表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/60

8 王都からの手紙

「あら、もうそんな時期なのね。どうしようかしら…」


私がこの世界にやって来てから半年。


王都に住んでいるアシーナさんのお兄さんから届いた手紙を読んだ後、アシーナさんは困ったように呟いた。


『お兄さんに、何かあったんですか?』


「違うのよ。兄は元気よ。毎年の事なんだけど…スッカリ忘れてたわ」


それは─


毎年、この季節(日本で言うところの夏)になると、王都よりも比較的涼しいイスタンス領に、避暑として甥と姪が一週間程滞在しに来るそうで、“今年も宜しく頼む”と言う内容の手紙だったそうだ。


『私の事なら、気にしなくても良いですよ?犬として、それらしくしときますし、必要なら隠れておきますよ?』


東の森には大分慣れたし、アシーナさんが結界を張った洞窟があり、そこで寝泊まりする事もできる。


「ルーナを隠そうとは思ってないわよ。街の人達も知ってるからね。ただねぇ……滞在中に満月の夜があるのよ」


『──あ!』


私が人間(ひと)だと言う事は、まだアシーナさんしか知らない。


本来であれば、異世界から()()()()()者を見付けた場合は国王に報告をしなければいけないのだけど、一緒に召喚された筈の他の4人の情報が全く無い事。逆に、私を探していると言う情報も無い事で、ひょっとしたら、召喚したのはこの国ではないかもしれない。それに、水の精霊の加護付き、おまけに白狼になっている。その私に何かあったら、水の精霊がどう反応するか分からない─と言う事で、アシーナさんは私の事を国王に報告しない事にしたのだ。


精霊と言うのは、人間なんかが対応できる相手ではないらしい。大昔には、火の精霊を怒らせ、たった一晩で火の海で焼き消されたと言う国もあったそうだ。


ーその国の人は、一体何をしたの!?ー


と叫びたくなった。


「兎に角、満月の夜だけなんとかしないといけないわね。あの子達が来る迄後一週間。何とか…なるかしら?」


『?』


アシーナさんは「何とかするわ!」と、小首を傾げて見ている私を一撫ですると、「少し部屋に篭もるわね!」と、いつもポーションを作っている部屋に入って行った。






そうして、次にアシーナさんがその部屋から出て来たのは、その日の夕方だった。


「この前、見掛けた時に買っておいて良かったわ」


アシーナさんが手に持っていたのは、黒色?の石のピアスだった。そのピアスはピン状のモノではなく、ノンホールピアスみたいなタイプのモノだ。


「このピアスに、“認識阻害”の魔法を組み込んでみたの。満月の夜にコレを着けて、後は……申し訳ないけど、普段使っていない3階の屋根裏部屋か、森の洞窟で寝るか。それで、あの子達には気付かれないと思うわ」


『アシーナさん、態々作ってくれて、ありがとうございます!この黒色は、何か意味があるんですか?』


「この世界では、自分の色の宝石や石を身に着ける習慣があるのよ。恋人なんかは、お互い自分の色を贈り合ったりもするわね。それで、この前お店に行った時に黒曜石─シルバーオブシディアンを見掛けたから、ルーナに何か作ろうと思って買っておいたのよ」


アシーナさんが、私の左耳にそのピアスを装着してくれた。


「普段は普通のピアスとして着けられるわ。ルーナの出す水玉をその石に吸収させると、“認識阻害”の魔法が発動するようにしたわ。その効果は半日」


『石に水玉を吸収させる……ファンタジーですね』


「もともと、黒曜石は水と月とは相性が良いし、その上シルバーオブシディアンなら、本当にルーナにピッタリだと思ったのよ。ちゃんと発動するか、また明日にでも確認してみましょう。取り敢えず……今日は時間がないから、夕食は外で食べましょうか」


そうして、その日の夕食はペット同伴可能なお店で食事を済ませた。




その帰り道─



「アシーナさん!」


「───デルバート様…」


アシーナさんの名前を呼びながら駆け寄って来たのは、青色の瞳に、金髪の長髪を右サイドで一括りにして胸の方に髪を垂らした、アシーナさんと同年代位の男性だった。“─様”と呼ぶと言う事は、貴族の人なのかもしれない。


「こんな時間に街に居るとは、珍しいですね?」


「えぇ。今日は…この子と食事をしに来ていたので…」


アシーナさんが、私の頭を撫でる。


「この子?あぁ…。街の人達が噂をしていた…犬か…」


スッと私を見下ろすその目が、何となく冷たいような…?と思ったのは一瞬で、その人はニコッと笑って私の頭を撫でた後、もう一度アシーナさんへと視線を戻した。


「時間も遅いから、私が森迄送りましょう」


「いえ、大丈夫です。遅いと言っても人通りはありますし、この通り、()()も一緒ですから。それでは、失礼しますね」


「そうですか…。それでは…気を付けて」


その男性は、少し残念そうな顔をしてもと来た道を戻って行った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