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安心できる場所 

 リーファがヴァルテン帝国に連れられて三日が過ぎた。

 地球では、目元に隈を作った人達が宇宙船の前に集まっている。


「……やれるだけの()()は全部できた!皆、覚悟は良い?」


 シアが人々に呼び掛ける。

 アゲハもリュカも、町の人達も全員意気込みは同じだ。

 決意に漲った眼差しを一身に受けて、シアは「良しッ!」とリーファのリボンを自身の右腕に結ぶ。

 そして天高く腕を掲げた。


「作戦開始だ!!全員助け出して、皆生きて地球ここに帰って来よう!!」

「「「おぉーーーー!!!!」」」


 咆哮が天地を震わす。

 シェルターに保管していた地球の宇宙船、パピヨン星から帰る時に貰った宇宙船、そして今回アゲハとリュカがそれぞれ乗って来た宇宙船と、ジアンが使っていたヴァルテン帝国の宇宙船(改造済み)……合計五つの宇宙船に分かれて、救出班のメンバー達が乗り込んでいく。

 メガの作ったインカムを各自耳に取り付ければ、一斉に宇宙へと飛び立った。

 目指すはヴァルテン帝国本城。


 ……待っててね、リーファ。今行くから!


 シアは星宙ほしぞらを見据えながら、腕のリボンをギュッと握った。



 *       *       *



 ヴァルテン帝国本城地下、拷問部屋。

 十字の磔台に縛られたリーファの、浅い息遣いがか細く木霊していた。


「……ハッ……ハッ……ハッ……」


 元々色白だった肌が、今では生気を失い蒼白くなっている。至る所から滲んでいる血とのコントラストが、痛々しさを増していた。

 全身大怪我と言っても過言ではないが、包帯を巻かれている箇所は少なく、代わりに傷を覆う勢いで歯形や()()()()が散らされている。

 最早、半分意識を失っているような状態で、リーファはただただ呼吸だけを繰り返していた。


「……ねぇ、リーファ。もう充分でしょ?そろそろさ、俺のモノになってくれない?」


 ウニベルがそんなリーファを見つめ、柔らかく問い掛ける。

 しかし、リーファは頷かない。

 何処に余裕があるのか。焦点の合っていない瞳をギロリとウニベルに向け、衰えぬ殺気を纏いながら口を開いた。


「……ぜ、たいにッ……ごめ、だッ!……ハッ!……ハッ!…………」


 息も絶え絶えに、ウニベルを拒絶するリーファ。

「そう」とウニベルの抑揚のない声が、空気中に溶けて消えた。


「残念だね」

「……ンッ……ッ!」


 ウニベルがリーファの顎を指で持ち上げ、そのまま相手の唇と自身のソレをくっ付ける。

 全てを呑み込む勢いで深く口付けしてくるウニベルに、抵抗することもできず、リーファはされるがままだった。

 水音だけが静かな部屋内に響く中、ピピッとウニベルの通信機が鳴る。

 名残惜しそうに口を離したウニベルは、舌打ちを溢しながら「何?」と通信に出た。


『ウニベル様、一大事です!!帝国の食料を賄っている植民星、その全てで反乱が起きました!!』

「は?……どういうこと?」

『詳細はまだ……ただ奴隷達が一斉に監視役に襲い掛かり、溜め込んでいた筈の食料を食い散らかしていると……至急応援をとのことです!このままでは、帝国は著しい食料難を迎えることに……!!』

「はぁ!?城にだって食料庫はあるでしょ?蓄え、ない訳?」

『そ、それが……本日、植民星から一年分の食料を調達する予定でしたので……現状ではって数日分しか……』


 突然起こったトラブルに、ウニベルも表情かおを顰める。


 ……よりにもよって食料庫の植民星ほしで……俺は水だけで生きていけるし、最悪帝国の人間が全員飢え死にしても何ら問題はないけど……リーファの食料が確保できないのはマズいな、流石に……。


 何が何でも急ぎで解決しなくてはいけない問題だ。

 だが、そう簡単な話ではない。

 ヴァルテン帝国が食料庫として使っている植民星は全部で三つ。その三惑星全てで反乱が起きているとなれば、幹部一人しか居ないこの現状、人員が限りなく不足している。その上早く解決しないと、本当に帝国の食料が空になってしまうのだ。時間も緊迫している中、しかしただ反乱を鎮めれば良いだけではない。

 奴隷として働かされてる人々を、殺してはいけないのだ。あくまで暴動を鎮圧し、今まで通り従順に働いて貰えるようにする必要がある。


 ……四龍に行かせたら、折角の労働力が殺されるだろうし……ジュンユーに任せてたら、解決が遅れる……ジュンユーも性質タイプは四龍寄りだしね。殲滅以外の任務には向かない……面倒だけど、俺一人で片付けるしかないな。リーファと離れるのは嫌だけど、この状態で連れ出すのは流石にアレだし……ジュンユーに見張らせとけば、逃げられる心配もない……仕方ない、出るか……。


