理由
本当は次回の分、合わせて一話にする予定でしたが、あまりに字数が増えてしまうので二話に分けました(汗)
なので、ちょっと区切りが悪いです、、
悪しからず……。
「……『恐怖』?」
「はい。一度、恐怖を覚えた相手には暗示が掛からないんですよね〜。なので、ウニベル様にも四龍にも効きませんし……月猫族にも効きませ〜ん」
「成程ね。まあでも、初対面の相手に恐怖を覚えることは殆どないだろうし、侵略時には一切問題ないか。リーファに効かないのは残念だけど……」
「あっはは〜……リーファちゃんには特に掛からないでしょうね〜……」
〜 〜 〜
ゴウゴウと激しく燃え盛る炎が、山のように巨大であった大樹を呑み込んでいく。高火力のお陰もあって、“暗樹”はものの一分程で文字通り消し炭となった。むしろ炭すら残さず、綺麗さっぱり消え去った。
「!……リーファ!!」
シアが名を呼ぶ。
その一言だけで充分だった。
リーファはニヤリと口角を上げて、ジアンと対峙する。ジアンは歯軋りを溢しながらも、絶対に勝てないとわかっているのか臨戦態勢を取ることすらしなかった。
「覚悟は良いか?」
リーファが静かに告げる。
ジアンはフッと歪に笑った。
「馬鹿だね〜、リーファちゃん。大人しくウニベル様の命令に従ってれば良かったのにさ〜。あの世でリーファちゃんが絶望しながら後悔してるとこ、じっくり楽しませてもらうことにするよ〜」
「……あばよ」
遺言を聞き届けたリーファは、右手をジアンへと突き出した。最早肉弾戦をする気さえないらしく、手の平に光の玉を形成していく。
撃たれる瞬間、ジアンは「あぁ……」とリーファの眼光を瞼に焼き付けた。
真紅の瞳はまるで血潮のように鮮烈であるのに、その感情は酷く冷たい。いつだって、リーファの殺気は背筋の凍る冷たさを湛えていた。にも関わらず、口元は薄く笑みを浮かべている。恐らくは無意識だろうが……。
……コレだよ、コレ。初めて見た時からずっと……美しさすら感じてしまう程に……月猫族の殺気は怖い……何だ、やっぱり非情じゃん…………
そうして、ジアンはリーファのジンシューによって灰になってしまったのであった。
* * *
「ハァ!ハァ!ハァ!……はぁあああ……」
大きく息を吐くと共に、リーファがその場にドサリと崩れ落ちた。地面に直接座り込めば、そのままゴロンと横たわる。
「リーファ!!」
「ウワッ!?」
とそこに、シアがリーファへと抱き着いて来た。
意図がわからず混乱するリーファだが、優しく抱き締められる感覚に安心感を覚える。
……名前呼んでくるからわかってはいたけど、本当に暗示が解けたんだな……。
自分でも気付かない内に、リーファの表情が柔らかなモノに変わっていた。
だが、対照的にシアは「ごめん」と腕に力を入れる。
「酷いこと、沢山言ったッ!本当にごめん!思ってないから!『地球から出て行け』とか『敵だ』とか、全く思ってないから!!ごめん!傷つけたよね!ごめんね、リーファ!!」
力を入れ過ぎてシアの身体が震えているが、それでもリーファは全く苦しさを感じなかった。恐らく息苦しくないよう、シアがリーファの身体を想ってくれているのだろう。
……別に思いきり締められたって、何ともないのに……というか、謝られるような言葉言われたか?……全く身に覚えがない……。
ポカンと空を仰ぎながら、リーファはシアの両肩を掴んで身体を離す。瞳と目が合えば、いつも通りの光を映した眼差しにニッと歯を見せた。
「やっぱマトモなお前より、今のお前の方が落ち着くな!」
「えっ!?」
突然の告白に、シアが頬を赤らめる。対するリーファは涼しげな表情で、「いい加減重い。身体退けろ」と通常運転だ。
言われた通り身体を退かせるシアだが、ふと「ん?」と引っ掛かる。
「ねぇ『マトモな俺より』って……俺っていつもはマトモじゃないの?」
「??……月猫族に怨みがないだけならまだしも、自分達の惑星に匿ったり、復讐叶える手伝いしたり、命すら助けたり……どう考えてもマトモな神経してないだろ。ソレでイカれてないってんなら、むしろ恐怖だぞ」
今更何言ってるんだと言わんばかりの回答に、流石のシアも「あはは……」と苦笑いを返す。
ズレている自覚はあるらしく、「ソレを言われるとなぁ……」と後頭部に腕を回した。
「月猫族!!」
「「?」」
リーファとシアが同時に振り返る。
そこには町の人達が全員険しい顔付きで立ち並んでいた。尋常じゃない雰囲気に、シアがリーファを庇うように前へと立つ。リーファもムクリと上半身を起こした。
「……何で、助けた……?」
町民の一人が震える声で尋ねる。
リーファは「またか」と内心項垂れた。
「暗示に掛けられていた時の記憶は残ってる。帝国軍幹部とお前の会話も聞こえていた。何で……何で俺達を助けたんだ!?シアと違って、俺達は心の底から本気で月猫族を憎んでいたのに!!本気で!本気で殺す気だったんだぞ!?」
「納得できない」と叫ぶ相手に、リーファはシアへと「見たか?アレがマトモな反応だ」と呑気に告げる。「わざわざ今言うことかなぁ?ソレ……」とシアのツッコみも気にせず、リーファはシアの身体を押し退けて人々の前へ出た。
「そんなこと、一々聞いてどうする?害された理由ならともかく、助けられた理由なんて何でも良いだろ」
