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リーファ対合体虫 

「………………」


 所変わって、リーファの戦場では。

 数えるどころか、一匹同士の区切りすら見当たらない程、帯状になっている虫の大群が凄まじい勢いでリーファに蹴散らされていた。

 リーファの一撃で倒れる虫の数は数十匹。虫達に勝ち目はないだろう。

 しかし、いかんせん数が多過ぎる。千匹倒しても、まだ半数も減っていない事実に、リーファは既に遠い目をしていた。


 ……やっぱりジムの方貰えば良かった……嫌なんだよなぁ、コイツら。気持ち悪いんだよ……できる限り闘いたくねぇ……。


 最大限表情(かお)を歪ませながら、十匹、百匹と虫を殺していく。

 的が小さいので、ジンシューを駆使していた。リーファお望みの肉弾戦は、この状況だと不利でしかない。

 お陰でストレスばかり溜まって、全く戦闘欲求が満たされなかった。


 ……もう良いか。一気に消し炭にした方がスッキリするだろ……。


 リーファは自分がしたい戦闘スタイルを諦め、一気に上空へと昇っていく。

 両手の平を重ねて突き出せば、特大のジンシューを生成した。


「ハァア!!!」


 光の柱がリーファの手から降りた。

 柱が消えれば、四分の一の虫が塵と化している。それでもまだ半分以上残ってるのだから、リーファは舌打ちを溢した。

 とそこで、虫達の動きが変わる。帯状に広がっていたのが、一箇所にギュウギュウと合わさり始めた。


「??…………」


 気持ちの悪い光景に顔色を悪くさせるリーファ。

 ジンシューですら放つのを戸惑うこと数秒……気付けば、虫の大群は消え失せ、代わりに一匹の巨大な虫となっていた。ムカデのような細長い胴体に、カマキリのように鋭利な二つの鎌。トンボを思わせる大きなギョロギョロとした眼と、蜂と同じ毒針。


 ……合体した……。


 唖然とするリーファ。

 まさか合体虫キメラになるとは。

 数の分を取ったままでは勝てないと判断しての行動だろうが、むしろ一匹に纏まってくれたのはリーファにとって都合が良い。


 ……気持ちの悪さは増したが……これならコイツだけ倒せば終了だ……。


 リーファは握り拳を作った。


「……ッ!」


 リーファの重いパンチが合体虫キメラの腹に沈む。

 リーファは目を見開いた。

 そこそこ力を入れて殴った筈だが、合体虫キメラはビクともしない。

 相当な外骨格を持っているようだ。


「へぇ……」


 リーファがニヤリと笑う。その笑顔かおは正しく悪役ヴィランだ。

 合体虫キメラが鎌を振り降ろす。

 リーファは避ける素振りを見せることなく、鎌を親指と人差し指で受け止めた。そのまま指先にグッと力を込めれば、鎌にヒビが入る。


「ギィァア!!」

「精々楽しませてくれよ?」


 真紅の瞳が怪しく光った。

 と同時に、合体虫キメラの腹に今度は蹴りが入る。


「ギィァ!!」


 先程と違い、くの字に折り畳まれる胴体。バキンと、外骨格が割れた音がした。

 しかし合体虫キメラもやられっぱなしではない。素早く長い図体を動かして、リーファの胸目掛けて毒針を突き出した。

 直撃すれば、毒殺の前に刺殺されることになるだろう。

 だがしかし、毒針がリーファの身体を貫く頃には、既にリーファはその場に居なかった。トンボの目を持ってしても追えないスピードで上昇したらしい。次の瞬間、上空からリーファの踵落としが合体虫キメラの毒針を打ち砕いた。

