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死刑宣告 

「それはそうと……ウニベルが異変に気付いたら、多分地球に向かって来ると思うぞ?良いのか?」


 元捕虜達の熱烈な視線を無視スルーしながら、リーファが真剣な表情で切り出す。

 リーファ達を帝国から助け出したは良いが、本当に大変なのはこれからだ。

 完全にウニベルを敵に回してしまったのである。いくら問題発覚までの時間稼ぎができてると言っても、そんなモノはただの一時凌ぎでしかない。

 リーファの逃げる場所さきが地球しかない以上、必ずウニベルは地球にやって来る。そうなれば、地球丸ごと戦場と化すのは火を見るより明らかだった。

 そのことをよくわかった上で、シアは「大丈夫」と胸を張る。

 シアの後ろに並んで立っているアゲハとリュカも、一切焦りのない表情で笑っていた。


「実は通信機の他にも、もう一つ仕掛けをしてるんだ」

「『仕掛け』?」


 首を傾げるリーファ。

 シアは「うん」と頷くと、意気揚々と語り始めた。


「実はね、カニック星人の人達に『帝国から避難する時、帝国軍の全ての宇宙船の機能を停止させて』ってお願いしてたんだ。ウニベルが食料庫の惑星ほしに着いたと同時に機能停止するよう仕込んで貰ってるから、後一時間くらいで帝国全ての宇宙船が動かなくなる。ウニベルも四龍も、他の帝国軍達も皆!もう現在地から動けなくなるってわけ。だから地球は安全だし、万が一にもウニベルと四龍を同時に相手しなくて済む!」


「凄いでしょ!?」と言わんばかりに、シアが自信満々に宣言した。

 後方二人もウンウンと首を縦に振る中、リーファはポカンと何か言いたげに惚けていた。「あー……」と言い難そうに口を開ければ、ポンとシアの肩に右手を置く。


「ウニベルは生身で宇宙空間を移動できるぞ?」

「「「え?………………」」」


 三人の声が揃った。

「知らなくても無理はないが」とリーファは続ける。


「ウニベルはどんな場所でも生きていける。それこそ宇宙空間でもな。基本的に何も食べなくても水だけで生きていけるし、酸素も必要ないし、重力がなくても思い通りに身体を動かすことができる。寒さや暑さにも強いな。氷水やマグマの中にも平然と入っていけるし」