「良い訳あるか!!俺達は月猫族を怨んでるんだぞ!?」
「??……はぁ……」
溜め息を一つ溢せば、リーファはチラリとシアを見遣った。首を傾げるシア。
リーファはムスッとした表情を浮かべて、シアに人差し指を向けた。
「お前、耳塞いでろ。絶対聞くんじゃないぞ」
「へ……?」とシアの口から間抜けな声が漏れたと思ったら、その数秒後。
「えぇええ!?」と文句が上がる。
「な、何で!?俺だけ!?皆には話すのに、俺だけ聞いちゃダメなの!?ていうか、暗示解ける前『暗示解けたら、君のこと全部教えて』って約束したよね!?いきなり隠し事!?」
「煩いな。そもそも約束に関しては、私は了承してねぇし……とにかくお前にだけは聞かれたくないんだよ!」
リーファが若干頬を染めて言い切れば、「そ、そっか……」とシアは不思議そうな表情をしながら身を引いた。「ちゃんと両手で耳塞げ」とジト目で睨んでくるリーファに、シアは明後日の方を向いて両耳に手を当てる。
「良しッ」とリーファは町民達へ向き直った。
「理由は簡単だ。『お前らがシアの大切な奴らだから』……だから死なせたくなかったし、暗示に掛かったまま放置しておく訳にもいかなかった。ソレだけだ」
「「「………………」」」
数秒、場が静まり返った。
全く予想していなかった答えなのだろう。町の人々全員の目が点になっている。
理由は話したと言わんばかりに、リーファはクルリと背を向けた。その瞬間、リーファはシアから思いきり抱き着かれる。
「リーファ!!」
「ぁあ!?ちょ、何だよ!?」
リーファの文句をスルーして、シアはハイテンションのままリーファの身体を持ち上げ、そのままクルクルと回り出す。
暫くしてリーファを降ろせば、盛大に頭からハテナを飛ばすリーファに、シアはニッコリと微笑み掛けた。
「すっごく嬉しい!つまり俺のこと、『大好き』って思ってくれてるってことでしょ!?」
「あ?……ぁあ!?な、何……おま、聞いてただろ!!耳塞いでたんじゃねぇのか!?」
途端に顔を真っ赤にして、目を吊り上げるリーファ。
怒り心頭の様子だが、照れ隠しとわかってる以上シアは怯まない。「塞いでたよ」とニコニコ笑っているだけである。
「でもこの距離なら、塞いでたとしたも普通に聞こえるよ。リーファ、別に小声で話してた訳でもないしね。獣人種は他種族よりも五感が発達してるから、相手の聴覚とか視覚とか侮りがちって本当だったんだね。確かにリーファ程耳が良い訳じゃないけど、流石に軽く塞いだ程度じゃ支障はないよ」
人差し指を天に向け、シアが説明する。
唖然と聞いていれば、リーファは次第に肩を震わせた。
「わかってたんなら先に言え!!」
そしてシアは殴られた。
本気の拳ではないが、月猫族の攻撃に変わりはないので、シアは「痛ッ」と後頭部を摩る。それでも反省はしてないようで、「だって」と詫びれもなく口を開いた。
「やっぱり納得いかないじゃん。俺の方がリーファのこと知りたいのに、皆知ってて俺だけ知らない情報があるなんてさ。盗み聞きしてたのはまあ謝るけど、後悔はしてないかな」
「……反省してないなら、謝罪なんていらねぇよ!腹黒ヤロー!」
「『腹黒』って……初めて言われたかも」
何とも呑気な口論である。
月猫族と陽鳥族が、まるで普通の友達同士のような喧嘩をしている。喧嘩とすら言えない、戯れ合いのようなモノかもしれない。
置いてけぼりになっていた町の人達は、微笑ましいとも言える光景に漸くフリーズから戻って来た。
「……ほ、本当にシアの為に……?」
「あの月猫族が……誰かを想って、私達を助けてくれた、の?……」
「暗示の所為とは言え、あんなに月猫族のことを侮辱したのに……」
動揺が広がる。
人々の訝しむ眼差しを一身に受けたリーファは、罰が悪そうに視線を逸らした。
「悪いかよ。別に良いだろ、気に入った奴の矜持護るくらい……宿代代わりだよ!」
「「「…………」」」
フンと完全にソッポを向いてしまったリーファは、未だ頬が赤く染まっている。
そんなリーファの側に、トットットッと小さな足音が近付いて行った。アミィだ。
アミィはリーファの手の平をソッと握る。
リーファは不思議そうに、アミィを見下ろしていた。アミィはニッと白い歯を見せる。
「ありがとう!助けてくれて!」
読んで頂きありがとうございました!!
本編ではいまいち説明できていなかったので、解説します。
何故シアの暗示が揺らいでいたかと言うと、ジアンが無意識の内にシアに恐怖を覚えていたからです。自身の同種を滅ぼされたにも関わらず、月猫族に怨みを抱いていない人間が存在するとは思っておらず、「えぇ〜、何コイツ……頭おかしいんじゃない?」とジアンはシアにドン引きしました。人間理解の外にある存在のことは恐怖の対象になりがちなので、ジアンも例に漏れず無意識下でシアに恐れを抱きました。
今回冒頭で出た通りジアンは一度恐怖を覚えた者に暗示を掛けることはできません。
しかし、恐怖が無意識下であったことと、既に暗示を掛けている途中で恐怖を覚えたので、中途半端に暗示を掛けることに成功しました。
ただ完全な暗示じゃないので、シアは次第に違和感を強めて自我を取り戻し、暗樹を燃やすことができたという訳です!
長々と失礼しました!次回もお楽しみに!




