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正義の賞金稼ぎ 

新しい章がスタートし、書き溜めも減って来たので二日に一話投稿にします。悪しからず……。

 あちこちから火の手が上がっている。

 耳を劈く叫び声から逃れるように、ただただ走った。

 針葉樹林の青々とした緑豊かな大地は消え、炎と血の赤に染まっている。


 一体俺達が何をしたって言うんだ!?


 無我夢中で家の方角へと走れば、ようやっと家の屋根が見えて来る。ホッと安心したところで、足のスピードが上がった。


「母さん!!」


 扉を盛大に開け放つ。

 家の中には母さん……ではなく、優しい顔の面影もない肉塊を掴み上げている月猫族あくまが立っていた――。



 〜       〜       〜



「……ッ!!?」


 星々の瞬く宇宙空間にて、星間飛行中の宇宙船が一隻。

 その中で一人眠っていた青年が、大量の冷や汗と共に飛び起きた。

 バクバクと煩い心臓を落ち着けながら、右へ左へと首を動かし、自身の現状を把握する。間違いなく自分の船の中だ。数時間程前、操縦を自動オートモードに切り替え、椅子に座ったまま仮眠していたことを思い出し、青年は大きく息を吐いた。

 ピョコンと、アッシュブラウンの髪から覗く獣耳。金色の切れ長の瞳は鋭く、腰からは髪と色合わせしたモフモフの尻尾が生えている。

 獣人種……それも狼の獣人のようだ。

 青年の名はリュカと言った。


「……また、あの夢か…………」


 リュカは最悪の目覚めを誤魔化すように、側に置いてあった水筒を手に取る。

 水を一口飲めば、ホッと一息()いた。


 ……もう仇は何処にも存在しないってのに、いつまでこんな悪夢を見続けるんだろうな……まあ、仇を討つことばっかり考えて、未だに特訓しまくってる奴が考えることじゃねぇけど……。


 リュカが自嘲気味にフッと笑う。

 その時だった。

 宇宙船のコンピュータがけたたましい音でサイレンを鳴らした。緊急警報のアラームだ。

 リュカは「何だ!?」と慌ててモニターを確認する。

 リュカの船を攻撃対象としている敵船が二隻、センサーに反応していた。見覚えのある反応……確か宇宙海賊だ。

 直後、宇宙船がとんでもない勢いで傾く。上へ下へ、更に左右に動いたと思ったら、ジェットコースターのように一回転したりと破茶滅茶な運転だ。

 敵船から攻撃を受けている証拠である。


「……ッたく……しょうがねぇ奴らだなぁ……」


 揺られに揺られている訳だが、リュカは非常に余裕の表情でガシガシと後頭部を掻く。そして、ハンドルの横に取り付けてあるトランシーバーを手に取った。


「……あ、あー、あー……テステス……ゴホンッ!」


 咳払いを挟み、リュカはキリッと眉を吊り上げた。


「おい、お前達!攻撃を止めなさい!海賊行為なんてして!お前達を産んでくれたおっかさんに、申し訳ないとは思わないのかぁ!!?大人しく誠実な生き方を見つけなさい!!繰り返す!今すぐ海賊なんて止めてしまいなさーい!!」


 トランシーバーに向けられたリュカの言葉は、船外のスピーカーを通して、敵船内部までしっかりと響き渡る。

 だが、攻撃の手は緩まる気配がなかった。それどころか、向こうの船からもスピーカー越しに「ふざけるな」と激昂した声が返ってくる。


『偉そうなこと、言ってんじゃねぇ!!テメェが獲った賞金首を大人しく俺達に寄越しやがれ!!』


 海賊達の狙いがわかった。

 リュカはチラリと、縄で縛られ床の上でノビている賞金首を横目で見る。

 この男の首に掛けられた額は、人間一人が一年は遊んで暮らせる程の大金だ。海賊が狙って来るのも当然の話である。

 しかし、だからと言って「はい、わかりました」と手渡す訳にはいかない。

 リュカにとっても、生活費が掛かっているのだ。

 リュカはもう一度トランシーバーに向かって叫んだ。


「悪いが無理だ!!他を当たってくれ!!俺は賞金首コイツの首で、貧民街の子供達に腹一杯飯を食わせてやる約束をしてるんだ!!お前達こそ、悪いことばかりしてないで、世の為人の為になることをしようとは思わないのかぁ!?人には誰しも正義の心がある筈だ!!自分の胸に手を当てて考えてみるんだ!!お前達ならきっとできる!!先生はそう信じてるぞー!!」

『誰が“先生”だ!!?意味のわかんねぇことばっか言ってんじゃねぇ!!……どうしても渡したくねぇってんなら、死ぬ覚悟できてんだろうなぁ!!?』


 水と油である。

 反発し合う両者に、残念ながら共存の道はないようだ。

 リュカはモニターから手頃な小惑星を探し出し、進路を変更する。宇宙船で闘うには二対一では不利だ。

 リュカの船が移動するのを見て、海賊達にも意図がわかったのだろう。海賊達にとっても、リュカの船が大破し、中の賞金首が宇宙空間の彼方へと飛んで行ってしまっては大事ことだ。

