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お前を殺す 

*注意*

匂わせですが、残酷な描写があります。

「ッ……ヴッ、グァ……ッ!!!」


 首を締め付ける竜の尻尾が呼吸を阻む。

 上手く息が吸えない中、それでも必死に手を伸ばした。

 目の前には白く輝く惑星ほし

 ()()達月猫族の故郷……イタガ星。


「さあ、最高のショータイムだ」

「ッやめ……!!」


 オレの身体を横切って、莫大なエネルギーボールがイタガ星へと向かって行く。

 身体中ボロボロで、その上拘束された状態では、どうすることもできない。


 ……ごめん。ごめんなさい……。


 手が震える。

 伸ばした手は空を切るだけで、何処にも届かない。

 目の前で故郷が大爆発を起こして散って逝く。

 その火花すら手にすることはできない。


「ッ………………」


 結局オレは何も護ることができなかった。

 仲間も故郷も何もかも。


 ……『後のことは頼んだ。死ぬなよ、リーファ』


 ごめん。ごめん。

 護れなかった。護れなかった。

 今のオレじゃ、仇を取ることもできない。

 ごめん、ユージュン。


 オレは無力だ。



 〜       〜       〜



「ッ!!…………」


 パチッと、少女の瞳が開かれる。

 額には汗、少し乱れた息。

 少女はガバリと上半身を起こすと、一つ深呼吸をしてから視線をベッドへと落とした。


「……また、あの日の夢か……」


 少女が自虐的な笑みを溢す。


ッ……」


 身体中の痛みに耐えながらベッドから起き上がれば、少女はカーテンを開けた。

 窓から少量の光が入り込んで来る。

 それにより、少女の容姿がハッキリとわかった。

 光を受けてキラキラと輝く金色の長髪に、陶器のような白い肌。真紅の瞳はパチクリと大きく、愛らしい顔立ちだが何処か気高さも兼ね備えている。一番の特徴は、髪の間から覗く獣耳と、腰辺りからピョコンと出ている虎縞模様の長い尻尾だ。

 どうやら獣人種の種族らしい。耳と尻尾の特徴からして虎の獣人……月猫族のようだ。

 だが美しい容姿とは裏腹に、少女の容態は酷いモノだった。

 ダボダボの寝巻きの間から覗く肌は全て包帯で覆われており、包帯でカバーできていない部分は青痣が異様に目立っている。首に取り付けてあるピン付きチョーカーも異彩な雰囲気を放っており、とてもアクセサリーのようには見えない。

 だがしかし、少女に気にした様子はなかった。

 顔を洗って歯を磨けば、寝巻きを適当に投げ捨て、腕と脚に巻かれた包帯を全て取って行く。

 長袖のインナーとスパッツで痣を覆い隠し、シナ服と呼ばれる民族衣装を戦闘用に改造した服に袖を通せば、最後の仕上げと言わんばかりに、枕元に置いてあった赤黒いリボンを手に取った。左腕に腕章の如く結めば、朝の準備は完了である。

 丁度その時、扉の外から「リーファ様」と声が掛かった。


「朝食のお時間です。至急ウニベル様の元までお越しください」

「…………」


 すぐには応えず、「リーファ」と呼ばれた少女は誰にも聞こえないよう小さく舌打ちを溢した。

 左腕のリボンに右手でソッと触れる。


「……わかった」



 *       *       *



 宇宙には“帝国軍”と呼ばれている一つの巨国があった。その名もヴァルテン帝国……別名『宇宙帝国』。

 国と言うより一つの巨大な軍隊に近く、絶対的支配者である皇帝ウニベルによって治められている。宇宙に散らばるならず者達や、力づくで支配させられた者達で構成されたこの国は、他の星々と違い、様々な種族の人間が暮らしている。国民は科学者や医者を除いて、皆戦闘員として他星に送られ、土地や財産の略奪、優秀な人材の拉致、また帝国に逆らう者達の抹殺などを行っていた。数多の星々を侵略している帝国は、既に宇宙に存在する五割の星を支配下に収め、二割をその地に生ける全ての生物と共に消滅させた。今この宇宙に、ヴァルテン帝国と皇帝ウニベルの名を知らない者は存在しないだろう。

 正に宇宙の支配者であった。

 そして、帝国軍の戦力のおよそ四割を占めていたのが今は亡き月猫族である。



 *       *       *



「……お待たせ致しました、ウニベル様」


 部屋に入ってすぐ、リーファがウニベルへと頭を下げる。

 目の前には、所狭しと料理の並んだ大きめのテーブル。その一番奥の席に一人の男が腰掛けていた。

 全身を覆う蛇のような青い鱗。鱗と色合わせした長い髪は高い位置で一つに結ばれ、切れ長の瞳は怪しい金色の光を放っている。額からは木の枝のような二本の角が伸び、腰から生えた竜の尻尾は筋肉の塊であることが伺える。

