超能力
注:説明回です。
リーファが地球へとやって来て三日が過ぎた。
「ハァ!!ッ!……ハッ!!」
午前七時。朝の涼しい風が火照ったシアの身体を冷やしてくれる。
シアは風切り羽でできた剣……風切り刃を片手に、家の周りに植えてある木の柱で剣の鍛錬をしていた。
シアが町から離れた場所で住んでいる理由も、気兼ねなく思いきり剣を振るえる方が鍛錬に集中できるからである。
「…………」
そんなシアの姿を、リーファが魚の大量に入った籠を両手に、ジッと無言で見つめていた。
流石に視線に気が付いたのだろう。
シアが「あっ」とリーファへと目を向けた。
「おかえり、リーファ。魚獲れた?」
フワリとリーファに笑い掛けるシア。リーファはシアの質問に答えることなく、「お前……」と口を開いた。
「その剣、我流だろ」
脈絡のない言葉だったが、シアは「わかる?」と恥ずかしそうに頬を掻く。
「教えてくれる人なんて居ないからね。でも……陽鳥族として、大切な人達くらいは護れるようになりたいからさ。ちょっとでも強くなろうと思って」
「……自己流でそこまで動けるなら、陽鳥族としての才能は充分だろ。傭兵種族の名は伊達じゃないってことだな」
「月猫族にそう言って貰えて、嬉しいよ」
照れるように、シアがはにかむ。
しかし、先程までの褒め言葉は何処へ行ったのか、リーファは「だがお前の場合……」と眉根を寄せた。
「強くなりたいなら、剣の腕より超能力を鍛えておけよ。ビイツと闘った時、あれっぽっち使ったくらいでへばりやがって……せめて連発しても平気で居られるくらいには使い慣れておけ」
「あはは……まあ、ごもっともだけど……でも、あんまり超能力で誰かを傷付けたくないんだよね。俺達陽鳥族の超能力は『人を癒す為の能力』だから」
シアが苦笑いを浮かべれば、「『癒す力』ね……」とリーファはふと疑問に思う。
「陽鳥族の超能力は“火の玉”だけかと思ってたが……“毒消し”の能力、アレは一体何だ?」
有名な種族ならともかく、他種族の超能力を全て把握してる筈もない。
リーファが尋ねれば、シアは「んー、そうだなぁ……」と言葉を探すように視線を上へと彷徨わせた。
「“毒消し”も“火の玉”も原理は同じだよ。陽鳥族の超能力は、簡単に言えば“癒しの焔”……癒しの力を持った熱エネルギーが身体の中で絶えず循環してるんだけど、そのエネルギーを外に放出することで、癒しの力を持つ焔の塊を出すことができるんだ。で、出した焔を怪我してる部分に当てておくと、傷が勝手に癒える。でも君の毒を消した時は、俺の体内から君の体内に直接エネルギーを入れたんだよね。毒なら焔を介すより、そっちの方が早いから。ちなみに種族の特徴である翼には、熱エネルギーが特に流れてるから、焔として外に出さなくても充分に癒しの効果があるよ」
「ならビームを撃ち落とすことはできても、火の玉自体に攻撃力はないんだな?」
リーファが確認する。
シアの説明によれば、ビイツ戦時にシアが使っていた火の玉は『癒しの力を持った熱エネルギーの塊』だ。熱さはあったとしても、治療の一環で患部に当てておくことすらできるのだから、火傷一つしないだろう。そもそも『癒しの力』がダメージを与える攻撃手段になるとは思えない。
だがシアは「まあ、基本はね」と曖昧に頷くと、超能力のもう一つの使い道について話し始めた。
「エネルギーを絶えず体内で循環させてるって言ったでしょ?その癒しのエネルギーを逆流して外に出せば、効果も逆になるんだよ。つまり健康状態から、満身創痍の状態にすることができるし、元々怪我してるならもっと症状を悪化させることだってできる。それどころか、当たった箇所から身体中燃え広がって、焼け死んじゃうよ」
アッサリと説明するシア。
あまりに極端な超能力に、リーファはポカンと口を開けたまま惚けてしまった。
超能力は種族の宝とすらされる特別な能力だが、こうも使い方によって毛色の全く違う効果を持つ能力も珍しい。
リーファの無言をどう受け取ったのか、シアは慌てて「あ、でも」と付け加える。
「エネルギーを逆流すれば、当然自分の身体にも悪影響が出るから、あんまり連発しては使えないんだけどね」
つまりは諸刃の剣らしい。
強力な超能力に違いはないが、使い方は限定されそうだ。
