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番外編 イタガ星の最期《前編》 

リーファの過去、大詰めです。

イタガ星……そして月猫族の最期、とくとご覧あれ。

 十年前。リーファが六歳の時である。


「……きろ!起きろー!ユージュン!!」

「……ん……ぁあ……??」


 月猫族達の故郷、イタガ星の酒場にて。

 机に突っ伏して泥酔しているユージュンの身体を、リーファがグイグイ揺らす。先程から耳元で「起きろ」と叫んでいるが、ユージュンはふわふわと浮ついた返事しかしない。しかしリーファの喉を痛めた成果はあったらしく、漸くユージュンの瞼が持ち上がり始める。もう一息だと、リーファは「ユージュン!!」とユージュンの耳を引っ張った。


「もう仕事の時間過ぎてるぞ!!!起きろーーーー!!!」

「んん……し、ごと……?……!!?」


 ユージュンが飛び起きる。

 ジト目で睨んでいるリーファを見遣れば、「今何時だ?」と窓の外から漏れる陽光を確認して尋ねた。

 リーファは呆れた表情かおで酒場の時計を指し示す。


「もう十時だよ!!」


 仕事の出発時刻は、予定では九時半。三十分の寝坊である。

 二日酔いか、自身の不甲斐なさからか。ユージュンは額を押さえて、項垂れた。


「……ジン達は?」

「先に行った!」

「……あいつら……リーダー置いて行くかよ、普通……で、何でお前は居るんだ?」

「『ユージュンの付き添いしろ』って頼まれたんだよ!!任務前に朝まで飲みやがって!!」


 憤慨するリーファ。

 完全にユージュンに非がある訳だが、顔を上げたユージュンに反省している様子はなかった。大きな欠伸を一つ漏らして、ノロノロと立ち上がる。


「……今から行くぞ。侵略先は確か到着に一時間だったな。まあ間に合うだろ」

「ったく……」


 そうして、二人は遅れながらも任務へとイタガ星を後にした。



 *       *       *



 任務先の惑星に、リーファ達の乗っている宇宙船が着陸する。

 緑の少ないサバンナ地帯の惑星ほしのようだ。見渡す限りの地平線に、リーファが辺りを見回す。

 ユージュンは「良し」と通信機の側面に付いてあるスイッチの一つを押した。


「……東方向にジン達の反応がある。獲物全部()られる前にさっさと行くぞ」

「寝坊した奴が偉そうに言うんじゃねぇよ……」


 二人がフワリと宙に浮かんだ……その時である。

 突如二人の通信機が、ピピピと音を立てた。


『こちらヴァルテン帝国本部より。全ての月猫族に通達する。即刻イタガ星へ帰星しろ。繰り返す。任務を切り上げ、直ちにイタガ星へと帰星しろ』


 それだけ告げて、通信機は静まり返った。

 リーファが不可解そうに眉根を寄せる。


「んだよ、今の……とんぼ返りになるじゃねぇか。ユージュン、どうする?ファン達放って、先に帰るか?……ユージュン?」


 返ってこない返事に、リーファが顔をユージュンへと振り向ける。

 ユージュンは今まで見たことがない程張り詰めた空気を漂わせ、真剣な表情を浮かべていた。

 只事ではない雰囲気に、リーファは語気を強めて「ユージュン!」と再び名を呼ぶ。

 ユージュンは無言で通信機のスイッチを弄れば、ジン達が居ると思われる方向へと静かに身体を向けた。

 そして「リーファ」と、ゆっくり口を開く。


「ウニベルが()()月猫族(おれたち)を切り捨てやがった。このままだと、イタガ星諸共月猫族が絶滅しちまう」

「…………は?…………」


 リーファが間抜けな声を漏らした。

 突飛な話も良いところである。一体何をどう思考すれば、そんな考えに辿り着くのか。リーファは全く納得できない。

 だが、ユージュンが冗談を言う男でないことは、リーファもよく知るところだ。

 頭の追い付かない中、リーファはユージュンの横顔を見つめる。


「この惑星ほしにウニベルが来てる。ジン達の近くだ」


 言われて、慌ててリーファも通信機に付いてある『通信機反応探索装置』を作動させた。探る反応を『仲間チームメンバーのみ』から『周辺域全体』に設定変更すれば、確かに東の方向にジン達の他、ウニベル含めた帝国兵士達の反応が映っているのが確認できる。

