表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/98

お疲れ様パーティー 

「ウニベル様!!至急報告したいことが!!」


 ヴァルテン帝国本拠地。城の最上階ウニベルの部屋に、一人の部下が慌てて入って来た。

 ウニベルは「またか……」と溜め息を吐く。今日一日で、一体何度報告を受け取ったことだろう。

 一度目は、パピヨン星に送った兵の通信機が全て破壊され、宇宙船の監視カメラもまた皆壊されたことについてだった。丁度宇宙に出ていたジムとクードに聞いても、知らぬ存ぜぬで何もわからず終い。

 続いて末端兵が全滅したと言われ、三度目の報告では、何と天下のヴァルテン帝国幹部であるジムとクードの生体反応が消滅したと聞かされた。

 最後にパピヨン星に放置されていた宇宙船が自爆したと受けたのが、丁度二時間前であったか。

 パピヨン星に送った兵が、幹部含めて皆()られてしまったのである。

 そんな耳を疑う話は、ウニベルと言えど聞いたことがなかった。

 現在原因を考え、次の手を決めている最中である。

 その上で、一体更に何を報告するつもりか。

 ウニベルからザワリと殺気が溢れる。

 部下の男は冷や汗混じりに口を開いた。


「じ、情報屋から新たに有益な情報を入手しました!ジム様とクード様を殺害し、パピヨン星侵略を阻んだ犯人と思しき人物像が判明!そ、それによりますと……」


 そこで部下の男は言い淀んだ。

 ウニベルは「焦ったいなぁ」と後頭部をガシガシ掻く。


「何?報告するなら、さっさとしろ!この俺の支配するヴァルテン帝国に、誰が喧嘩を売ったって?」

「は、はい!……情報屋によると、名前、年齢、性別……全て不明。ですが、種族の特徴だけはわかったらしく……曰く『虎の耳と尻尾を持ち、凄まじい強さで帝国軍を蹴散らした』と……」

「ッ!!!」


 ウニベルの瞳が大きく見開かれた。ガタンと音を立てながら、勢いよく席を立つ。

 その反応は予想通りだったのか、部下は慌てて「じ、情報屋が言うには」と続けた。


「この情報はパピヨン星人から直接仕入れたらしく、更には……その犯人は帝国軍の兵団を全滅させると、すぐさまパピヨン星を去って、どこかへ行ってしまったと……ど、どうなさいますか?」


 恐る恐る采配を仰ぐ部下。

 ウニベルはしばらく黙って肩を震わせると、堰が切ったように笑い出した。


「ハハハハハハ!!!……はぁ……道理で通信機やカメラを破壊する訳だ。宇宙船が自爆したと聞いた時点でまさかとは思ってたけど……」


 笑いが収まらないらしく、ウニベルはクツクツと声を漏らす。机にドカッと両手を突けば、「幹部を呼べ」と命令した。


「パピヨン星なんか後回しだ!!幹部全員、すぐに調査に当たらせろ!!ジムとクードを殺した張本人……謎の月猫族の正体を暴いて、俺の前に連れて来るんだ!!」

「は、ハッ!!」


 バタバタと部下の男が駆け出して行った。

 静かになった部屋で、ウニベルは窓の景色を眺める。


「……そろそろ会えそうだね、リーファ」



 *       *       *



 所変わって、パピヨン星から地球までの宇宙空間。

 一隻の船の中にて、シアが「そう言えば」とリーファに視線を向ける。


「情報屋って、そんな簡単に手に入った情報を信じてくれるものなの?」


 シアが首を傾げる。

 リーファが自身の生存をヴァルテン帝国に仄めかす為に利用すると言った『情報屋』……リーファが言うには、宇宙中の惑星に情報網を持っており、ありとあらゆる情報ネタと引き換えに、ヴァルテン帝国から自身の自由と身の安全を確保しているらしい。情報の仕入れ先は幾つもあれど、たった一つ確定しているルートが、今回リーファがアゲハに教えたモノだ。とある惑星の酒場である。

 本来はヴァルテン帝国が情報屋に自分達の欲しい情報を流す為に利用していた場所だ。そこで「帝国軍がこんな情報を欲してる」と適当に噂を立てるだけで、後日情報屋が欲しい情報を手にヴァルテン帝国の城門を叩くのである。

 つまりその酒場では、年がら年中情報屋が聞き耳を立てているのだ。


「ああ。情報屋アイツが必ず張ってある酒場がある。そこで適当に話をしてるだけで、情報屋アイツは自分から聞き耳を立てて来るさ。帝国軍幹部だった時に、その酒場を色々利用したから間違いない。後は情報屋が勝手に帝国軍に情報を渡してくれるだろうよ」

