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『リーファ死す』 

 青く輝く巨大な惑星に、変わった形の大きな宮殿が一つ。ヴァルテン帝国本城……つまりは帝国軍の本拠地である。


「ウニベル様、ご報告です」


 城の最上階。壁一面がガラス張りとなっている無機質な部屋で、ウニベルが外の景色を眺めていた。

 見える風景はいつもと異なり、あちこちから煙が上がって騒々しく、至る所が粉砕している。当分城の復旧に人員を割かれることだろう。

 ウニベルは部屋に入ってきた部下に一瞥をくれることもなく、「何?」と話の続きを催促する。


「ハッ、それが……ビイツ様始め、リーファ様を捕縛しようと編成されたチームの通信が全員……その、途絶えました。恐らくはリーファ様に返り討ちにあったモノと思われます……」


 恐る恐る部下が報告を上げる。

 ただでさえ不祥事に次ぐ不祥事。最悪殺されてしまうかもと、部下の男は生唾を飲み込んだ。

「へぇ」とあまりにも抑揚のない声で、ウニベルが相槌を打つ。

 一気に背筋に悪寒が走った部下は慌てて「し、しかし!」と報告の続きを話し始めた。


「ビイツ様達の船を使い、リーファ様が本城ここに向かっていると司令塔から報告が!」

「!……何だって?」


 ウニベルが漸く部下へと顔を向けた。

 部下の男は「は、はい」と司令塔から受けた情報を間違えないよう口にする。


「ビイツ様達の乗っていた宇宙船に、リーファ様の情報が上書きされ、こちらの指示関係なく動き出したようで……船のカメラを確認したところ、間違いなくリーファ様の姿が映っておりました。チョーカーと通信機、双方の発信機も宇宙船の反応と共にあるので、確実にリーファ様が操縦しているモノと思われます」

「……あのリーファが自分から無策で帰って来るとは思えないな……到着時刻は?」

「はい、後……四時間程です」


 通信機に取り付けてあるデジタル時計を確かめて答えれば、部下の男は「いかが致しますか?」と尋ねた。

 ウニベルは「ふむ」と口元に手を持って来ると、考える素振りを見せる。


「……最低限の人員を城の修復に当て、それ以外の者を全員到着地点近くに待機させておけ。睡眠ガス弾を用意してな。それから、ジュンユーに帰還命令。今行ってる惑星ほしからなら、二時間もあれば帰って来れるでしょ」

「他の幹部様方や、現在別の惑星に任務へ行ってる者達はどうなさいますか?」

「そのまま任務続行だ。これ以上仕事が滞るのは御免だからね。着陸地点には俺も行く。『リーファの船が進路変更しないよう、しっかり監視しときな』って、司令塔に言っておけ」

「畏まりました」



 *       *       *



 そして約四時間後。

 司令塔からリーファの進路変更報告は受けていない。

 もう間もなく、リーファを乗せた宇宙船がヴァルテン帝国本城にやって来る頃だ。

 着陸地点と思われるポイントを中心に、半径五十メートル程距離を開けて、帝国軍兵士達が円を描くように集まっている。全員の手には催眠ガス弾入りの銃。


「……もうそろそろだね」


 兵の輪から少し離れた所で、ウニベルが呟く。

 ふと、西の空が赤く光った。


「来た……」


 一筋の赤い光が弧を描くように空を切って進んでいる。

 リーファの乗っている宇宙船だ。

 全員が銃を構えた。

 ドゴォオオンと轟音を立てて、宇宙船が予想通りの地点へと着地する。


「全員、リーファが出て来た瞬間撃て!」


 ウニベルからの命令に、緊張が駆け抜ける。

 呼吸をするのも憚られる程、張り詰められた空気感だ。

 しかし、宇宙船のハッチが開く気配がない。


「??……」


 ウニベルが不思議に思った瞬間、手首の通信機から「ウニベル様!!」と焦った声が聞こえた。


『今すぐそこから離れて下さい!!』

「は?…………」


 司令塔から避難勧告を受けるのと宇宙船が爆発するのは、ほぼほぼ同時であった。

 着陸音とは比較にならない程の爆音の衝撃波が兵士達を襲う。


「ッな……!?」


 流石のウニベルも目を見開いた。

 宇宙船を覆い隠して、真っ赤な炎が轟々と燃えている。あの中には確かにリーファが居る筈なのだ。


「チッ!!」

「ッウニベル様!?」


 舌打ちと共に燃える宇宙船へと飛んで行ったウニベル。

 近くで降り立てば、あまりの火力で宇宙船そのものが殆ど爆散してしまっており、今燃えているのがただの残りカスだとわかる。このぶんでは、中の人間は既に木っ端微塵だろう。


「…………」


 暫く拳を震わせていたウニベルだが、通信機を口元に持って行くと、感情を削ぎ落とした声で「司令塔」と呼び掛ける。


「……何が起こった?」

『それが……着陸と同時にリーファ様が船の操縦パネルを弄ったと思えば……自爆スイッチを稼働させ、そのすぐ後……チョーカーのピンを…………』

「……つまり……リーファが自ら自爆を選んだって?」

『は、はい……カメラにハッキリ映っておりますので、間違いなく……』

「……リーファの生体反応は?」

『し、消滅しております……』


 しどろもどろに答える司令塔。

 ウニベルは反応を返さない。ただ黙って、燃え続ける元宇宙船の破片を見つめていた。


「…………」


 兵達が騒めく中、ウニベルは静かに宇宙そらへと目線を上げる。


 ……どうやったかは知らないけど……わかってるよ、リーファ。お前は俺を殺すまで、絶対に死ぬような生命タマじゃない……良いよ、乗ってあげる。尻尾を見せるまで、束の間の自由をくれてやるよ……。


