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番外編 命の恩人《前編》 

 二十四年前。

 今は亡き陽鳥族の母星ドーバ星に、この日滅びの時が迫っていた。


「月猫族だァア!!月猫族が攻めて来たぞー!!」

「迎撃体勢に入れ!!子供達を安全な場所へ避難させるんだァア!!」

「最低限の治療係も一緒に避難するんだぞ!!」


 あちこちから叫び声が上がる。

 宇宙船の中から次々と溢れて来る月猫族の軍勢を牽制しながら、陽鳥族達も臨戦体勢を整えていった。

 次第に激しい戦闘が繰り広げられていく。

『宇宙の守護天使』と名高い彼らは、ヴァルテン帝国が台頭するよりも遥か昔から、『宇宙の悪魔』と恐れられている月猫族と闘い続けてきた。宇宙の平和の為、人々の生命いのちを護る為。無意味に他種族を害する月猫族と、何百年もの間抗争を続けてきた。

 今となっては大義の為に闘っているのか、もう引き返せない故に闘っているのか。誰にも把握できていないが……。



 *       *       *



「皆、ここから決して出ないように。良いね?」


 ドーバ星シェルター内では、多くの子供達と数人の医療班が避難していた。

 避難を手伝っていた戦士は、避難完了と共に注意だけ告げて戦場へと戻って行く。

 取り残されたシェルター内は、不安と恐怖で空気が重くなっていた。啜り泣くような声も聞こえている。

 そんな中、一人の少年がキョロキョロと辺りを見回して眉根を寄せていた。

 当時まだ齢八歳のシアである。


「…………」


 シアの頬を冷や汗が伝う。意を決したように表情を引き締めれば、シアは人々の目を盗んでシェルター内から飛び出して行ったのであった。



 *       *       *



 シェルターの外は、人里離れた山奥だ。陽鳥族達が月猫族と応戦しているのは、城下町近くである。

 静かな山の中を、シアは慎重に降りて行った。

 山の麓付近まで辿り着いたところで、シアは前方に朱色を見つける。


「!……ハオ!!」

「!?……シア!?」


 シアが見つけたのは陽鳥族の少年だった。背丈的に、シアと同い年くらいだろうか。友達なのだろう。

 シアは「良かった」と、ハオの両肩を掴んだ。


「ダメだよ、ハオ。子供は全員シェルターの中に避難しないと……早く戻ろう?」


 どうやらハオを探しに、シェルター内を抜け出したようだ。

 しかしハオは首を縦に振らない。「ごめん」とシアの手を自身の肩から離す。


「俺……やっぱり父さんのことが心配だから……助けに行きたいんだ!」

「!……でも……」

「わかってる!子供おれが行っても迷惑になるだけかもしれない!それでも……それでも……!」

「わかった」


 シアは優しく微笑むと、ハオの隣に並んで前を向く。

 不思議そうに首を傾げるハオに、シアは悪戯っ子の笑みで人差し指を口元に持って来た。


「それじゃあ俺も行くよ。おじさんにはお世話になってるし、俺も皆を助けに行きたい。一緒に行って、皆で助かって、そして……一緒に怒られよっか」

「!!……ありがとう!」


 そして二人は前線へと飛んで行くのであった。



 *       *       *



 月猫族達に見つからないよう、物陰に身を寄せながら低空飛行を心掛けること三十分。

 既にいくつかの町は崩壊しており、瓦礫の山が積み上がる焼け野原と化していた。当然陽鳥族や月猫族の死体も何体も転がっている。


「皆……クソッ!絶対に許さねェ、月猫族!!父さんを早く見つけねぇと……」

「…………」


 憤りを見せるハオの隣で、シアは何とも言えない表情を浮かべて月猫族の死体を見つめていた。それに気付いたハオが「シア?」と声を掛ける。


「おい、大丈夫か?」

「あ、うん。ごめん」

「どうかしたか?」

「あ、否……」


 シアは言い難そうに言葉を濁す。

 だが真っ直ぐな視線を延々と注がれて、シアは根負けする形で「ただちょっとね」と語り始めた。


陽鳥族おれたちだけは、月猫族のこと怨めないよなって……」

「え……な、何言ってるんだよ!?同種なかまだってこんなに殺されてるのに!」


 ハオには到底理解できない意見だった。その反応は予想通りだったのか、シアは「うん」と苦笑いを浮かべるだけだ。


「そうだね。俺だって怒ってるよ。罪のない人達をいっぱい傷付けて、殺して……だからこそ、陽鳥族おれたちは月猫族と闘ってる。帝国軍が台頭して来る何百年も昔の頃から……でも、大義があったとしても、陽鳥族おれたちがこの数百年で、数え切れない程の月猫族を殺してきたのは事実だから。だから、他の種族の人達はともかく、陽鳥族おれたちだけはきっと……月猫族に殺されても文句は言えないよ。同じだけ殺してきた。自業自得だ」


 シアの言葉に、ハオは何も言えず口を閉ざしていた。

 空気を切り替えるように、「でも」とシアは握り拳を作って見せる。


「だからって、皆が殺されようとしてるのを黙って見ているなんてできないし、罪のない人達を傷付けるって言うなら命を懸けて闘うよ。陽鳥族おれたちは『宇宙の守護天使』なんだから!」



「随分と殊勝なガキも居たもんだな」



「「!!?」」


 突然後方から聞き覚えのない声が降ってきて、シア達は二人揃って振り返る。

 飛び込んで来た視界に絶句した。

 黒単色の髪から覗く虎の耳。民族衣装を戦闘用にデザインした()()服。腰からピョコンと飛び出しているのは虎縞模様の尻尾。その手には、血に濡れた陽鳥族の男が一人掴み上げられている。

 そこには、月猫族の男……ユージュンが立っていた――。


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