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アゲハ対ジム 

 リーファとシアが、それぞれ自分達の闘いを終える頃……アゲハはジムに苦戦を強いられていた。


「ハァ!ハァ!ハァ!……ッ!」


 額から流れる血が目に掛かる。もう既に身体中傷だらけのボロボロだ。対照的に、ジムは最初にリーファから受けた手首のダメージ以外、一切手傷を負っていない。

 二人の実力差は明らかである。


「まだ立つつもりか?」


 ジムが余裕綽綽と聞いて来る。

 アゲハは「当然だ」と剣を構えた。


「言った筈だッ!諦めないと!!」

「馬鹿なことだ。さっさと諦めてサインをすれば、痛い目に遭わなくて済むと言うのに……」


 ジムが鼻で嗤う。

 アゲハは剣を握る手に力を込めながら、半刻程前にリーファと手合わせしたことを思い出した。



 〜       〜      〜



「グアッ!!……ハァ!……ハァ!……」


 渾身の一刀を跳ね返され、アゲハが草原の上に転がる。肩を上下に動かしながら、上半身だけ起こした。


「い、一撃も入れられなかった……リーファさん、僕……こんな調子でジムに勝てると思いますか?」


 苦笑いと共にアゲハが尋ねれば、リーファはフッと微笑む。

 そして……。


「無理だな。実力差があり過ぎる」


 ハッキリと宣言されてしまった。

 これにはアゲハもショックである。わかっていたことだが、面と向かって言われ、アゲハは「そ、そうですか……」と俯いた。

 だが、リーファは「安心しろ」とアゲハの腕を引っ張り、立ち上がらせる。


「倒れなきゃ、勝てなくても負けねぇよ」

「え……?」


 首を傾げるアゲハ。

 勝てないのに負けもしないとはどういうことか。

 不安げな表情かおを見せるアゲハに対して、リーファは自信たっぷりな様子で笑っていた。


「勝負ってのは倒れた瞬間、負けが決まる。言い換えれば、立ち上がり続けてさえいれば『負け』はないってことだ。だから、負けたくないなら絶対に倒れるな」

「で、ですが!僕の攻撃が相手に通じなければ勝てません!!負けなくても勝てなきゃ意味が……」

「その為に特訓してやってるんだろ。良いか?前も言ったが、ジムの純粋な戦闘能力は私より下だ。私の動きに慣れれば、いずれ必ずジムの動きを捉えられるようになる。ジムはどうせ、お前のことを『格下』と思って油断してるだろうからな。隙を突いて、急所一撃だ。わかったら立て」

「ッ……はい!!」



 〜       〜       〜



 リーファの助言を胸に、アゲハは翔け出した。


 ……諦めない!!絶対に勝つまで倒れものか!!


 アゲハが真横に剣を振るう。しかしジムは剣の腹を膝蹴りすることで軌道を逸らし、相手の体勢が乱れたところで前蹴りをかました。咄嗟にバク転で避けるアゲハ。


 ……リーファさんの言ってた通り、動きのキレもスピードもリーファさんの方が格段に上だ。ジムの攻撃も段々と見えるようになってきてる。後は僕の身体がソレに追い付いてくれさえすれれば……。


 思考を回しながら、アゲハは大地を蹴り、間髪入れず次の攻撃へと移る。

 剣を大きく振りかぶり、ジムの目の前へと飛び出した。


「ハァアアア!!!」


 咆哮を上げて、剣を振り下ろす。

 だがしかし……。


「言っただろう?……『俺に届かせるには、一歩足りない』と……」


 アゲハの剣撃は、ジムのマントによって受け止められていた。ただの布ではないようだ。全く切れる気配がない。


「俺のマントは特別製だ。本来は虫を孵す用だが、マント(コイツ)には虫の破片が幾つも入ってる。合金みたいなモノだな。加えて、ある種の虫達が胴体を斬られても動けるように、本体が無くても俺の意思で自由自在に動いてくれる。だからこんなこともできるのさ……」

「グッ……ゥアア!!!」


 まるで生きているかのように蠢き出したマントがアゲハの剣を巧みに弾き飛ばし、一瞬の隙を突いてアゲハの身体を地面へと叩き落とした。


「ガハッ!……ゲホッ!ゴホッ!」


 衝撃で土煙が舞う中を咳き込む。

 震える手足を踏ん張って、とりあえず落としてしまった自分の得物を探した。

 すぐに見つけるが、距離としては少し遠い。

 アゲハの探し物に気付いているのだろう。

 ジムは転がっている剣の前に、わざと降りて来た。


「さて……そろそろ楽になりたいとは思わないか?わかってるんだろう?絶対にお前に勝ち目がないということを……こっちだって、殺したくないんだ。任務が失敗すれば、ウニベル様からどんな処罰を受けるかわからないからな。早く諦めろ!」


 穏やかな口調だが、額に青筋が立っている。ジムもいい加減、中々折れないアゲハに腹が立って来ているのだろう。


「ッ…………!!」


 アゲハが歯を食いしばる。

 武器は敵側、身体のダメージも限界値直前だ。


 ……立て!立つんだ!!倒れない限り負けない……この星を護るんだろ!!