 ウニベルがフッと笑った。


「……アーッハハハ!!!アーッハハハ!!!」


 狂ったように笑い声を上げるウニベル。

 ソレは元宇宙船だった物体が塵と化すまで続いたのであった。



 〜       〜       〜



 遡ること四時間半程前、地球。


「……で?月猫族のチョーカー解除以外に、俺は何をすれば良いんだ?」


 町の人達がリーファに協力してくれると決まった後、メガがシアへと尋ねた。

 シアはリーファとメガの間に立つと、「えっとね」とメガへと説明を始める。


「メガさんには帝国軍の宇宙船のカメラ映像をハッキングして欲しいんだ」


 シアの作戦はこうだ。

 リーファがビイツ達の乗って来た宇宙船を使って、ヴァルテン帝国本城のある惑星ほしへと向かい、着陸した途端船諸共自爆したように見せる。

 ウニベルを倒すと言っても、そう簡単にできれば苦労はしない。取れる選択肢は油断しているところを暗殺する以外にないだろう。となれば、リーファが死んだように見せかけるのが一番効率的だ。死人相手に襲撃を懸念する人間は居ないし、死んだとなればリーファを捕まえようと追手を向けて来ることもない。ウニベル達の目の前でリーファの死を偽装できれば、より効果的だ。

 その為にまず必要になってくるのが、通信機とチョーカーに取り付けてある発信機の無効化である。リーファ曰く、通信機はソレ自体を取り外せば良いだけらしいので問題はない。チョーカーの方も、開発者と同じカニック星人であるメガが居るので大丈夫だろう。

 考えるべきは、発信機を解除した後のことだ。

 前提として、ヴァルテン帝国の者達はリーファがチョーカーを外せる手段を持っていないと思っている。その認識を覆させる訳にいかない。つまりはメガの存在……もっと言えば、地球に逃れた難民達の存在が、帝国にバレないようにしなくてはいけないということだ。

 しかし、ヴァルテン帝国幹部ビイツを始め、リーファを追い掛けて来た兵士達は、地球でその通信を途絶えさせてしまった。これだけならリーファに返り討ちにあっただけだと、深く突っ込まれることはないだろう。だがしかし、その上リーファの発信機すら地球で反応が消えてしまえば、いくら何でも怪しまれる。再び兵団が地球にやって来ては、今度こそ難民の存在をウニベルに報告されるかもしれない。そうなれば、話はリーファの捕縛だけに留まらないだろう。

 あくまでヴァルテン帝国にとって地球は、リーファが偶々偶然不時着してしまった“名も無き無人星”……取るに足らない辺境の星という印象を変えないようにしなければならない。

 リーファの死を信じさせ、尚且つ地球に意識を向けさせないようにする為には……取れる行動は一つだけだ。


「リーファのチョーカーは外してくれるだけで良い。通信機の方も含めて、発信機はそのままにしておいて。二つ纏めて宇宙船に乗せるから。カメラ映像は、リーファが宇宙船の操縦をしてる姿を流し続けて、帝国軍本拠地に着いたら、爆弾チョーカーのピンを引っ張る映像に切り替えて。……リーファ、確か帝国軍の宇宙船は操縦者の情報をインプットさせる必要があるんだよね?インプットだけさせることってできる?」

「ああ。操縦席の所にある指紋認証パネルに手を押し付けるだけだ。……お前の作戦、つまり私が帝国軍本拠地に突っ込んで、諸共自爆しに来たように見せたいんだろ?」

「まぁ、そういうこと。リーファの反応をとりあえず地球から離さないことには、いくら発信機を無効化しても無駄だからね。だったら、発信機の反応を逆手に取ろうかなって。目の前で自爆して、同時に通信機とチョーカーの反応が帝国軍の本拠地で消えれば、嫌でもリーファの死を認めるしかないでしょ?」


 意図を言い当てられて、シアが少し照れ臭そうに頬を掻く。

「なら」とリーファは悪い笑みを浮かべた。


「帝国軍の宇宙船には、全機に自爆用スイッチが搭載されてる。主は使い物にならない奴らの処分用だが……何かあった時、周り全部を道連れにする為に取り付けられた爆弾だ。その威力はチョーカーの比じゃない。そっちの爆弾も使え。チョーカーだけじゃ、超合金が使われてる船を木っ端微塵にできるか怪しいしな」

「……物騒な船だなぁ……うん、わかった。メガさん、できる?」


 シアが確認すれば、メガから「任せとけ」と心強い答えが返ってきた。

「良し」とシアが握り拳を天高く掲げる。


「作戦成功を目指して、皆で頑張ろう!!」



 〜       〜       〜



 そうして見事、作戦は成功。

 ウニベルを除き、ヴァルテン帝国の兵達はリーファの死を信じ込んだ。仮に疑ったとして、リーファの生存を確認する術も、居場所を知る術もない。

 こうして、リーファの帝国脱走劇は幕を降ろしたのであった――。

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