「へぇ……まあ後は作戦成功を祈るしかないね。『もしパピヨン星にまた帝国軍が侵略してくれば、連絡して』ってアゲハにも伝えてるし」


 そんな話をしながら、二人は約一日間の星間飛行を終えたのであった。



 *       *       *



 約三日ぶりの地球。

 町から少し離れた高原に、宇宙船は無事着陸した。

 船から降りるリーファとシア。

 飛び込んで来た視界に、二人は揃って目を見開いた。


「「「お帰り!!シア!!」」」


 町の人達が全員、シアの元へと駆け寄って来たのである。

 パピヨン星でのことは、星間飛行中にメガが持たせてくれた通信機で連絡済みだ。

 皆一様に笑顔を浮かべ、撫でたり背中をバシバシ叩いたり、シアを揉みくちゃにしている。


「良くやった、シア!!帝国軍の幹部を一気に二人も倒すなんてな!!」

「帝国軍の侵略を退けた惑星ほしなんて、史上初よ!本当に偉大なことを成し遂げたわ、シア!!」

「うわっ!……あはは!ちょ、待っ……くすぐったい!あはは!!」


 十分程町の人達から賛辞を受け、漸くシアは解放された。

 ボサボサになった頭を戻しながら、「俺だけの力じゃないよ」と、輪から離れていたリーファの手を引いて来る。


「リーファがアゲハを最後まで支えてあげたから、アゲハはパピヨン星を自分の力で護り抜くことができた……俺はそんな二人の手伝いをしただけだよ。ね?リーファ」

「……支えたつもりなんかない。言いたいことを言って、やりたいことをやっただけだ」

「素直じゃないよね、本当……」


 シアの手をアッサリ振り払うリーファに、シアが苦笑を溢した。

 リーファは特に言い返すこともなく、そのまま背を向けて家へ帰ろうとする。


「そうだ、シア!今日は宴だ!!この宇宙初の快挙を祝って!!シアの好物も一杯作ってやる!!」

「!本当!?……でも、俺と同じ文化圏の惑星出身の人居なかったよね?レシピ、どうするの?」

「勿論、お前が作るんだ!」

「……ソレ……『作ってやる』とは言わないね。まあ良いけど……ねぇ、一つお願い良いかな?」

「??何だ?」


 町の人達が首を傾げる。

 シアはニコッと良い笑顔で、そそくさと帰ろうとしているリーファの元へと飛んで行き、町の人達の前まで引っ張って来た。


「リーファも一緒にパーティーに参加させて貰えないかな?」

「「「ッ!!?」」」


 リーファも含めた、シア以外の全員が驚きで固まる。

 それもそうだ。『余程のことがない限り、町には出向かない』……ソレがリーファが地球に住まわせて貰う条件の一つなのだから。そもそも元ヴァルテン帝国幹部出身であり、この地球に住まう全ての人達の故郷を滅ぼした月猫族と、ヴァルテン帝国侵略を防げた初の快挙を祝うなど気まずい以外の何モノでもない。

 町の人々が何か言う前に、リーファが最初に「はぁあ!?」と声を荒げた。


「テメェ、何勝手なこと言ってやがる!?」


 一気に口調が悪化するリーファ。シアは笑顔のまま「だって」と口を開いた。


「リーファもすっごく頑張ったんだから、一緒にお祝いしたいじゃん。リーファだって、この地球が帰って来る場所でしょ?なら、皆と少しでも仲良くなろうよ」

「……くだらない。用が済めば、どうせこんな惑星ほしとはおさらばだ。仇と仲良くしたい奴なんか居る訳ないしな」


 取り付く島もない。

 一蹴するリーファだが、シアは勝算でもあるのか「それに」と笑顔を浮かべている。


「陽鳥族と月猫族の文化圏って一緒でしょ?故郷の味、久しぶりに食べたくない?」

「!…………」


 ピタリとリーファの動きが止まった。

 シアは知っていた。リーファだけなのか、月猫族の特徴なのかは定かではないが……とにかくリーファが食べ物に目がないということを。

『故郷の味』とは誰にとっても特別なモノである。

 絶対に食い付く筈だ。

 案の定、リーファは抵抗を止めて大人しくなった。


「……桃まん」

「!……わかった。いっぱい作るよ!……ねぇ、皆……ダメ、かな?」


 リーファの了承を得れば、今度は町の人達に向けて、シアが首を横に倒す。

 何か言いたげな表情かおを見せながらも、人々は渋々シアの願いに頷いた。


「ま、まぁ……今回だけなら」

「月猫族の手柄があったのも間違いじゃないし……」

「本当!?ありがとう!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