 双方小惑星に着陸し、船の中から姿を見せる。

 海賊の数はおよそ十人弱と言ったところか。対して、リュカは一人だけ。

 しかしリュカに焦った様子は微塵もない。

 頭のゴーグルを目に装着すると、軽く両手首を回した。


「……喧嘩を売って来たのはそっちだ。もう二度と悪さができないよう……徹底的に懲らしめてやるから、覚悟しろよ!!」

「吐かせ!!……野郎共、掛かれェエ!!!」



 *       *       *



 三時間後。

 この宇宙に幾つもあるヴァルテン帝国の基地惑星。その内の一つ……本城惑星と最も近い帝国の惑星ほしに、リュカの宇宙船は降り立った。

 ヴァルテン帝国の宇宙船とそれ以外の船ではターミナルが異なる。帝国以外の船が出入りすることは滅多にない為、リュカの船以外に停泊している宇宙船は見当たらなかった。

 リュカは賞金首の男を腕に挟むと、悠々と広いターミナルを一人闊歩する。

 すぐに目的の場所は見えた。

 賞金首の換金所窓口だ。

 リュカは手慣れた様子でベルを鳴らす。


「……何だ?……って、リュカか。この前別の奴を捕まえて来たばかりだろ。仕事の早ぇ奴だ」


 中から出て来たのは、竜のエンブレムを刻んだ戦闘服に身を包む魚人種の男。間違いなくヴァルテン帝国の兵士である。

 リュカは「まあな」と笑って、賞金首をドサッと前に置いた。


「ッ!!おい、コイツ……ビイツ様に手を出して、逃げ切ったって言う……信じられねぇ!ビイツ様でさえ、仕留め切れなかった奴を……お前、腕上げ過ぎだろ!?帝国軍に入れば、確実に幹部まで昇進できるぞ!?いつまで賞金稼ぎなんかやってるつもりだよ!?」


 窓口係の男が目を見開くが、リュカは「否ぁ」と首を横に振る。


「帝国軍に入る気はねぇよ。俺には目的があるからな。腕を上げるのもその為だ。まあ、もう絶対に叶うことはねぇが……でも、それでも何が起こるかわからないのが、この宇宙だろ?いつ機会チャンスが来ても掴めるように、俺は自由で居てぇんだよ。そもそも、誰かの下に就けるような性格じゃねぇし。誘いは嬉しいよ。ありがとな」


 会話しながら、リュカは男が用意してくれた賞金を袋に詰める。


「まあ、確かにお前は帝国軍って柄じゃねぇな……」

「だろ?……それより、他に仕事ねぇか?賞金首は居場所のわかる奴、粗方獲っちまったんだ。他に困ってる事とかねぇの?」

「つってもなぁ……今軍じゃ、裏切り者の捜索で幹部全員が出動中なんだ。幹部無しの末端戦闘員だけで出来る仕事と言えば資源調達くらいだし、お前に振れる仕事は全部凍結中だ。また用ができれば、連絡してやるよ」

「おう、わかった。ゴタゴタ、早く片付くと良いな」


 片手を挙げて、踵を返そうとするリュカ。

 その時、背後から「ちょっと待て!」と誰かに肩を掴まれた。咄嗟に手を振り払い、リュカは右手の人差し指と中指を相手に向ける。

 そして、立っていた人物にポカンと口を開いた。


「て、テッダ様!?」


 最初に声を上げたのは窓口の男だ。

 テッダ……ヴァルテン帝国幹部の一人である。

 臙脂色の腰まで届く長い髪。浅黒い肌には甲冑のような黒光した外骨格が浮かんでおり、尖った三白眼は目付きの悪さを強調している。腰からは先端の鋭く尖った尻尾が生えており、見た目の厳つさと言ったらなかった。

 種族分類はその他……蠍人間である。


「何だテッダか……いきなり背後に立つなよ。間違って撃ったら、どうするつもりだ?」

「ば、ば、馬鹿野郎!!リュカ、相手を誰だと思ってる!!?敬語使え、敬語!!幹部様だぞ!!?」

「だから俺は帝国軍じゃねぇし、入る気もねぇって」


 不遜なリュカの態度に怯える男だが、リュカ当人は何処吹く風。

 一切気にしてない様子で、テッダに「どうしたんだよ?」と用を聞く。

 テッダもテッダで、リュカの無礼さを怒るでもなく、ニンマリと笑みを深めた。


「否何、丁度お前に頼みたい仕事があってねぇ。報酬は弾んでやろう。時間があるなら、話だけでも聞いていかないか?」

「おう!別に良いぜ!」


 そうして二つ返事で了承したリュカは、ヴァルテン帝国基地内へと案内されるのであった。

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