56 因果応報①
『うーん………』
体が温かくてホッとするけど、何となく……体が重くて動けない??
『んー………』
ーあぁ…また、寝落ちしちゃったのかなー
『─────ん?』
ーあれ?私の体に、何か巻き付いてる?ー
『────────え!?』
バチッ─と、音が出る勢いで目が覚める。
『え?え?あれ?え?』
私の目の前に、寝ているリュークレインさんがいらっしゃいます。そのリュークレインさんに…………ガッツリとホールドを喰らってます。
『え?』
白狼姿の私のお腹と、リュークレインさんのお腹が……くっついていて……リュークレインさんの両腕でガッツリと───
『──って、何で!?』
グイーッと、肉球でリュークレインさんの胸を押して抜け出そうとすると、更に抱き込まれた。
『何で!?』
「ふっ……………」
『リュークレインさん!?起きてますね!?』
「ははっ─ルーナ、可愛いな」
『きゅぅ───っ!!』
リュークレインさんは、更にギュウギュウもふもふとルーナを抱きしめる。
ーちょっと待って欲しい!ルーナ姿で良かったけど!ー
「あのな、ルーナ………いや…キョウコ。仮令、キョウコが白狼の姿だったとしても、俺の好きな女の子である事には変わらないんだ。キョウコは特に、ルーナの姿の時は、俺に気を許し過ぎと言うか……自分が女の子だって自覚が足りてないと思う。いつも、簡単に俺に身を任せて、そのまま寝てしまうだろう?」
『……はい』
ーだって、リュークレインさんの側はホッとするんですー
「まぁ……それはそれで、本当に可愛いし、俺も癒やされるから良いんだけどね?ただ………俺の事をもう少し、異性として婚約者として意識して欲しい」
『…………』
「キョウコは、本当に、俺の事………好き?」
『……………………』
ポンッ──
「───え?」
杏子の姿に戻ってから、改めてリュークレインさんと視線をしっかりと合わせる。
ー恥ずかしい!とか言ってられない…よね!?ー
「私、ちゃんと、リュークレインさんの事が好きです。その…本当に、恥ずかしいんです。リュークレインさんは本当にかっこいいし、優しいし……でも、私は普通と言うか…平々凡々な容姿だし、何の取り柄もないし……。でも、ルーナの姿だと、自分の事を気にせずにリュークレインさんに甘えられると言うか……だから……逆に、意識し過ぎてルーナになってるんです」
ーはい。言いましたよ?思い切って、私の気持ち、ちゃんと伝え……たよね?あれ??伝わって……ないのかっ!?ー
頑張って伝えたつもりだったけど、目の前にあるリュークレインさんの顔は、キョトン顔だ。いや、寧ろ、表情がゴソっと抜けたような顔になっている。
「えっと……リュークレインさ─────っ!?」
後頭部をガッシリと掴まれて、そのまま噛み付くようにキスをされた。どうもがいても押しても叩いても離れられなくて
ーえ?死ぬ?ー
と思ったところで唇が離されて、酸素を取り込むように、口だけがはくはくと動く。
「リュークレ………」
恥ずかしいやら恨みがましいやらと、睨みつければ─
「だから、こんな格好の時にキョウコの姿になって、そんな事を言われたら、我慢できる訳がないだろう!?だから、これは、キョウコが悪いと言うか……キョウコが可愛過ぎる───っ」
「ちょっ───まっ─────っ!!??」
え?それからどうなったか?───ふふっ……私からは言えない。
「自業自得だから」
と、リュークレインさんには、ニッコリと微笑まれました。
「婚約者だし、結婚も決まってるから問題無いわよ!お義姉様!!」
と、リナティアさんには笑顔で抱きつかれました。
「うんうん──」
と、宰相のアリスタ公爵様には笑顔で頷かれ、クラリス様からも微笑ましい笑顔を向けられた。
唯一、いつも私の味方になってくれるアシーナさんは、まだ浄化巡礼中である。アシーナさん、外堀は、もう完璧に埋められてしまったようです──否。私も、リュークレインさんが好きなので……問題無し…なんですけどね?
兎に角、私は、幸せな……穏やかな日々を送っています。
*とある街の、とある商家にて*
大森彩香は、“サヤカ”として、とある商家にやって来た。
出自は不明で王都の孤児院で育ち、勉学に於いては優秀だった。その孤児院と繋がりのある商家が、経理の人員を探していると言う事で、院長がサヤカの推薦状を送ると、そのまま採用となった。
そう。大森彩香は、“元聖女”でも“異世界人”でも無く、この世界の人間で“孤児”と言う扱いになった。“精霊に嫌われた元聖女”では、この世界では生きてはいけないからだ。
サヤカも、風の精霊シルフィードの最後通告で心を入れ替えたように、“孤児”扱いになった事も、生きていけるならと有難く思っていた。
その商家に経理担当として働き出すと、サヤカはその才を認められるように、上の者からはよく褒められるようになった。それでも、最初の頃は「まだまだ自分なんて」と、謙遜さえしていた。
それが、1年、2年と経つうちに、本来の性格が現れ出した。
この街は王都から離れていて少し閉鎖的な街で、王都で起こっている話なども、あまり耳に入って来る事がなかった。そのせいか、サヤカの中で色んな事が風化されていったのだ。
デキの悪い者に対しては虐げたり貶めたり。上の者には甘く擦り寄り、遂には、その商家の長である子爵の愛人にまで上り詰めた。そして、当たり前のようにその妻である子爵夫人を虐げるようになった。
「旦那様が、いつもの丘で、お待ちです」
と、子爵夫人から伝言を聞き、サヤカは、その、いつも子爵とデートをしている丘へと、何の疑いも無く向かった。
その丘は、この街の湖に面した高台にある見晴らしの良い場所でありながら、人気は少なく、コッソリ逢びきするにはうってつけの場所であった。
「まだ来てないのね。私を待たせるなんて……」
と、サヤカがイライラとしながら呟いた。
ドンッ──
「えっ!?」
大きな湖を見渡せる、高台にある展望台の柵に近寄った時、誰かがサヤカの背中を押し退けるようにぶつかって来た。
ぶつかられたサヤカの体は、何の抵抗もなく、そのまま柵を超えて湖へと落下して行った。
“自分の行いは、必ず自分に返って来る”
落ちて行く中で、頭の中に響いたその言葉を、サヤカがどう思ったのかは───もう知る術は無い。
閉鎖的な街で起こった、とある女性の失踪事件。その女性が孤児であった事と、ただの愛人でしかなかった事で、失踪した彼女を探そうとする者は居なかった。その彼女も、結局は──とうとう見付かる事はなく、この失踪事件が、この街から外に広がる事もなかった。




