ド派手
辺り一面色とりどりな花畑。透き通るような水面の湖も見える。
ここはパピヨン星の無人地帯。王都から丁度真反対に位置する場所だ。
そんな自然豊かな土地に、宇宙船が一隻。
ハッチが開けば、中からリーファ達三人が出て来た。
「ここがパピヨン星かぁ〜!綺麗な星だね!」
シアが胸一杯空気を吸い込む。
現在侵略行為を受けているとは思えない程綺麗な風景に、リーファも辺りをキョロキョロと見渡した。
「無人地帯か……帝国軍もここには来ないんだな?」
「はい、恐らく……そもそも星中の民は皆、現在城に避難させてますので、どんな行動を取るとしても、帝国軍の用は城にしかない状況です」
「そうか……ッ!!」
突如、リーファの纒う雰囲気が変わった。目の前のアゲハの身体を強引に押し退けると、空に向かって手を突き出しジンシューを放つ。
すると、ジンシューは確かに何かに当たり、小さな黒い塊が燃えながら地面へと落ちて行った。
何事かと、シアとアゲハが目を見開く。
リーファは塵と化した燃えカスを見下ろすと、「成程な」と一人納得した。
「誰も居ない所は、ジムの虫が徘徊してるみたいだ。監視役だな。虫に見つかれば、ジムへと報告される」
「つまり通信機を破壊するまで、この小さな虫達にも気を付けないとってことだね」
三人はそれぞれ目を合わせると、コクリと頷き合う。
「それじゃあ作戦確認するよ。まずここから帝国軍基地までは三人で移動する……そこから二手に別れて行動。俺は基地内に忍び込んで、帝国軍の通信機を全て破壊する。リーファとアゲハは城へ向かって、パピヨン星人達の安否確認。とりあえずパピヨン星に居る帝国軍全員分の通信機を使えなくするまでは、目立った動きはしない。通信機を壊せたら、俺が城に向かって二人と合流する……その先は状況に合わせて全面戦争……ってこんな感じ。大丈夫そう?」
シアが最終確認をする。
いよいよパピヨン星の運命が決するかと思うと、アゲハは緊張から生唾を飲み込んだ。
「は、はい……何とか……」
「とにかく何処に潜んでいるかわからない虫に気を付けろ。闘り合うまで存在がバレなきゃ、どうにでもなる」
「そうだね。リーファが自由に動けるようにならなきゃ始まらない。俺も通信機破壊するついでに、一人でも多くの兵を潰しておくよ。幹部と闘う時邪魔になるだろうから」
作戦の見直しは済んだ。
ここからは実践の時間である。
「さあ、行こう!」
そうして三人は行動を開始した。
* * *
歩きだとかなり時間が掛かるので、空を飛んで移動すること十五分。
漸くヴァルテン帝国の宇宙船が見えて来た。
ここに辿り着くまで、虫はそこそこの数燃やして来たが、兵士の方は一度も見かけていない。となれば、兵士は全員宇宙船の中か、城へ向かっているかのどちらかということだ。
「やっと着いたね、帝国軍の宇宙船。それじゃあ、ここからは別行動……リーファ、アゲハ、そっちも気を付けてね」
少し離れた岩場の影から船の様子を確認して、シアが二人へと笑い掛ける。
「はい、シアさんもどうかご無事で」
「しくじるなよ」
「うん。頑張るよ!」
シアが両腕を持ち上げ、意気込みを見せる。
リーファとアゲハは再び宙へと浮くと、城の方へ飛んで行った。
二人の背中を見送り、一人取り残されたシアは「良し」と気合いを入れ直す。
「行くか」
シアは呟くと、岩場から飛び降りたのであった。
* * *
宇宙船まで残り五メートルと言った所か。
シアは物陰に身を潜めながら、周りの様子を探っていた。
ハッチの所に兵が二人。その周りに三人。計五人の兵士が宇宙船の外に出ている。まずは彼らの通信機からだ。
……通信機を破壊するだけなら簡単だけど、問題は騒ぎになって全員が一箇所に集まること……そうなったら、流石に俺一人じゃどうにもできないから、あくまで目立たないようコッソリやらないと……。
シアは頭の中で気を付けるべきポイントを確認しながら、自身の羽を五枚千切った。
……今だ!
タイミングを見計らって、千切った羽を飛ばす。
羽はそれぞれ兵の身体の一部に刺さった。
「痛ッ!?……何だこれ?……グッ……ァ……」
兵が疑問に思ったのも束の間。あっという間に五人の兵士達は呻き声を少し漏らして、その場に倒れ込んでしまったのである。
……上手くいった!
