陰謀
「……で?俺にやって貰いたい仕事って何だ?」
リュカが通されたのは基地の奥。テッダに与えられた応対室だ。
テーブルを挟んで向かい合うソファにそれぞれ腰掛けると、早速リュカが切り出す。
テッダは「ある人物の抹殺だ」と静かに答えた。
「帝国軍に害なす裏切り者の始末を頼みたい」
「『裏切り者』?……あー、さっき言ってた奴ね。幹部総出で対応してるとか言ってたな」
「その通りだ。だがしかし、総出と言っても、今存在している幹部は俺も含めて三人のみ。他は全て裏切り者に殺されてしまった。『四龍』はこの件に関わるつもりがないらしいからな。実質、裏切り者の討伐に狩り出されている人数は少数だ」
「『幹部三人殺した』!?何だよ、ソイツ!!とんでもねぇ強さじゃねぇか!!」
思わずソファから立ち上がるリュカ。テッダが「まあな」と冷静な口調で頷けば、リュカも気を落ち着けるように座り直す。
「お前の言う通り、戦闘能力は折り紙付きだ。幹部をも穿つ力があるからこそ、今回の討伐任務に幹部以下の末端兵は使えない。だがしかし、リュカ……お前の実力は既に帝国軍の幹部級に匹敵している。帝国軍に抵抗し……引いてはこの宇宙に害を成そうとする犯罪者共を誰よりも一掃してくれるお前だからこそ、信じてこの件を預けられるんだ」
テッダはニンマリと笑みを深めた。
「勿論断ってくれても構わない。今までの比にならない危険な仕事だ。当然命に関わってくる。コレは帝国軍の問題で、お前は帝国軍の一員ではないからな」
テッダから依頼内容の説明が終われば、リュカは数秒口を閉ざした。
両腕を組んで瞼を閉じ、どうするべきか考え込んでいるようである。
その様子に、テッダは思い出したかのように「あぁ、そう言えば」と口を開いた。
「伝え忘れていたな。裏切り者の種族だ。お前に伝えるのは心苦しいが……『虎の耳に尻尾』……」
「!!」
リュカの目が弾かれたように開かれる。
気付いていないフリをして、テッダは続けた。
「生まれながらに凄まじい戦闘能力と嗜虐性を持つ『宇宙の悪魔』……月猫族の生き残りだ」
「月猫族だと!!?生き残りが居たのか!!?今ソイツは何処に居る!!?」
ガタンと大きな音を立てて、リュカが身を乗り出す。テッダの胸倉を掴んで尋ねてくる剣幕から、リュカの月猫族に対する憎悪が伝わってくる。
テッダはパチンと一つ、指を鳴らした。すると透明な壁が自身を囲むように現れ、零距離になっていたリュカの身体を弾き飛ばす。
「落ち着きたまえ。居場所がわかっていたら苦労しない。お前に頼みたいのは抹殺もだが、捜索からだ。まず返答を聞かせて貰おう。この仕事、受けるか否か。月猫族の恐ろしさ、お前なら嫌と言うほど知っているだろう?断るなら今の内だ」
「…………」
リュカは拳を固く握り締めると、尻餅状態から立ち上がった。
椅子に座り直して、「冗談じゃねぇ」と地を這う声で呟く。
「『断る』だと?……俺は……俺は今まで、月猫族を……俺達ロウ星人の仇を討つ為だけに、沢山特訓して来たんだ。月猫族が母星と一緒に滅んだと聞いた時から、もう二度とロウ星人の無念を晴らすことはできねぇんだと思ってた……でも今!待ち望んだ機会が目の前に在る!!」
リュカは意志の込もった目を見せると、ガバリとテッダに頭を下げた。
「俺の方から頼む!!月猫族を討つ機会を俺にくれ!!金なんか要らねぇ!!俺が月猫族を倒してやるんだ!!」
熱い言葉に、テッダは「よく言ってくれた」とリュカの肩に手を置いた。
「その心意気に我々も手を貸そう。知っている情報を開示する」
「テッダ……」
リュカが顔を上げた。
テッダは「コレを」と何かのバッチを取り出す。
「??何だコレ?」
リュカが首を傾げれば、テッダは「コレは」と説明を始めた。
「お前の生体反応に異常が出た時、お前の現在地を知らせてくれる発信機だ。いくらお前でも、相手はあの月猫族。もし万が一のことがあっても、すぐに居場所を突き止めることができれば、お前の命を繋ぎ、『宇宙の悪魔』を討つことができるだろう?という訳だ。この仕事が終わるまで、服の何処でも良い。このバッチを付けておいてくれ」
「おう、わかった!」
アッサリ首を縦に振ったリュカが、テッダからバッチを受け取り、そのままベストへと取り付ける。
その様を確認して、テッダは気付かれないようにニヤリと口角を上げた。すぐに表情を戻し、リュカに右手を差し出す。
「頼んだぞ、リュカ」
「応!任せとけ!!」
* * *
リュカが基地から去った後、応対室ではテッダが抑え切れない笑いを噛み殺していた。
とそこに、部下の一人がお茶を手に入って来る。
「テッダ様、宜しいのですか?あのような依頼をして。ウニベル様の命令では、『帝国軍に喧嘩を売った月猫族のことは生け捕りに』と……」
「心配するな。ウニベル様がそう仰る理由は、例の月猫族がリーファだと思っておられるからだ。違っていれば、遠からず抹殺命令が出る。仮にリーファであれば、どうせリュカ如きでは倒せん。すぐに返り討ちにされて終いだろう」
淡々と答えるテッダに部下の男は驚愕の表情を浮かべる。
「そ、それでは何故依頼を?リーファだとして、捕えることができなくても意味がないのでは……」
「意味なら在るさ。リュカ……馬鹿な男だ。俺達に騙され、良いように使われているだけの無様な傀儡。だが、ここ最近の奴の強さは、俺達幹部の立場を危うくさせかねん。ウニベル様からも『嘘がバレて、完全な敵となる前に始末しておけ』と命令されているからな」
フフフと怪しく笑みを溢しながら、テッダは先程リュカに渡した発信機と同じ物を懐から手に出す。
「……アイツに渡したのは確かに発信機だが、盗聴機も兼ねている。何より常に位置を特定する代物だ。これで奴が月猫族を見つけても、すぐにこちらから向かうことができる。奴が殺されたところを見計らって、この俺様が漁夫の利を狙う……そういう作戦だ。まあ、噂の月猫族が本当にリーファだったらの話だがな」
「……つ、つまり……リュカを始末し、同時にリーファ(仮)の生け捕りをも完了するという一石二鳥の作戦……という訳ですか?」
「そういうことだ」
「フハハハハ」とテッダの高笑いが基地中に響き渡ったのであった。