 ウニベルが重い腰を上げた。

 通信機の相手に「俺が行く。船の用意を」とだけ伝えて、ウニベルは部屋から出て行く。


「……ハッ……ハッ……ハッ……は…………」


 部屋内に一人取り残されたリーファは、扉の方へと目だけ向けた。

 部屋の外、扉の真正面にジュンユーが立っているのが、鉄格子の隙間から見える。


 ……ユージュン……。


 ミイラの如く包帯の巻かれた手を、痛みも気にせずリーファは握り込んだ。

 リーファの頭の中で、在りし日のユージュン達との記憶が甦る。



 〜       〜       〜



「……チッ!」


 ユージュンが舌打ちを漏らす。

 その後ろではリーファ達四人も眉根を寄せていた。

 彼らの目の前には、見慣れたファンの姿。だがその中身はファンではない。


「フフフ……ハーッハッハッハッ!!どうだ!?貴様達の仲間の身体を乗っ取ってやったぞ!?これで貴様らは手も足も出せん!!ハーッハッハッハッ!!!」


 ファンの中に入った男は、勝ち誇ったように高笑いを決める。その隣には、胸を貫かれたタコ人間が、苦悶の表情を浮かべてファンの姿を睨んでいた。

 このタコ人間とファンの中身が入れ替わっているのだ。ソレがタコ人間の超能力なのだろう。

 仲間の身体を人質に取り、リーファ達を倒してしまおうという算段だ。

 リーファは無意識の内に、奥歯を食いしばる。

 だがしかし、ユージュンは表情を変えなかった。


「……覚悟はできてるな、ファン」


 いつも通りの声音で、倒れているタコ人間の身体……もといファンへと投げ掛ける。

 ファンは額に脂汗を浮かべながらも、「ああ」と勝気に笑って見せた。


「と、ぜんだ!……れッ!ユージュン!!」


 ファンの声に、ユージュンは「応」と手の平にジンシューを生成する。


「なっ!?……嘘だろ!?同種なかまの身体だぞ!?本気で殺すつもりか!?」

「ソレがどうした。見た目が月猫族でも、中身が違うならソイツは月猫族でも何でもない。月猫族の誇りを持ち合わせてない野郎に、いつまでもその身体を使わせとく訳にいかねぇからな!」

「ま、待て!!ほ、ホントに……!!?」

「くたばれェエエエエエ!!!!」


 ユージュンがジンシューを放った。

 られる。

 明確な殺意を感じ取った男は、冷や汗混じりに慌てて両手指の節を合わせた。


「も、“戻れ”!!!」

「グァアアア!!」


 ファンの悲鳴が上がる。

 自分の身体に戻ったタコ人間は、信じられないことに胸の傷が完治していた。しかし精神から来るダメージにより、肩を上下させながら「信じられん」とユージュン達を睨み付ける。


「本気で同種なかまを……『悪魔』の種族め……」

「戻ったら、身体が完治する仕組みか。丁度良い。たっぷりお礼をしてやるぜ」


 ユージュンが琥珀の瞳をギラつかせる。

 堪らず男は「ヒィイ!」と、その場から逃げ出した。


「あー!ちょっと待ってよ!」

「ッ!?……ガハッ!!?」


 背中を思いきり蹴り飛ばされ、男は地面を舐めさせられる。ガクガクと震える腕を使って、自身を蹴った相手を見れば、その容姿に目を見開いた。

 女性と見紛う整った顔立ちをした月猫族……ファンである。


「……な、何故、生きて……!?」


 頭が混乱している男に、ファンは嘲笑うように「バーカ」と吐き捨てた。


「天下の月猫族が、ジンシュー一発でくたばるもんか!他種族おまえらとは身体の出来が違うんだよ!……まぁ、普通にめちゃ痛いけど……」


 ボソッと呟きながらも、ファンは指をポキポキ鳴らしてタコ人間に近付いて行く。


月猫族おれの身体で好き勝手しようとしたこと、後悔させてやるよ。侮辱されるのもバカにされるのも慣れてるけど……コレは流石に見過ごせねぇわ。月猫族の肉体からだを、その精神ほこりを汚したこと……死んで詫びろ!!」


 そしてファンはジンシューを撃った。

 たった一発。しかし煙の晴れた先に、男の身体は骨も残っておらず、焦げた跡だけが地面に残っていた。

 焦げ跡に向かって、ファンが「ベー!」と舌を出す。


「月猫族ナメるからだ、バカ野郎!」



 〜       〜       〜



 懐かしい記憶を思い出しながら、リーファは唇を噛み締める。


 ……情けない……ホントにッ……オレは……オレはッ……!


 瞼をギュッと閉じたところで、突然上の方から爆音が聞こえてきた。

 ハッとして、リーファが視線を上げる。

 当然天井が見えるだけで何もわからないが、それでも城中が騒々しくなっていくのが耳から伝わってきた。


 ……何だ?


 これ程城が騒つくのは、かつてリーファが仕掛けた爆弾を一斉起爆した時以来だ。

 とその時、ドゴンという衝撃音の後に、拷問部屋の天井からパラパラと土埃が落ちてくる。

 リーファの耳がピクリと反応した……と同時に、一際大きな破壊音と共に天井が崩れ落ち、リーファの目の前に純白の翼が舞い降りた。


「!…………う、そ……何で……」


 脳内処理も追い付かず、リーファがポカンと口を開け放つ。

 朱色の鮮やかな髪を靡かせて振り返れば、目の前に降り立った男……シアは満面の笑みを浮かべた。


「リーファ!!会いたかった!!」


 思いきりシアに抱き付かれる。

 軽く頭がパニックになるリーファだが、密着した身体からシアの体温が伝わって来ると、そのまま瞳を閉じた。


 ……あぁ……落ち着く……。


 強張っていた心と身体がほぐれていくのを感じながら、リーファはシアを受け入れるのであった――。

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