「……ソレって人間の枠超えてない?」

「だから最初から言ってるだろ。アイツは人の皮を被った“化け物”なんだよ」


 シアのツッコみに対し、リーファが無慈悲に告げる。

「まるでカミサマですね」と一周回って遠い目をしているアゲハに、リュカが「カミは神でも邪神だな」と強がりの笑みを浮かべた。

 現実逃避もそこそこに、「つまり」とアゲハが立てた人差し指を空へと向ける。


「ウニベルは生身で地球までやって来るということですか?」


 苦笑いと共に恐る恐る確認すれば、リーファから「確実にな」と残酷な答えが返ってきた。「あはは……」と乾いた笑みがアゲハの口から溢れる。


「ソレってどれくらい掛かるんだ?まさか宇宙船より速いなんてことはねぇよな?」


 リュカも冷や汗を浮かべて尋ねた。

 この際「宇宙船より速いです」と言われても、最早驚かないだろうが念の為だ。

 しかし喜ばしいことにリーファは「安心しろ」と微笑む。


「流石に宇宙船よりかは遅い。つか速かったら、わざわざ普段から船で移動する必要がなくなるしな。それでも旧型の宇宙船くらいのスピードはあるが」

「「「………………」」」


 前置きの『安心しろ』は一体何だったのかと思わせる余計な一言が語尾に付いた。

 何一つ安心要素がなくなり、「何気にマズい事態なのでは?」とアゲハがシアを見遣る。「そうだね」とシアも事態の深刻さを素直に認めた。


「宇宙の皇帝サマを甘く見過ぎちゃってたなぁ」

「否、見てねぇだろ。誰が生物の理からかけ離れた化け物とり合う前提で作戦立てたんだよ。明らかにウニベルの異常さが異次元なだけだろ」


 リュカのツッコみも最もだが、どちらにせよウニベルの能力を低く見ていた事実は変わらない。

「参ったなぁ」とシアが後頭部に腕を回す。


「地球は安全だと思って、皆地球(ここ)に連れて来ちゃったけど、返って危険だね。地球の皆はともかく、元捕虜の人達だけでも逃がす時間があれば良いんだけど……」

「逃がす時間もそうですけど、避難先を見つけるのも一苦労ですよ。いざとなればパピヨン星で受け入れますけど……この人数を賄える物資があるかと言われればちょっと……」


 シアとアゲハが頭を悩ませる。

 その時だった。


「お!おいお前ら、ウニベルが移動し始めたぞ!!」


 モニターでずっとウニベルの通信機反応を見ていたメガが、リーファ達へと声を張る。

 それぞれピクリと耳を反応させ、リーファ達はメガの周りへと集まった。


「ほ、ホントに生身で……しかも宇宙船無しでこのスピードって……」

「ん?でもこの方向って地球じゃなくねぇか?」


 若干引いているアゲハの隣で、リュカが指摘する。

「本拠地惑星に向かってるのかも」とシアが予想すれば、メガは「否」とモニターに映っている地図を縮小させた。


「この方向は……リュカの言ってた基地惑星の一つだな。しかもその基地には、四龍の通信機反応が四つ揃ってる」

「「「「!!」」」」


 四人一斉に目を見開く。

 ウニベルの向かっている先に四龍が揃っている……考えられる可能性は一つだけ。

 アゲハが「あ、あの……」とリーファに視線を向ける。


「ね、念の為の確認なんですけど……四龍まで宇宙空間を生身で移動、なんてできません……よね?」

「……できる」


 考え得る限り最悪の答えだった。

 視線を逸らして答えるリーファに、アゲハの顔が完全に蒼くなる。

 リュカは何とも言えない表情のまま固まっており、シアはあまりの非情事態に苦笑しか出ないようだった。


「……ば、化け物集団かよ……」


 フリーズから元に戻ったリュカが、ボソリと呟く。


「つまりウニベルは四龍を引き連れて、この地球に向かおうとしてるわけだ」


 シアが状況を纏めた。

 ウニベルと四龍……合わせて五人の化け物と全面戦争。しかも戦場は我らが第二の故郷……地球。一番避けたい事態だったが、こうなっては仕方がない。

 泣いても笑っても、立ち向かうしかないのだ。平和な宇宙みらいを手に入れる為に。

 それぞれ覚悟を決める中、ふとアゲハが「リーファさん」と手を挙げる。


「……四龍の強さはどれくらいなんでしょう?僕達四人で対処できると思いますか?」


 当然の質問である。

 まずは敵の戦闘力と、己との差を把握することが一番の急務だ。

 シアが「そう言えば」と、過去のリーファとの会話を思い出す。


「リュカが初めて地球に来た時、同じ質問リーファにしたよね?あの時は確か『二人掛かりでも絶対に勝てない』って言ってたけど……」


 ……「現在いまはどうなの?」とシアもアゲハに続いた。

 現在いま過去あのときは違う。色々と修羅場を乗り越え、リーファ達も少しずつ強くなっている。ソレはアゲハとリュカも然り。

 だがしかし、リーファは首を横に振った。


「変わらない。例え四人で掛かっても、四龍の一人にすら及ばない。ソレが現実だ」


 半分死刑宣告のようなモノだ。

 シンと場が静まり返る中、「でも」とリーファが笑う。

 その真紅の瞳は光を失ってはいなかった。


「倒す術がないわけじゃない!ウニベルと四龍の化け物染みた強さの理由、教えてやるよ」

「「「…………」」」


 ゴクリと、誰とも知れない唾を呑み込む音が、やけにハッキリと空気中に響いたのであった。

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