 心とは裏腹に、突っ張っていた腕からガクッと力が抜けた。服の下に首飾りとして仕舞っていた“エルピス”が、シャランとアゲハの目の前で垂れる。

 その時だった。


「アゲハーーーー!!!」


 一際通る、凛とした可憐な声。

 アゲハはハッと顔を上げた。


「アゲハ王子ーー!!!」

「殿下ーーーー!!!」

「王子様ーー!!!」


 王都から、わざわざミイロの街跡まで来てくれたらしい。パピヨン星人全員が、アゲハへ向けて声援を贈っていた。

 民を率いているのはアグリアスだ。


「アゲハーー!!頑張って〜〜ッ!!」

「……アグリ……皆…………」


 ふと身体が楽になった気がした。


「フン……虫ケラ共が……どいつもこいつも、諦めの悪い馬鹿ばっかりか」


 パピヨン星人達へと意識を向けて、ジムが吐き捨てる。ジムにとっては、自ら殺されに来たようにしか見えない。


「……そう、だッ……何度も言ってるだろッ……僕達は諦めないッ!絶対に希望を捨てない!!」


 いつの間にか、アゲハは確と立ち上がっていた。

 ジムが僅かに瞠目する。

 アゲハは首飾りを……力一杯“エルピス”を握り締めた。


 ……“エルピス”よ……今だけで構いません!どうかこの星を……大切なモノ達を護れる力を僕に!……与えたまえ!!!


 アゲハの希望のぞみが届いたのだろうか。

 “エルピス”が強い閃光を放った。


「ウッ……!」


 辺り一面を覆う眩しさに、その場の全員が目を瞑る。

 数秒程で光が収まれば、アゲハの右手には輝く一振りの剣。その塚は“エルピス”と同じく、逆三日月と八芒星を象っていた。


「……コレはッ……!!」


 アゲハが新たな剣を目の前に翳す。

 今まで散々痛ぶられた筈の身体からダメージが消えている。それだけじゃない。身体が信じられないくらい軽くなっていた。


「……な、何だ?ソレがパピヨン星の秘宝とやらか!?」


 ジムもジムで状況に付いていけてないようだ。明らかに動揺している。

 アゲハは表情を引き締め直すと、光り輝く剣尖をジムへと突き付けた。


「コレは……僕達パピヨン星人の“希望の結晶”だ!!……ジム!!お前を倒し!故郷ほしに平和を取り戻す!!」

「ッ〜〜〜〜!!……たかが剣が新しくなったくらいで……調子に乗るなよ、虫ケラがァアア!!!」


 到頭ジムの怒りが爆発した。

 脇目も振らず、飛び掛かって来るジム。拳を振り上げれば、凄まじい勢いでパンチを繰り出した。


「ッ!?」


 ジムが目を見開く。

 先程までのお遊びのような攻撃じゃない。本気の一撃だ。確かに本気のスピードで拳を突き出した。

 にも関わらず、アゲハはジムのパンチを綺麗に躱していた。


「ッ〜〜!!」


 焦ったように、ジムはパンチを繰り返した。時折、蹴りや肘鉄なども交える。

 最大限スピードを上げた連続攻撃だ。

 だがアゲハには掠りもしない。


 ……何だ!?どういうことだ!?一体何が起こってる!!?


 ジムの頭の中はパニックだ。

『余裕』なんて言葉とはかけ離れた形相で、アゲハを睨み付けている。

 対するアゲハはポカンと呑気な表情を浮かべていた。


 ……凄い!身体が思ったように動く!ジムのスピードも、さっきとは比べ物にならないけど……やっぱりリーファさんより遅い!動きは読める!


 次第に驚きは自信へと繋がる。

 アゲハは一度後方へ跳び、ジムから距離を取った。


「覚悟するんだ、ジム!!」


 そして一気に羽を広げる。


「ハァアアア!!!」


 ジムの鼻先へと躍り出れば、思いきり剣を斜めに振り下ろす。

 ガキンと、金属音が鳴った。

 マントだ。ジムのマントが刃を受け止めている。


「は、はは……ハハハハハ!!やはりお前如きでは、この俺に届くことは……ッ!!?」


 ビキッと、マントに亀裂が走る。

 まさかとジムが顔を青褪めさせるが、もう遅い。


「……ハァアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 アゲハは剣を振り切った。


「ギィアアアアアア!!!」


 血飛沫が飛び散り、ジムの断末魔が星中に響き渡る。

 粉々に砕け散ったマントを下敷きに、ジムが地面へと倒れた。肩から腹に掛けてできた大きな切り傷から、ドクドクと血が溢れ落ち、血溜まりを作っている。

 起き上がって来る気配はない。


「ハァ!ハァ!ハァ!…………勝った……??」


 肩で息をしながら、アゲハは半信半疑で呟く。

 その直後、パピヨン星人達からの歓声が、高らかに空へと昇ったのであった。


 アゲハ対ジム……勝者、アゲハ――。

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