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恋人の再会 

「あ、おかえり。遅かったね」


 城門までリーファとアゲハが揃って戻ると、シアが笑顔で出迎えてくれた。

 アゲハは「ご迷惑お掛けしました」と恥ずかしそうに謝るが、隣のリーファはシアに対してそっぽを向く。


「“貸し”だからな!」

「わかってるよ」


 念押しするリーファに、シアが苦笑いを浮かべる。とそこで、シアはアゲハがどことなくボロボロになっていることに首を傾げた。


「というか、アゲハ……何か傷だらけじゃない?どうしたの?」


 シアが尋ねれば、アゲハは「あ、これは……」と後頭部に腕を回した。


「先程までリーファさんに稽古をつけて頂いて……」

「えっ!よく擦り傷だけで済んだね!?」


 シアが驚く。普段の戦闘訓練を思い出して、少しだけ顔を青褪めさせていた。

 シアとアゲハが談笑を続ける中、リーファが「おい」とシアの首根っこを引っ掴んだ。


「お前に話しておくことがある」

「え、俺に?」

「ああ。こいつにはもう話したからな」


 親指で『こいつ』とアゲハを指すリーファ。

 双方に伝えるということは、これから起こる幹部との闘いについて、元ヴァルテン帝国幹部からの助言か何かだろうか。

 シアが予想を付ければ、リーファはそんな内心など露知らず、ニヤリと口角を上げた。


「お前、蛙を目一杯煽れ」

「…………はい?」



 *       *       *



 そして三十分後。

 計算通り、アゲハを探しに宇宙に出ていた幹部達の船が、パピヨン星に停泊している宇宙船と合流した。


「「「………………!!??」」」


 そして基地に戻って来たジム達一同は、目の前に広がっている信じられない光景に目を見開く。


「……な、何だコレは?」


 ジムが何とか口にする。

 目と鼻の先には、確かに自分達が基地として使っていたヴァルテン帝国の宇宙船。記憶が正しければ、まだ何百人という兵士達が待機していた筈だ。

 それがどうだろう。

 船の外で見回りをしていたであろう五人は、一様に血を吐いて倒れ、腕の通信機が破壊されている。


「じ、ジム様!クード様!中の兵達も同じように倒れて、通信機を壊されております!!しかも、船の監視カメラまでダメにされており……!」


 船の内部を調べに行っていた兵の一人が焦った様子で戻って来る。

 報告を受ければ、ジムとクードは互いに顔を見合わせた。


「一切の連絡が途絶えたと思えば……何てザマだ」


 クードが失望したように首を横に振る。

 ジムも同感のようで「全くだな」とマントを広げ、大量の虫を産み出した。


「倒れている兵共を、一人残らず食らってやれ」


 ジムが命じれば、虫達は一斉に倒れていた兵士達へと飛び掛かった。

 暫くの間、断末魔が辺りに響き渡る。

 血の一滴、骨一つすら残さず綺麗に後片付けを終えた所で、ジムは「さて」と兵二人に押さえ付けられている美女へと目を向けた。

 アグリアスだ。

 敵とは言え、目の前で凄惨な現場を見れば顔色も悪くなる。血色の引いた顔で、アグリアスはジムを睨み付けた。


「酷い……倒れた仲間を介抱するどころか、トドメを刺すなんて……貴方達に人の心はないのですか?」

「『弱者に苛立つ』という感情ココロがあるからこその行動ですよ、オヒメサマ。……そんなことより、兵達を倒したのは王子だと思うか?明らかに手口が、先日まで闘っていた奴のモノではないが……」


 ジムはグイッと、アグリアスの瞳を覗き込む。

 まるで嘘を吐けばバレるからなと、言わんばかりの圧力だ。

 しかしアグリアスは怯まない。


「何度も言っているでしょう。あの方がこの星に帰って来ることはありません!何処かの惑星に不時着すれば、メインのコンピュータが自動的に壊れるよう設定しています。何処の星に行き着いたのかは、私も知りません。彼を捕まえることは絶対にできない……未来の王妃として、貴方達の思い通りにはさせません!!」


 拘束されながらも、ジムに向けて啖呵を切る姿は、正しく“未来の王妃”であった。

 堂々とした凛々しい様に、ジムは僅かに眉根を寄せる。クードは「チッ」と舌打ちを溢した。


「まあ良いだろ。王子であろうとなかろうと、俺達帝国軍に喧嘩を売る命知らずな馬鹿が、この星に紛れ込んだのは事実だ。とりあえずは、見つけ出して始末するしかねぇだろ」

「そうだな。ならこのまま虫達に捜索を……ッ!?」


 言葉の途中で、ジムは何かの気配を察知する。ソレはクードも同じようで、二人は同時にその場から飛び退いた。

 その瞬間、どういう訳か二人が目を離した一秒にも満たない間に全ての虫が消し炭となり、十八人の兵達が突如として苦しみ出した。数秒足らずでバタバタと倒れていく兵士達。彼らの身体には皆同じように、純白の羽が刺さっている。


「何だ!?」

「??」


 状況に頭が追い付いていない二人だが、見張りが倒れて自由の身となったアグリアスに気が付いた。このままでは逃げられると、急いで戻ろうとした刹那……。


「ハァアアア!!」


 咆哮と共に、シアが上空から二人に向かって斬り掛かった。ギリギリのところで躱されるが、シアは慌てることなくジム達の行く手を塞ぐ。


「悪いけど、()()()()()()()()()()を邪魔しないでくれるかな?」



 *       *       *



「アグリ!!」

「ッ!?」


 不思議そうにシアの姿を見上げいたアグリアスの元に、酷く聞き覚えのある声が降って来る。

 惹かれるようにして振り返れば、アグリアスは思わず両手で口を覆った。


「……あ、げは……?」

「アグリ!!!」

「アゲハ!!」


 飛び込んで来たアゲハに力強く抱き締められ、アグリアスも涙を浮かべて相手の背中に腕を回した。


「アゲハッ!……また貴方の腕に包まれる日が来るなんてッ……!

「アグリッ……本当に、無事で良かった!……ごめん!君に辛い選択をさせて!でも安心して!」


 アゲハはアグリアスの肩を抱くと、互いの目を合わせる。

 光の灯った強い眼差しだ。アグリアスは何を言われずとも悟る。


「民もパピヨン星も、君のことも!絶対に僕が護る!!死ぬ為じゃない……勝ちに戻って来たんだ!!」

「!!……そう。わかったわ!私は貴方のことを何よりも信じてる!!勝って!この星を護って!!」

「うん、必ず!!」


 力強く頷いたアゲハは、腰の剣を抜いた。


「行って来るよ。安全な場所に避難してて」


 アグリアスに微笑み掛けると、アゲハはシアの元へと羽ばたいて行った――。


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