 皇帝ウニベル。宇宙に一人しか居ない竜族のこの男こそ、宇宙の支配者たるヴァルテン帝国のトップに君臨する男であった。

 ウニベルはニンマリと笑みを浮かべると、チョイチョイとリーファを手招く。


「おはよう、リーファ。ほら、早くおいで。折角の朝食が冷めちゃうよ」

「…………」


 リーファは頭を上げると、一切感情の映さぬ瞳で言われた通りウニベルの元へと歩いて行った。

 促されるままウニベルの膝の上へと座れば、慣れた手付きで二人分の食事を切り分けていく。

 食べられる状態になった所で、ウニベルがスプーンを手に持った。


「はい、あーん」


 まずはスープの毒味のようだ。

 真顔のまま、リーファは抵抗することなく口を開ける。ゴクンと一飲みすれば、ウニベルが「美味しい?」と意地悪い笑みで尋ねてきた。

 答えようと口を開きかけた所で、リーファの動きが止まる。


「ッ!!…………」


 手先が痺れている。身体に激しい違和感を感じる。

 ウニベルは未だ怪しく笑んだままだ。

 リーファはここに来て、初めてウニベルを睨み付けた。


「ッ何をッ……飲ませたッ!?」


 片手で口元を押さえながら、苦しそうに眉根を寄せるリーファの姿に、ウニベルはウットリと恍惚の表情を見せる。


「何って……嫌だなぁ。安心しなよ。致死量は入れてないから」

「ッ!」


 リーファが僅かに目を見開く。

 薄々わかっていたことではあるが、どうやら毒が盛られていたらしい。それもリーファに飲ませる為にウニベル自らが入れたモノのようだ。自分の朝食でもある筈だが、必ず先にリーファが毒味をすることを突かれたらしい。

「何で」とリーファが聞く前に、ウニベルの右手がリーファの首を掴んだ。


「リーファさぁ……今日俺のこと、殺すつもりだったでしょ?」

「!!」


 否定しない。つまりは図星だ。

 ウニベルは更に続ける。


「相変わらずわかり易いねぇ、リーファは。駄目だよ、殺気はちゃぁんと隠さないと。前も言ったじゃん。それにさ……この十年俺に傷一つ付けることすらできなかったんだから、いい加減諦めなよ。俺を殺すなんて絶対に無理なんだよ。昨日も散々身体に教え込んだのに……まだ足りない?」


 言いながら、ウニベルはリーファの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしリーファはウニベルの右手首を逆に掴み返し、不敵に笑った。


「ッ……そう、やってッ……良い気に、な、てろよッ!……お前は、か、ならずッ……月猫族わたしが……殺すッ!!」

「…………ふーん、そう」


 抑揚のない声を出したと思えば、ウニベルがリーファを思いきり投げ飛ばした。

 毒で思うように身体を動かせないリーファは、まともな受け身も取れず壁に激突する。


「それじゃあやってみれば?頑丈さだけが月猫族きみらの取り柄だもんね。ほら、早く立ちなよ」


 ウニベルが煽る。

 しかしリーファは立ち上がらない。

 不思議に思ったウニベルが訝しむ眼差しを向けた途端、爆音と共に凄まじい振動がウニベルを……否、城全体を覆った。

 至る所から破壊音が聞こえ、窓からは爆煙も見える。考えるでもなく爆発が起こったのだろう。

 窓に向けていた視線を前方へと戻せば、先程まで床に倒れていた筈のリーファの姿は既に無かった。

 フッとウニベルが口角を上げる。


「成程、殺気は囮か。やるじゃん、リーファ」


 とそこで、ウニベルの腕に取り付けられている通信機から連絡が入った。


『ウニベル様!!大変です!!城内で爆発が!しかも、他の惑星にある帝国軍の基地までも同じタイミングで爆発があったようで……敵襲の可能性があります!!』

「被害は本拠地しろだけじゃないってことね。何ヶ月前から仕込んでたことやら……犯人はリーファだ。まだ城内に居る。さっさと捕まえて、俺の前に連れて来い」

『リーファ様が!?か、畏まりました!!』


 通信が切れる。

 壁に亀裂が入り、あちこちからパラパラと瓦礫の崩れる音がする中、ウニベルはリーファの消えた出入り口をただただ見つめて愉しそうに笑うのであった。


「ホント、飽きさせないねぇ…………」



 *       *       *



「ハァ!ハァ!ハァ!……」


 一方、ウニベルの部屋から出て来たリーファは、毒に侵されながらも人通りの少ない廊下を選んで外を目指していた。


 ……早く、しないと……追手が……とりあえず外へ……。


 バタバタと忙しない足音が至る所から聞こえて来る。

 リーファを探しているのか、消火活動に勤しんでいるのか。どちらにせよ、悠長に歩いている時間はない。


「ッ居たぞ!!お待ちください、リーファ様!!」

「ッ!!」


 見つかってしまった。

 リーファはふらつく足に舌打ちし、仕方ないと言わんばかりに身体を宙へと浮かせる。

 体力のつ限り目一杯スピードを出せば、漸く外へと通ずる窓が見えてきた。

 前方に手を翳し、手の平に光の玉を生み出したリーファ。光の玉(ソレ)を窓に向けて撃てば、壁一面ごと窓を粉砕する。


「リーファ様、ウニベル様より命令です!!直ちにお戻りください!!」


 兵士が叫ぶが、リーファに言うことを聞く義理はない。

 今度は後方に向けて光の玉を放ち、追手を吹き飛ばした。

 何とか無事外に出たリーファは、腕に付けてあるリング……その側部にあるボタンを押す。すると、瞬く間にリーファの身体が白い繭のようなモノで覆われ始めた。

 新たな追手が来る頃には、リーファを包んだ繭は宇宙に向かって飛び立って行ったのである。



 *       *       *



 五分後。ある程度消火活動も終わりの兆しを見せ始めた頃、ウニベルの元に再び通信が入った。


『ウニベル様、申し訳ありません!!リーファ様を取り逃しました!宇宙カプセルを使い、この星を抜け出した模様です!!()()()()()()()と通信機の発信機はどちらとも正常ですので、問題なく追跡できます!』

「わかった。中毒(あの)状態なら、幹部は一人で充分でしょ。手の空いてる奴全員引き連れて良いから、さっさと連れ戻せ。それから爆発を受けた基地と、ここの警備長を始末しときな」

『ハッ!!失礼致します』


 そうしてヴァルテン帝国幹部……リーファの脱走劇が始まった――。

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