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ただいま 

「……これはこれは…………」


 ヴァルテン帝国が保持する植民星……その内の一つである食料庫の惑星にて、ウニベルは薄く冷や汗を掻きながら立ち尽くしていた。

 目の前に広がっているのは、真っ新に収穫された農地と無様に気絶している部下達。

 地面に転がる部下はともかく、明らかに反乱後の光景ではなかった。


「ウニベル様!保存庫に確保してある筈の食料も全て無くなっています!」


 惑星ほし全体を偵察しに行っていた部下が戻って来る。

 報告を聞きながら、ウニベルは一番近くに横たわっていた兵士を掴み上げた。


「……う、ウゥ……ハッ!う、ウニベル、様…………!?」

「報告しな。此処で何があったわけ?」


 どういう訳か意識が回復した兵士の男。

 労わる間もなくウニベルが問いただせば、男は「そ、それが……」と非常に言い辛そうに口を開いた。


「と、突然見知らぬ宇宙船がやって来て、中から三人……ま、間違いなく一人はリュカでした。それから絶滅した筈の陽鳥族と……記憶が正しければアレはパピヨン星人だったと……その三人が我々全員をあっという間に蹴散らして、奴隷共と食料を奪って行ったのです。も、申し訳ございませんッ!!」

「…………奴隷が反乱を起こしたわけじゃないんだね?」

「は、『反乱』?そのようなことは……」


 兵の答えに、ウニベルは「そう」と短く返した。「もう良いよ」と兵士の頭を離す。さっさと踵を返し、船へと戻って行った。


「う、ウニベル様。いかがなさいますか?まだ、残り二つの植民星の確認が済んでおりませんが……」

「この分だと、そっち二つも同じでしょ。それよりも『反乱起こされた』とか報告して来た奴を見つけ出して抹殺しろ。嫌な予感がする。さっさと城に戻るよ」


「ハッ」と部下が下がれば、ウニベルはドカッとソファに座った。その表情かおはいつになく険しい。


 ……何だ?この胸騒ぎは……否、ちょっと待て。陽鳥族……リュカの名に気を取られてたけど、さっき確かに『陽鳥族』と言っていた……リーファの潜んでた難民の星に生き残りが居た筈……まさか……否、城で何かあれば通信が入る。リーファの発信機だって問題ないし、何より難民ソイツらはリーファが殺してる筈だ。有り得ない……有り得ない、が…………。


 ウニベルが一つの可能性を思い付く。

 その時だった。

 先程命令を下した部下が、「ウニベル様!!」と大慌てで戻って来た。


「た、大変です!!どういう訳か宇宙船のコンピューターが完全に停止しており、司令塔に確認しようとしたところ……な、何故か通信機が一切反応せず…………」

「!!?」


 ウニベルが目を見開く。

 数秒フリーズするが、表情を元に戻すと手首の通信機を起動させ、『ジュンユー』の文字にカーソルを合わせた。結果はコール音が延々と聞こえるだけ。一向にジュンユーが通信に出る気配はない。