 合体虫キメラの悲鳴が耳を劈く。


「うるさいな……」


 文句を呟きながら、リーファが耳をペションと寝かせた。


「次は鎌だな」


 フッと笑うリーファ。

 合体虫キメラが後退る。心なしか、怯えているように見えた。


「『月猫族わたしを血祭りに』か……無茶なご主人様で残念だったな」



 *       *       *



 そして十分後。

 全長二十メートルは軽く超えていた合体虫キメラは跡形もなく消えており、所々折れた針や粉々になった鎌などが地面に落ちていた。

 そんな悲惨な大地の上に、リーファは涼しい表情かおで座っており、遠くで闘っているアゲハを見つめている。


「おーい!リーファ〜!!」

「!」


 シアが南方の空から飛んで来た。

 所々服が破け、血が布に滲んでいる部分もあるが、不思議と怪我の目立つ箇所がない。


「随分と派手な格好だな」


 リーファが穏やかな笑みで揶揄えば、シアは「えっ?」とキョトンとした後、すぐに「あはは」と後頭部へと片腕を回す。


「身体は勝手に超能力の効果で癒えてくれるけど、服はそうもいかないからね〜。リーファこそ……何か凄く悲惨な現場跡って感じだけど……色々と転がってるアレ、何?」

「虫の残骸。気になるなら火葬しとけ」

「……まあ確かに気になるけど……クード戦で超能力使い過ぎて、体力が底尽きかけなんだよね。リーファ余裕あるなら、代わりにやってくれない?」


 顔の前で手を合わせるシア。

「貧弱な奴……」と溜め息を吐きながらも、リーファは素直にジンシューで残骸処理をしてくれる。場の凄惨さがなくなれば、シアは「アゲハ、どんな感じ?」とアゲハとジムの闘いを観戦し始めた。


「まだ押されてる。時間はもう少し掛かるだろ。それよりお前、ちゃんとクードの息の根止めて来たよな?」


 念の為リーファが確認する。答えなど分かりきっているのか、シアの方を見向きもしない。

 しかしシアは、リーファの予想を見事裏切ってみせた。


「物騒な言い方だなぁ。止めてないよ。リーファの存在バレてないんだから、通信機壊すだけで充分じゃない?」

「は!?」


 リーファが思わずシアへと振り返る。

 まさか殺していないとは。意味がわからないと言いたげに、リーファが声を荒げた。


「馬鹿か!?何でトドメを刺してないんだよ!?生かしておいてもデメリットしかないだろ!!」

「命って言うのは、損得勘定で奪うモノじゃないでしょ。必要がないなら、殺さない方が良いに決まってる」

「ッ〜〜!……ちょっと行って来る」

「えっ……リーファ!?」


 シアが言葉を告げるより先に、リーファは勢いよく飛び出した。

 あっという間に後ろ姿が見えなくなるのを、シアが唖然と見送る。


「……ホントに行っちゃった……」



 *       *       *



 その五分後。クードを消し炭にしたリーファが、額に青筋を立てて戻って来た。

 舌打ちを打ちながらドカッと腰を降ろす様は、苛立っていることをありありとシアに伝えてくれる。


「……ビイツの時もそうだったよね。執拗にトドメを刺すのは、リーファが彼らを恨んでるから?」


 シアが問い掛けた。

 質問をしている方もされている方も、アゲハの死闘へと視線を向けたままで、互いに目を合わせることはしない。

 リーファは見せつけるように、大袈裟なまでに息を吐いた。


「関係ない。恨みはあるし、互いに嫌い合ってる……が、殺す理由はソレじゃない。……帝国軍には二種類の人間が居る。無理矢理労力として連れて来られた奴らと……自分から故郷や同種なかまを裏切って、ウニベルに忠誠を誓った奴ら。幹部以上の人間は全員後者だ。自ら望んで、帝国に入ってる。クズなんだよ。生きてる資格もない……それに、どうせいつかは報いを受ける立場だ。だったら、さっさと退場させてやった方が良い。帝国軍を潰したいなら尚更な」


 酷く感情の消えた遠いを、リーファはしていた。そんな真紅を、シアはチラリと横目で見遣る。

 そして再び視線を戻した。


「……アゲハも殺すかな?」

「さあな。どいつもこいつも甘ったれてる。……あいつが殺さなくても、私がるだけだ」

「そっか……」


 二人の会話はここで途切れる。

 今はただ、アゲハの勝利を信じるだけだ。

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