアが尋ねる。
聞きながらも、答えなど薄々わかっていた。
何せウニベルは相手のエネルギーを複製して使ってるわけではない。“奪って”使っているのだ。
リーファはフッと嘲笑した。
「奪われる量にも拠るが……生物なら死ぬな」
無慈悲な宣告だ。
予想通り過ぎて、シアは乾いた笑みしか出ない。
「動物は痩せ細り、植物は干涸びる。生物以外も……大地はヒビ割れ、水は枯れ果て、惑星は“死の星”へと変わる」
ウニベル自身のバフ効果だけでなく、相手へのデバフ効果も満載と言う訳だ。
闘って殺される以前に、エネルギー奪取で死んでしまうことだろう。
淡々と絶望に絶望を塗り重ねていくリーファは、何故か不敵な笑みで「わかったか?」と腕を組んでシア達の顔を覗き込んだ。
「私達が敵に回してるのが、どんな化け物か」
「「「………………」」」
何も応えられないシア達。
『四人掛かりでも絶対に勝てない』とリーファが言い切る理由を、三人が痛いくらい理解したところで、「ここからが本題だ」とリーファは空気を切り替えた。
「ウニベルはともかく、四龍の強さは所詮仮初の貰い物。化け物レベルから人間レベルまで引き摺り下ろせば良いだけだ」
「そんなことできるの?」
シアが聞き返す。リーファは「ああ」と非常に悪い笑顔で頷いた。
「ウニベルは奪ったエネルギーをそのまま自分の身体で循環して、好きに使うことができるが……他の奴らは違う。自分達の超能力じゃないから、体内で膨大なエネルギーを循環し切れない。エネルギーを結晶化し、その宝石を媒体として身に付けることで、初めてエネルギーを自分のモノとして使うことができるんだ。四龍もソレは変わらない。ウニベルから貰った、惑星一つ分のエネルギーを結晶化させた宝石を、常に肌身離さず持ってる。言い換えれば、そのエネルギーの結晶体さえ無くなれば、四龍は惑星のエネルギーを使えなくなるってことだ」
「まるでパピヨン星人の“エルピス”みたいですね」
アゲハが感想を告げる。
他から集めたエネルギーを宝石にする能力……ウニベル自身は一々結晶化せずとも力を使えるらしいが、確かにアゲハの言う通り似通っている部分があった。
“エルピス”が何なのか知らないリュカは、頭に疑問符を浮かべながら「まあつまり」とニッと歯を見せる。
「四龍の持つ『結晶』ってヤツを壊せば良いんだな?」
リュカからの確認に、リーファは「そういうことだ」と笑って告げた。
漸く一筋の希望が見えてきた。
「そういうことなら」とシアも表情を明るくさせる。
「まずは結晶の見た目を把握しないとね。常に身に付けてるなら、アクセサリーとしてってことでしょ?何処に付けてるとか、リーファ知ってる?」
「ああ。見た目はひし形で、それぞれ黄、黒、赤、白色の石だ。全員ブローチとして胸元辺りに付けてる」
「了解!じゃあ四龍相手なら、その胸元のブローチを狙おうか。……そう言えば“エルピス”で思い出したけど……アゲハ、ジムを倒した時“エルピス”の剣使ってたよね?今“エルピス”全部リーファにあげちゃってるけど、四龍達と闘うなら返して貰った方が良いんじゃない?」
シアがアゲハに提案する。
他の三人はともかく、アゲハの元々の実力は幹部よりも弱かった。四龍より遥かに劣る幹部よりも、だ。勝てたのは、アゲハの希望を諦めない心に、“エルピス”が力を授けてくれたからである。
その“エルピス”が手元にない以上、アゲハが四龍と闘うというのは、些か無謀過ぎるのではないか。
心配するシアをよそに、アゲハは小さく首を横に振った。そして右手を前に出すと、瞼を閉じる。その瞬間、アゲハの右手には眩く一振りの剣が握られていた。塚の形が“エルピス”と同じ……間違いなく、あの時ジムを倒した剣だ。
「“エルピス”持ってなくても、その剣出せるんだ」
シアが感心したように呟けば、アゲハは「ええ」と剣を仕舞った。
「シアさん達がパピヨン星から出た後、剣の稽古をしていたら自分の意思で自由に出せることに気が付いて……なので、ご心配には及びません」
「そっか。あ、そうだ。“エルピス”と言えば……はい、リーファ。返すね」
思い出したかのように、シアが懐から“エルピス”を吊るした首飾りを取り出し、ソレをリーファの首へと掛ける。
リーファはキョトンとした表情から、すぐにジト目をシアへ向けた。
「……そう言えば、ジアンが地球にやって来た時からなかった……何でお前が持ってるんだよ」
「リュカが帰った後、リーファ倒れちゃったでしょ?流石に寝てる時に首飾りしてたら危ないから、ベッドのサイドテーブルの上に置いてたんだよ。でもほら、俺の家木っ端微塵になっちゃったからさ。ジアンの宇宙船探す時に近く通ったら、瓦礫の中で“エルピス”が光ってるの見つけて、そのまま預かってたんだよ。『リーファを無事助け出せますように』って願掛けも込めてね」
シアの説明に納得したリーファは、“エルピス”の首飾りを服の下に入れ直す。
とそこで、リュカが「なぁ」と堪らず声を上げた。
「さっきから言ってる『エルピス』って何なんだ?」
リュカが尋ねる。そう言えばリュカは知らない話だったと、アゲハは「“エルピス”と言うのはですね」と説明を始めた。
* * *
「……というわけです」
エルピスの大まかな概要を話し終わるアゲハ。
リュカは両目を皿のように丸くし、無言のまま小刻みに肩を震わせ……そしてガシッとアゲハの両肩を思いきり掴んだ。
「……ッ正に“正義のヒーローの変身アイテム”じゃねぇか!!お、俺!俺が“エルピス”に選ばれる可能性はありますか!?」
興奮のあまり敬語になってしまうリュカ。その瞳は類を見ない程光り輝いている。
勢いに気圧されながらも、アゲハは「否ぁ」と言葉を濁した。
「あくまで“エルピス”の意志で決まるモノなので、僕には何とも言えませんが……可能性自体はありますよ。パピヨン星人でなくとも、“ホープファイブ”になれますから」
「おお〜!!り、リーファ!もう一回“エルピス”見せてくれ!!“エルピス”に直接頼んでみる!!」
「…………」
リュカの熱烈な視線とは対照的に、リーファは非常に冷ややかな目をリュカへ向ける。華麗に申し出を無視すれば、「んなことより」と話を戻した。
「随分と余裕そうにしてるが……お前ら、気合い入れろよ?確かに結晶を壊せば、四龍は弱体化するが……正直この実力差で結晶を破壊できれば強運だ。油断だけはするんじゃないぞ」
「「「うん/はい/おう!!」」」
リーファに言われた通り、喝を入れ直す三人。しっかりと表情を引き締め直した。
そして、キリリと凛々しい表情でリュカがリーファの肩に右手を乗せる。
「頼む。“エルピス”見せてくれ!」
「………………」
リーファが呆れ返ったのは、言うまでもない。
読んで頂きありがとうございました!!
やっと出ました、ウニベルの超能力!
説明が難しくて(特にエネルギーの結晶体のところ)……どう書けば読者様にわかり易く、加えて自然な会話文になるだろうと四苦八苦しながら書きました。お陰でところどころ読み辛い箇所があると思われますが、まあ全てフィーリングで読んで頂ければ充分です!
次回もお楽しみに!