 何かが起こっている。

 ウニベルは無言のまま、暫くその場で天を仰いでいた。

 次第に肩が震えてきたと思えば、打って変わって大笑いを見せるウニベル。ビクつく部下もお構いなしに笑い続けた。

 そして、丸々一分後。回線が落ちたかのようにシンと笑い声が止む。


「……はぁーーーー…………良い度胸だね。この宇宙の皇帝に喧嘩を売る馬鹿が、まだ居るみたいだ。大人しく隠れて生きてれば良いのにさ……」


 ウニベルが視線を地面に落とし、静かに告げた。気味が悪い程に、抑揚のない声だった。

 ウニベルが顔を上げる。見えた瞳は凍て付くような冷たい殺意を湛えていた。

 ソファから立ち上がり、右腕を真っ直ぐと前へ突き出す。正面の窓ガラスがけたたましい音と共に粉砕した。

 フワリと宙に浮かぶウニベル。


「……良いよ。今度こそ全部奪ってあげる。リーファには俺さえ在れば、それで良いんだ」


 独り言のように呟くウニベルに、部下の男が「う、ウニベル様?」と恐る恐る声を掛けた。

 ウニベルは応えることなく、割れた窓から外へ飛び出す。そのまま()()()宇宙そらへと飛び去った。



 *       *       *



 ウニベルが宇宙へと単身飛び立つ数時間前。およそ四時間の星間移動を経て、リーファ達は地球へと帰って来ていた。


「リーファ様だ!!リーファ様ー!!」

「ご無事で良かった!!リーファ様!!」

「幹部討伐、本当にお見事です!リーファ様!!」


 宇宙船から降りるなり、リーファは一斉に囲まれた。先に地球へと到着していた、元帝国の捕虜達である。

 生まれて初めて受ける歓待に、リーファは「????」と困惑したまま立ち尽くしていた。

 そんなリーファ達の様子を離れて見守っているシアもまた、ポカンと口を開け放っている。


「君達もそうだったけど……帝国で働いてた人達は、月猫族リーファのこと恨んでないんだね」


 シアが近くに居たマディシナとテムスに話し掛ける。二人は揃って「はい」と頷いた。


「帝国の捕虜となっていた者達の殆どの仇は、月猫族ではなくその他の幹部達ですから。月猫族がどういう種族か知らないわけではありませんが……少なくとも捕虜わたし達の中で、リーファ様を憎悪する者は居ません」

「あんな地獄のような場所に居て、それでもウニベルに折れることなく闘い続けるリーファ様は、捕虜わたし達の憧れであり……“希望の光”なんです。カニック星人の方達だけは複雑なようですけど……それでも帝国に居て、リーファ様を恨み続けるなんて無理ですよ」


 話を途中で区切れば、二人は人々に囲まれて困っている様子のリーファを見つめた。その眼差しは優しく、ある種の情を抱いているようだった。

「だって」とテムスが続ける。


「無理矢理働かされてる人達の中で、一番苦しい立場に居たのは……いつだってリーファ様でしたから。捕虜わたし達は能力を買われて捕らえられた分、同種の仲間はそれ程失っていません。働く場所も同じなので、励まし合うこともできます。それでもやっぱり……故郷を喪って、人権を奪われて……その上敵は『宇宙の皇帝』とすら言われる恐ろしい化け物で……誰だって絶望します。自死を選ぶ人達だって何度も見ました」

「なのに……同種なかま母星こきょうも、何もかも奪われながら……()()()()()を毎日受けながら……誰よりも苦しい筈なのに、リーファ様は一度だってウニベルに屈しなかった。ずっと希望まえだけ向いて進んでるんです。そんなの……応援しないなんて無理ですよ」


 二人の言葉と表情を受けて、シアはリーファを見遣った。


 ……『周りにどう思われようと関係ない。誰に受け入れられなくても構わない』


 かつてのリーファの言葉を思い出す。リーファだけでなく、ユージュンやユーリンも同じように、月猫族が他種族から受け入れられることを諦めていた。

 当たり前だとも、仕方のないことだとも思う。

 それだけ月猫族という種族の性質は、他種族の性質ソレと残酷なまでに違っているのだ。

 だからこそ、多くの人達に受け入れられているリーファを見つめて、シアは嬉しそうに微笑んだ。ふと、リーファと目が合う。

 リーファは宙へと浮かべば、すぐにシアの眼前まで翔け寄った。


「シア!お前、あいつらに何したんだ!?」

「……へ?」

「月猫族に友好的とかおかしいだろ!お前が何か吹き込んだんじゃねぇのか!?」


 リーファから詰め寄られるシア。

 当然だが、事実無根である。

 シアは両手を胸の前に出してリーファを制しながら、「どうどう」と苦笑いを浮かべた。


ひとのこと、怪しい宣教師みたいに言わないの。俺は何もしてないよ。皆から歓迎されてるのは、リーファがリーファ自身の頑張りで築き上げてきたモノだから。つまりね……皆、リーファのことが好きなんだよ」


 ニコリとシアが満面の笑みを見せる。

 リーファはキョトンと瞬きを繰り返し、すぐに頬を薄く染めて視線を逸らした。


「……変人ばっかりだ、お前らは……」


 照れているリーファを、シアが微笑ましく思う。とそこで、「あ、そうだ」と思い出したかのように声を上げた。「まだ言ってなかったよね」とリーファの両手を自身の両手で包み込むシア。


「おかえり、リーファ!」

「!……()()()()


 シアの笑顔に釣られるように、リーファもまた優しい笑みを浮かべるのであった。

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