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闘う理由 

「ハッ……おいおいリーファちゃんよぉ、そんな難民ゴミと組んで……まさかこの俺様を倒そうなんて思ってねぇよな?」


 小馬鹿にするように、ビイツが鼻で嗤う。それに対してリーファも「『倒す』?」と馬鹿にし返した。


「残念だったな。細胞一つ残らないよう消し炭にしてやるんだよ」

「ッ!……ああ、そうかい……本当にテメェは昔っから……口の減らねぇ小娘だなぁ……なら、頑張ってやってみろよ!!!」


 頭にキタらしい。

 ビイツが両手の指先全部からビームを放った。ビームは一直線にリーファとシアへ向かって飛んで来る。

 慌てて避けようとするシアだが、ビイツが「無駄だ」と吠えた。

 言葉通り、シアが躱す方向に合わせて、ビームの軌道も有り得ない角度で曲がる。焦ってシアが剣で弾き返すが、またもや追いかけて来るビーム。


「うわっ、ずっと追いかけて来る!?」

「アイツは超能力者だ。能力は“追尾光線”。撃ち落とすまで、永遠に追いかけて来るぞ」

「流石に帝国軍の幹部は超能力者か〜。厄介だね〜……」


 リーファからの説明に、シアが苦笑いを浮かべながら呑気な感想を溢した。

 宇宙には沢山の種族が存在するが、その中でも超人的な異能を持つ種族が超能力者と呼ばれる者達だ。その異能の効果は様々で、リーファの光の玉やシアの炎の塊も、二人の種族特有の超能力である。


「その通り!だが生半可な攻撃で撃ち落とせると思うなよ!?地獄の果てまで追い掛けて、その身体に何発も風穴開けてやるよ!!」


 ビイツが何度も十本の指からビームを発射する。

 リーファとシアは素早くバラバラに移動しながら、建物を影に一つずつビームを撃ち落として行くが、いかんせん数が多い。十分程経った頃には、互いに何発か肩や頬に食らっていた。


「……ハァ!……ハァ!」


 元々毒に侵されているリーファは言わずもがな、段々とシアの呼吸も荒くなってくる。

 相手のビームを撃ち落とすには、シアも超能力を使うしかない。だがしかし……。


 ……参ったな……こんなに連続して使うことなんてなかったから、体力が……。


 シアが苦しげに眉根を寄せる。

 当然だが、超能力を使うのにも体力は必要であった。むしろ日常生活で使うことが殆どない分、余計に体力消耗が激しいのである。慣れていればそれ程だが、喧騒から逃れた元無人星で、シアが超能力を使い慣れている筈もない。

 疲れが油断を招いてしまった。


「ッ!!……ウワッ!!」


 片足を掠めた直後、シアの背中に二、三発ビームが直撃する。地面に転がってしまうが、寝ている余裕は数秒だってない。

 すぐさま襲い掛かって来るビームを、ゴロリと寝転がって避ければ、シアは痛む身体に鞭打って上半身を起こす。そして急カーブを描いて戻って来たビームを、炎の玉で相殺した。

 一つ処理してもまだまだ残数は尽きない。

 シアは急いで立ち上がろうとするが、疲労とダメージの大きさも合わさって足に力が入らない。

 次いでやって来たビームの雨。「マズい」と反射的にシアが目を瞑れば、「ちょっと寝てろ」と肩を後ろに押し戻された。


「!?」


 瞼を開けると、視界に飛び込んで来たのは複数のビームに追い掛けられているリーファの姿。明らかにビームの数が多い。

 どうやらシアの分のビームも請け負ってくれているようだ。


 …………。


 バク転や側転など、落ちていく足のスピードをトリッキーな動きで補いながら、数多のビームを躱し、隙を見て確実に一弾ずつ仕留めている。その上、少しずつビイツとの距離を詰め、反撃に出ようとすらしているのだから、シアは感心した。


 ……これが月猫族……毒を喰らってこんなに……俺も頑張らなくちゃッ……!