物陰から出てきたシアは、今の内にと倒れた兵士達の腕にある通信機を壊していく。
シアの羽には陽鳥族のエネルギーが強く流れているのだ。羽を当てるだけでも傷が勝手に癒えていくように。ならば逆も然りである。エネルギーを逆流した羽を身体に当てれば、一気に体調が悪くなる。
……三日間は気絶ってところかな。さて、中に入るとするか……。
* * *
無事シアが宇宙船に忍び込めた頃。一方リーファ達は、城までの道中でヴァルテン帝国の兵達の掃除に勤しんでいた。
「……城までの道に何人かは居ると思ってたが……流石に多過ぎだろ!」
既に二十人以上の兵を始末して、リーファが低い声を出した。
苛つくと言っても、壮大な戦闘を繰り広げて来た訳ではない。見つけた兵士を、全員背後から急所一撃。ジンシューで仕留めて来ただけである。その証拠に、アゲハは一切手を出す隙すらなく、呆然としながらリーファの後を付いて来ただけだった。
不機嫌の理由は、瞬殺した後に一々通信機をジンシューで撃ち抜く手間なのだろう。
……やっぱり月猫族の戦闘能力は凄まじいな……。
しかし、アゲハがのんびり空中飛行できるのもここまでのようだ。
目の前に聳え立つはパピヨン星の王城……その名の通りパピヨン城。そして城門前には先程までの比ではないヴァルテン帝国の兵士達が大量に群がっていた。
城門から大砲なり鉄砲なり、近衛兵達が応戦しているのが遠目ながら見て取れる。
……??モンキが前線に立っていない……?
不思議に思うが、悠長にしている場合でもない。
何とかしてあの大軍を押し退ける必要がある。
……目立たず、あの大軍を凌ぐには……。
頭を精一杯働かせるアゲハだが、戦闘なしにあの数をどうこうできる策が思い浮かばない。
だがしかし、リーファは焦る素振りすら見せず、「おい」とアゲハに指示を出した。
「城門で闘ってる奴らを、全員城の中に誘導して来い」
「えっ?リーファさん、何を……」
続きの言葉は、リーファの表情を見れば自然と喉から消えてしまった。
笑っている。リーファは不敵な笑みを浮かべて、ヴァルテン帝国の兵を見下ろしていた。
何か策があるらしい。
アゲハはそれ以上聞くことなく、「わかりました」と城へと急降下した。
* * *
「クソッ!もっと弾を持って来るんだ!!何としても、この門は死守するぞ!!」
門の中では数十人に満たない兵達が必死に防衛線を繋いでくれていた。
ヴァルテン帝国側が本気で攻め落とそうとしていないことはわかっている。それでもこれ程までに消耗させられているのだから、自分達の敗北は濃厚だった。
しかし彼らは諦めず闘っている。
そんな彼らの元に、“希望”が降り立った。
「皆、急いで撤退準備だ!!速く城の中へ!!」
「「「ッ!!??」」」
聞き覚えのある声。だが有り得ない筈の声である。
誰もが驚いて声の主へと振り返れば、立っていた人物に目を見開いた。
「あ……
「「「アゲハ様!!?」」」
「な、何故ここに!?」
「アゲハ様は星外へ逃したと、モンキ隊長が……」
騒つく兵達に、アゲハは毅然と「説明は後だ」と質問を遮る。
「僕を信じて、撤退を!城の中に避難するんだ!さぁ速く!!」
「「「ハッ!!」」」
揃って敬礼をすれば、兵達は手にしていた武器を床へと落とし、足早に城門を降りて行く。
最後の一人が無事城内へ入るのを見届けて、アゲハは以前として帝国軍の真上で佇んでいるリーファを見上げた。
……リーファさん、どうするつもりなんだろう……。
心配の眼差しで見つめるアゲハだが、ふとリーファが両腕を真下に向けて突き出した。
恐らくは近衛兵達の抵抗が止んだのを見て、何かしら動き始めるのだろう。
アゲハが固唾を呑み込み……そして息を呑んだ。
「!!」
離れていてもわかる。
リーファの両手の平に特大の光の玉が形成されている。紛れもなくジンシューだ。
ジンシューをどうするかなんて、わざわざ考え込む程アゲハは無能ではない。
……まさか……。
アゲハの予想は的中した。
リーファの両手から発射されたジンシューは、天から降り注ぐ光の柱として、ヴァルテン帝国の兵達を瞬く間に焼き払ってしまった。断末魔すらない、一瞬の出来事である。
「……凄い……」
思わず感嘆の声を漏らすアゲハ。
こうして城に侵攻していた帝国軍の通信機を破壊することに、リーファとアゲハは成功したのである。




