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新たな秘宝 

 広間よりも遥かに広々とした空間。

 しかし置いてあるのは一脚の荘厳な椅子と、その後ろには天井にまで届きそうな透明の結晶クリスタル……それだけである。

 神秘さと厳粛さの漂う玉座の間にて、アゲハとパピヨン星人達が立ち並んでいた。

 玉座の前に立つと、アゲハはクルリと民達へと身体を向ける。


「お願いします。僕に皆さんの超能力ちからを預けて下さい!!」


 ガバリと頭を下げれば、パピヨン星人は「勿論です」と力強く頷いた。


「こちらこそお願い致します、殿下!!」

「我らパピヨン星に“希望の光”を!!」

「新たなる“希望”をお恵み下さい!!」


 口々に嘆願すれば、民達は一様に片腕をアゲハへ向けて突き出した。

 赤、青、黄、紫、緑……五色の光の結晶が、それぞれ手の平に形成される。まるで虹が架かるように、光の結晶はアゲハの右手へと注がれていった。


 ……凄い……力が溢れて来る……。


 皆の力を受け取ると、アゲハは結晶クリスタルへと向き合った。


「我が名はアゲハ!宇宙()惑星()司りし、母なる創造神よ!パピヨン星王家の名の元に、我らに新たな“希望”を授けたまえ!!」


 祝詞を唱えながら、アゲハは右手で結晶クリスタルに触れた。

 ふと昔、父である王から良く聞かされた言葉を思い出す。


 ……『良いかい、アゲハ。“悪しきを知り、弱きを嘆く。善きを学び、強きを探す。おのが希望を貫く者に力は宿らん”……善も悪も学び知り、常に自己を高め続け、いついかなる時も希望を忘れない……そんな人間になりなさい。王族だからでも、パピヨン星人だからでもない。良き自分を目指す為、ひたむきに貪欲である者こそが立派だからだ。どんな種族であってもソレは変わらない。希望とは目指すべき理想の自己だ。目標なき努力は存在しない。だからこそ、希望を捨てず諦めない。どんなことがあったとしても……お前がいずれ新たな“希望”を生むなら、これだけは覚えておきなさい』


 ずっと心に刻まれている王からの言葉。

 体現できているかは不安だが、常にアゲハの心に在る言葉だ。


「ッ!」


 余りの眩さにアゲハが目を瞑る。

 結晶クリスタルがアゲハの意志を受けて光り輝いたのだ。

 光が収まると、結晶クリスタルから五色の光の柱が降ろされる。柱の中を流れ落ちて来るのは宝石だ。

 銀色の逆三日月の中で煌めく、八芒星を模した宝石。“エルピス”である。

 アゲハは五色の宝石をソッと手に取った。

 両手の平の上で転がる五つの星。

 アゲハはギュッと“エルピス”を握り締めた。


 ……“エルピス”よ。どうか我が星に希望の光を!!



 *       *       *



 その頃、城の外ではリーファが城門の上で一人座っていた。


「あれ?リーファ一人?」


 とそこに、基地での仕事を終えて来たシアが合流する。

 シアは何となくリーファの隣に腰掛けた。


「何でわざわざ外に居るの?もしかして俺のこと待っててくれたりした?」


 そうだったら嬉しいなという希望込みでシアが微笑み掛ければ、リーファは顰めっ面をわざわざ作って「そんな訳ないだろ」と即座に否定する。


「中に居るとウザいんだよ」

「??そっか。アゲハは?民の皆とお話し中?」


 何故城の中に居るとウザくなるのかわからないが、そんなことよりもアゲハのことだ。

 シアが尋ねれば、リーファは「ん」と立てた親指を城に向ける。


「今“エルピス”創ってる」

「えっ、戴冠式してるの!?」

「馬鹿か。そんな悠長なことやってる時間なんざないだろ。“エルピス”創ってるだけだ」

「あ、だよね。じゃあ俺も邪魔しないように外に居ようかな。ついでに話したいことあるんだけど良い?」


 一度断ってから、シアはヴァルテン帝国宇宙船で聞いた話をリーファへ始める。

 アゲハを探す為に、現在幹部はパピヨン星から離れていること。

 その所為で通信機を破壊できていない兵士が、幹部含めて二十人居ること。

 シア達がパピヨン星で行動を起こしていることがバレていること。

 異変に気付き、幹部達はパピヨン星へと引き返していること。


「……到着時間はおよそ二時間半後。それから気になること言ってたんだよね。『人質が居るから、もしアゲハを見つけたら、そのことを伝えて逃さないようにしろ』って……もしかして誰か捕まってるんじゃないかな?」