 シアが両膝をガシッと掴み、ヨロつきながらも立ち上がる。

 その時だった。


「ゥアアッ!!」

「!!?」


 到頭リーファの身体が崩れ落ち、数十ものビームが弾丸の如くリーファの身体を襲っていた。

 流石のリーファも地面に倒れ、起き上がる気配がない。


「ハハハ!!口では偉そうに言ってたが、もう限界みたいだなぁ!!?」

「ッグッ……く、そッ……ッ〜!」


 高笑いを上げるビイツを、リーファが睨み上げる。しかしそんなビイツの姿も、毒の影響で殆ど霞んでしまっていた。

 グラグラと頭が回って気分が悪い。視線を上げているのも辛くて顔を俯かせれば、自身の額から汗と血が零れ落ちて行くのが見えた。


「終わりにしてやるよ」


 ビイツの声の後には、ヒュンと風を斬る音。

 手足が全く言うことを聞かないボロボロの身体では、避けることも受け切ることもできないだろう。

 だがしかし……。


「!!」


 いつまで経っても来ない痛みと、突然身体を包む熱気にリーファが顔を上げる。

 リーファの目の前にはシアの背中と、二人を囲む炎の壁。壁の外からは「籠城戦かぁ!?」とビイツが叫んでいるのが聞こえて来る。

 シアはクルリと振り返ると、膝を曲げてリーファに合わせるように目線を下げた。その表情かおは穏やかな笑顔で、初めて会った時の険しさは微塵もない。


「疲れたなら……今度は君が寝てる番かな?」


 シアがコテンと首を傾げる。煽りにも聞こえる台詞に、リーファはフッと笑って「冗談じゃねぇ」と切り返した。


「アイツをぶっ倒すまで、寝れる訳ねぇだろ!」


 ブレない返答に、シアは「そっか」と苦笑いを溢す。


「ねぇ、一つだけ聞いても良い?」


 一応断っているものの、了承は求めていないようだ。シアは勝手に「君は」と尋ね始める。


「何の為に闘ってるの?こんなボロボロになってまで……毒まで盛られてるのに……君が闘う理由は何?」


 真剣な空色の瞳がリーファを射抜く。

 しかし、リーファはコレに「ハッ」と鼻で笑った。リーファの真紅がシアの瞳を射抜き返す。


「決まってんだろ?『気に入らねぇ奴をぶっ倒したい』……それ以外に理由なんてあんのかよ」

「!!……君、口悪いね」

「ぁあ!?」


 脈絡のない悪口に、リーファがドスの効いた声を上げる。がしかし、シアは怯えることなく笑っていた。

「不思議だね」と、シアがリーファの顎を右手でソッと持ち上げる。


「まるで悪人みたいな答えなのに……何かホッとしちゃった。『君なら大丈夫だ』って思えちゃった……」

「??何の話……ンッ……!?」


 リーファの言葉を遮って、シアがリーファの唇を自身の唇で塞いだ。

 驚きで固まるリーファだが、キスをされている事実の脳内処理よりも、先に身体の異変に気が付く。


 ……毒の効果が、消えていく……。


 手足の痺れが治まり、頭のグラつきが癒えていった。次第に視界がクリアになり、シアのスカイブルーがハッキリと映る。

 完全に毒の効果が無くなる頃、シアが唇をゆっくりと離した。


「……お、前……」


 リーファが困惑気味に口を開く中、いつの間にやらシアは額に汗を浮かべ、肩で息をしている状態となっている。

 訝しむリーファに、シアは「はは……」と力なく微笑んだ。


「……俺の、超能、力……。……た、いりょく……けっ、こう……も、てかれ、るん、だけど、ね?……た、おして、アイツを……」


「頼んだから」とシアが言い終わると同時に、ビイツの攻撃から身を護ってくれていた炎の壁が失われた。


 ……『後のことは頼んだ。死ぬなよ、リーファ』


 フラッシュバックされた遠い記憶に、リーファはゆらりと立ち上がる。


「やっとお出ましか!!死ぬ覚悟はできたのかい!?リーファちゃーん!!」

「…………」


 リーファは応えない。

 真っ直ぐとビイツに向かって歩いて行く。いくら毒の効果が消えたと言っても、身体は既に満身創痍の状態だ。

 だがしかし、威圧感すら漂う程に凛々しい様で、リーファはビイツへと近付いて行く。


「な、何だよ……死に損ないがサッサとくたばれェエエエエ!!!!」


 一斉に飛び出したビームの弾幕。

 リーファは右腕を前に出すと、避ける素振りすら見せず全弾光の玉で撃ち落とした。


「なっ!?……な、…………」


 あまりのことに、ビイツは言葉も出ないらしい。

 リーファは足を止めると、ビイツを睨み付けた。


「覚悟は良いな?」

「ッ!!」


 瞬きする間もなく、リーファの姿がビイツの視界から消える……と同時に腹部に激痛が走り、映る景色がコマ送りのように次々と流れていった。そこで自身が蹴り飛ばされたことに気付くビイツ。

 体勢を立て直そうとしたところで、今度は背中に衝撃が走った。


「ガハッ!!?」


 空気の塊を吐き出す。

 目の前には広がる空。どうやら蹴り上げられたらしい。

 その空も、まるで瞬間移動して来たかのようなリーファの姿で覆い隠された。

 吹き飛んでいるビイツの身体よりも、リーファの移動速度が速いということだ。

 リーファは槌を模すように両手を合わせて握り締め、そのまま振りかぶる。

 次に何をされるかわかったところで、ビイツにソレを阻止する力はない。


「グヘッ!!!」


 ビイツは思いきり地面へと叩き付けられた。

 あまりの勢いに、大地が揺れ土煙が辺りを包み込む。

 煙が晴れれば、ピクピクと痙攣しながら完全にノックアウトされたビイツの姿がクッキリと映し出された。


「先に地獄へ逝って、ウニベルに伝えておけ。


『ざまぁみろ』


 ってな」


 そうしてリーファはトドメと言わんばかりに、動けぬビイツの頭上から特大の光の玉を放ったのである――。

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