 ウニベルが今まで兵達の任務先にやって来たことは一度もない。ついでに言えば、緊急召集命令が下ったことはあれど、帰星を命令されたことも一度もない。

 突如リーファ達の任務先に現れたウニベルと、『帰星命令』により一箇所に集めさせられている全月猫族。


 ……『ウニベルが到頭月猫族(おれたち)を切り捨てやがった。このままだと、イタガ星諸共月猫族が絶滅しちまう』


 ユージュンの言葉が、リーファの脳裏をよぎる。

 嫌な予感に、リーファも胸が騒つき出した。

 そもそも、先程から兵士達の反応は少しずつ移動しているにも関わらず、ジン達四人の位置はピクリとも動いていない。


「……もしかして、ファン達は……」


 口を開けるも、中々次の言葉が言えないリーファ。

 だがしかし、二人の頭に浮かんでいる答えは同じであった。

 ユージュンはワナワナと震える拳を握り締め、非常に冷静な声で「俺は」と告げる。


「ウニベル達の所へ行く。お前はここで、ほとぼりが冷めるまで大人しくしてろ。絶対にイタガ星に帰るんじゃねぇぞ」

「は?……ふざけんなよ!!?オレも一緒に行く!!ウニベルと闘いに行くんだろ!?二人で一緒にれば良いじゃねぇか!!」


 コレにはリーファも反抗した。

 しかしユージュンの考えは変わらない。


「ガキが生意気言ってんじゃねぇよ。ウニベルはテメェが思ってる何十倍も強ぇんだ。二人で行ったところで、勝てる確率は一パーセントもねぇ。俺にも勝てたことのねぇ奴は足手纏いにしかならねぇんだ!わかったら大人しくしてろ!!」

「ッ……じゃあこのまま敵前逃亡しろって言うのか!!?確かにまだガキだけど、オレだって月猫族の戦士だ!!黙ってられるかよ!!」

「テメェは“()()”だろ!!他の奴らが全員死んだとしても、テメェだけは生きなきゃいけねぇんだよ!!」

「だから何だよ!!?一人だけ生き残って、何の意味があるんだ!?別に死んだって良い!!オレも一緒に闘わせてくれ!!闘って死ぬなら本望だ!!」


 どちらも一切折れる気配がなかった。

 ユージュンは大きな溜め息を一つ溢すと、握っていた拳を開ける。


「……甘ったれんなよ、クソガキ」

「ユージッ………………」


 リーファが気絶する。

 ユージュンの手刀がリーファの首に落とされたのだ。

 地面に倒れ込んだリーファを見下ろして、ユージュンは通信機のスイッチを再度弄る。


「……じゃあな、リーファ」


 ユージュンは空へと飛び立った。



 *       *       *



「…………」


 通信機反応のあった地点へと、ユージュンが降り立つ。

 広がっている光景に、ユージュンは更に眉間の皺を深めた。

 ズーシェン、ジン、ファン、ユーエン。血に塗れ、ボロボロになった彼らの死体が、無造作に地面に転がっている。

 リーファとユージュンの予感は当たっていたようだ。


「あれ、君一人だけ?リーファはどうしたのかな?」


 ふと、ユージュンの背に声が掛かる。

 場に似つかない軽い口調。殺気を滲ませながらユージュンが振り返れば、そこにはウニベルが立っていた。

 ユージュンはドスの効いた声で「ウニベル」とその名を呼ぶ。


「よくも俺の仲間達を……()()()()決着付けてやる!イタガ星も月猫族も……テメェなんかにらせねぇ!」

「!……へぇ。あの通信だけで、作戦バレたんだ。月猫族にしては、中々キレ者みたいだね。確か君が月猫族最強の戦士だったっけ?リーファの所属する戦闘班のチームリーダー。リーファの目の前で、月猫族最強が無様にられてるところを見せたかったんだけど……まあ良いか。君の死体を見たリーファの反応は、後の楽しみに取っておくよ」


 ニヤニヤと余裕たっぷりの表情を浮かべ、ウニベルが嗤う。

 しかしユージュンも決して怯まなかった。臨戦体勢を取れば、「ほざけ!!」と咆哮を上げる。


「テメェだけは絶対に許さねぇ!!覚悟しやがれ!!!」



 *       *       *



 軽く気絶することおよそ二十分。


「……ん……ッてて……」


 まだズキズキと痛む首を摩りながら、リーファはゆっくりと目を覚ました。そしてハッと思い出す。


「ッユージュン!!」


 勢い良く飛び起きるリーファだが、近くにユージュンは居ない。

 ドクドクと、やけに脈が早打つ。

 すぐさまリーファは、ユージュンの通信機反応の位置を調べた。


「……あっちか……ッ!!」


 全速力で空を飛ぶリーファ。

 少しの異変も見落とさないよう、地面に目を向けながら進めば、ふと何かを見つけた。急停止をして、恐る恐るソレに近付く。


「……コレ…………」


 細い枯れ枝に引っ掛かっていた物体を手に取れば、リーファはギュッとソレを握り締めた。

 所々紅く滲んだ白いリボン……間違いない。ユージュンが後ろ髪を結ぶ時に、いつも使っているリボンだ。

 胸から込み上げてくる感情に蓋をするように、リーファはリボンを片手に再び空へと翔けて行った。


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