 シアが推測を話せば、リーファは「あぁ」と先程城内で近衛兵の男からアゲハと共に聞いた情報を思い出す。


「婚約者様が捕まったんだと。一般市民は死んでないが、兵に甚大な被害が出てる。隊長さんは実質戦場から降りた」


 淡々と告げるリーファに、シアは「え……」と感情が一瞬追い付かなくなる。

 すぐさま「ェエエ!!?」と驚愕の声を上げた。


「『婚約者様』って、アゲハの恋人さんってこと!?『隊長さん』って、例の宝石に選ばれた人だよね!?民が無事なら最悪ではないけど、アゲハにとったら似たようなモノじゃん!!アゲハ、相当ショックだったんじゃ……」


 耳元で大声を上げられ、堪らずリーファは耳を寝かせる。

 スパーンと軽くシアの頭をひっ叩けば、「隣で叫ぶな」と睨みを効かせた。


「……まあ、ショックだったんじゃないか。泣いてたし」

「そりゃ泣くよ!そんな状態で秘宝を創るなんて……大丈夫かな、アゲハ……」


 心配げに、シアが白亜の城へと視線を送る。

 リーファは興味なさそうに「問題ないだろ」と、焼け野原になってしまった城門前を見つめていた。


「アイツが『やる』って言って、やってんだから」


 リーファの言葉に、シアは「だと良いんだけど……」と後ろ髪引かれる思いで前へと向き直す。


「……でもさ、新たな“エルピス”を創っても、新たな戦士が必ずしも誕生する訳じゃないんだよね。一人でも選ばれてくれたら良いんだけど……」

「関係あるか?陽鳥族だろ。幹部一人くらい、一対一で楽勝しろよ」

「まあそうだけどね?でも……“ホープファイブ”だっけ?パピヨン星人にとっては英雄みたいなモノなんでしょ。一人でも選ばれれば幸運とは言ってたけど、それでもやっぱり選ばれなかったら悲しいんじゃないかな。このタイミングで“エルピス”を創るってことは、“ホープファイブ”に希望のぞみを賭けてるってことだと思うし」

「…………」


 そんな話を二人がしていると、ふと迫って来る気配に二人が気付く。

 敵意も殺気も感じない。慌てた様子もなく二人同時に振り返れば、アゲハがリーファ達の元へと飛んで来ていた。

 リーファ達と同じく城門に降り立てば、二人にニコリと笑みを向け……そして思いきり頭を下げた。


「すみません!!」

「え……え!?え、何事!?」


 突然の謝罪に、ものの見事に混乱するシア。

 アゲハはバッと、手の平を広げた状態で二人の目の前に突き出す。アゲハの手の上には光り輝く五色の宝石。“エルピス”だ。

 アゲハは腰を折ったまま、顔を上げない。


「ダメでした……“エルピス”は、誰も……選びませんでした……」

「ッ!!」


 その一言でシアは全て理解してしまった。

 何と声を掛けて良いかわからず、眉を下げる。

 構わずアゲハは続けた。


「現在、この星に“ホープファイブ”は居ません。したがって、帝国軍幹部と渡り合えるのは貴女方のみとなってしまったことを、深く……お詫び申し上げます……」


 更に腰を曲げるアゲハ。その足元に少しだけ()()が残っていく。


 ……アゲハ……。


 シアの心配を他所に、アゲハは「本当にすみません」と謝罪を重ねた。


「お願いします!パピヨン星の為に力を貸してください!!」

「……勿論だよ!手伝うって言ったじゃん!謝罪なんてする必要ないからね!」


 努めて明るくシアが返せば、頭を下げたまま「ありがとうございます」とアゲハが謝礼を伝える。

 とそこで、「おい」とリーファが声を上げた。


「約二時間半後、幹部二人が雑魚十八人連れて、パピヨン星にお戻りだとよ」


 アゲハの方を見ることなく、素っ気なく告げるリーファ。

 アゲハは「そうですか」と抑揚なく応えた。


「ではそれまで、どうぞお二人は城の中でご自由にお寛ぎください。僕はちょっと用事があるので、一度失礼します……」


 そうして最後まで表情かおを見せることなく、アゲハは何処かへと飛んで行ってしまった。

 数秒、残された二人の間を沈黙が流れる。

 先に口を開いたのはシアだ。


「……やっぱりアゲハ、凄く落ち込んでる……リーファ、ちょっと行って来てよ」

「あ?……はぁあ!?何で私が!?」


 信じられない頼み事に、リーファが声を荒げる。

 しかしシアは怯むことなく「まあまあ」と宥めた。


「だってリーファが一番適任でしょ?」

「ふざけるな!それこそお前が行けば良いだろ!?」

「否否、アゲハにはリーファの言葉が一番届くって!それにほら、俺はさっきまで大量に超能力使ってたから、体力の回復に専念しなきゃだし?」

「喰えない奴……一つ“貸し”だからな!」

「いってらっしゃい!」


 ビシッと人差し指を突き付け、リーファは捨て台詞を吐きながらアゲハの後を追い掛けた。そんなリーファを、シアが清々しい笑顔で見送るのであった――。

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