単純に剣の腕を磨いた方が効率的かと、リーファが思い直す。とそこで、シアの方から「俺も聞きたいんだけど良いかな?」と手が挙がった。
「月猫族の超能力……確か“ジンシュー”だったっけ?とんでもない威力の光の玉……アレって結局何なの?」
シアが首を傾げる。
月猫族の超能力……光の玉もとい“ジンシュー”は他種族の間でも有名だ。月猫族の手から生み出されるジンシューは、凄まじいエネルギーを放ち、触れるモノ全てを粉砕していく。だがしかし、名前や威力などを知っている者は多いが、ジンシューの正体を知る者は殆ど居ない。
シアの純粋な疑問に、リーファは「あぁ」と軽い所作で右手の平にジンシューを作った。
眩いばかりの光を放つソレは、まるで小さな太陽のようだ。
「ジンシューは金属の粒子の塊だ。月猫族の超能力は“金属を操る”……ただソレだけ。宇宙船みたいに巨大な金属の塊は操れないが、砂鉄とか空気中に漂ってる金属なんかは自由自在だな。基本は玉状にして打っ放すくらいしか使わないが……他にも形は造れるし、やろうと思えば剣や盾なんかにも使える」
言いながら、手の平のジンシューを鋭く尖らせ、即席の刃物を造るリーファ。
シンプルに攻撃特化した超能力だ。
初めて聞いた仕組みに、シアは「へぇ」と関心の声を上げる。
「そうだったんだ。陽鳥族みたいに、体内から直接生み出してる訳じゃないんだね。それじゃあ、もし金属が全く無い惑星に行ったら、超能力使えなくなっちゃうってこと?」
「まあそうなるな。そんな惑星、ある訳ないだろうが」
リーファが断定すれば、シアも「まあ、そうだね」と肯定する。だがここで一つ、新たな疑問が生まれた。
「ねぇ」とシアがリーファへと問い掛ける。
「もう一つ良い?……剣とか盾とか、他にも色々武器を造れるんでしょ?何で光の玉で撃つだけの使い方しかしないの?」
光の玉だけで闘うのが、リーファ個人のスタイルなら不思議でもないが、シアの知る限り、月猫族は皆ジンシューを光の玉としてしか使っていなかった。玉状に造ったジンシューを撃ち、後は体術を使った肉弾戦が殆どである。
そもそもビイツ戦の時も、ビームを撃ち落とす際とトドメ以外、リーファはジンシューを使っていなかった。
攻撃手段として、充分過ぎる程の威力を持つジンシューを何故多用しないのか。体力消耗が激しいという理由でないことは確かだ。月猫族ともあろう者が超能力使用に慣れていない訳がない。
シアの疑問も尤もである。
だがしかし、リーファはコレにケロッとした表情で一言……。
「つまんないから」
と言い退けた。
コレにはシアの目も点である。
「??……『つまらない』ってどういうこと?」
「ジンシューはあくまで“破壊用”だ。よっぽど丈夫な種族でもない限り、当たった瞬間身体に大穴開いて即死だからな。肉弾戦じゃないと、戦闘欲求が満たされないんだよ。だからジンシューの応用なんて考えないし、仕事だって体術のみの肉弾戦が殆どだ。まあ、そんな事言ってる場合じゃなくなれば、攻撃手段としても使うけどな」
「…………」
何と返したら良いのかわからず、思わずシアは押し黙る。『戦闘狂集団』と呼ばれる所以を垣間見た気がした中、シアは何とか「そうなんだね」と愛想笑いを浮かべた。
「でもそっか……確かにジンシューを使ってるよりも、体術使ってる方が『戦士っぽい』かもね。ねぇ、一緒に鍛錬しない?リーファも日中は森に入って鍛錬してるでしょ。一人でやるよりも、二人で手合わせしながらの方が効率良いんじゃない?」
シアの提案に、リーファは数秒悩む仕草を見せる。だが、一人でできる鍛錬に限界があるのは事実だ。
「そうだな」と頷くリーファ。
「レベルはお前が合わせろよ」
「……ソレ、俺の方が弱い前提で言ってるでしょ……失礼だなぁ……」
読んで頂きありがとうございました!
漸く超能力の説明できました。
ほんとは後書きで軽く説明して、本編は全く触れずにそのままストーリー進行させたかったんですけど、それじゃあ流石にアレかなぁということで、丸々一話説明回です。
ちなみに、空を飛ぶ描写が何度もありますが、アレは羽のある種族、若しくは超能力持ちの種族のみの特権です。その説明は次回の後書きでします。
次回もお楽しみに。