53 目覚め
『兎に角、サヤカ。お前の意思は分かったわ。ならば、お前に与えたモノは返してもらうわ』
「与えたモノを返してもらう──って…何を?」
『ふふっ。もう、気付いているのでしょう?既に、お前の身体から、少しずつ喪って行っているのだから。聖女としての力である光の魔力が───』
「─────止めて!!」
嫌な夢だと、目が覚めても、私にはもう光の魔力は残っていなかった。もう、聖女ではなくなっていた。心臓がバクバクと音を立て、体中の寝汗が酷い。
「だれ…か…………」
「目が……覚めましたか?」
体が思うように動かず、なんとか声を絞り出すと、聞き慣れた声が耳に入って来た。
「ケリー…………」
ベッドサイドに、水の入ったコップを持ったケリーが居た。
『聖女のくせに、そんな事もできないの?』
『本当に、それで本気出してるの?有り得ない。よくそんなんで“聖女”なんて名乗れるわね。私なら、恥ずかしくて言えないわ』
私が、散々貶めて来たケリーだ。
魔力が無くなった私でも解る。今のケリーは、完璧な聖女のオーラを纏っている。それが、今はとても恐ろしく感じる。
「あ………」
自然とカタカタと震える体を必死で抑える。
「水を持って来ただけです。貴方に、何もするつもりはありません」
ケリーはそう言うと、一度コップをサイドテーブルに置き、私の上半身を起こして背中に枕を挟み、水の入ったコップを私に手渡して来た。それを素直に飲む。
「───美味しい……」
ただの水だろうけど、とても美味しく感じると言う事は、私はあれから数日の間眠っていたと言う事かもしれない。
「私達は2日後、浄化巡礼に出ます。勿論、貴方は行けません。行く資格が無いから」
私を見つめてくるケリーの目には、怒りの感情は無い。
「分かってるわ。私は聖女ではないから。ふっ。ざまあみろって、思ってるんでしょう?それとも…憐れんでる?」
「正直に言うと、感謝してます。貴方の行いのお陰で、私…私達4人の聖女は、4人とも完璧な聖女になれましたから。ありがとうございます。後は、ここでおとなしく過ごして下さい。では、これで失礼します」
ケリーは軽く頭を下げた後、一度も振り返る事なく部屋から出て行った。
******
「目が覚めて…良かった」
ケリーが出て行ってから暫くすると、今度は美緒と樹君と陽真がやって来た。
ホッとした顔をした美緒と樹君。陽真は、その2人よりも少し後ろに立っていて、顔には感情を表してはいない。
それから、美緒と樹君からも、2日後に浄化巡礼に出る為、暫くの間は会えないと言う事を言われた。聖女ではなくなった私のこれからの扱いについては、私の体力が元に戻ってから話し合いの場が設けられるとの事だった。今の私は、召喚されてやって来たと言う事も隠されているらしい。
「流石に、“聖女としてやって来たのに、精霊の怒りを喰らって、その力を失った”と言えば、この世界で普通の生活を送る事もできなくなるからね。だから、ハッキリ言うと……これから先、彩香がどう言う扱いになるかは分からないけど、楽観的な考えは、しない方が良いと思う」
「そう……。私がこんな事になって、美緒も嬉しいんじゃないの?」
美緒は少し目を見開いた後、ギュッと眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
「“嬉しい”とは思ってないかな。自分の行いが自分に返って来ただけだからね。私は、もともと、彩香には聖女は無理だと思っていたから。彩香が聖女ではなくなって、“良かった”とは思ってる」
「………」
いつも、私の後ろで頷くだけだった幼馴染みだったのに。
「それじゃあ、私と樹君は、これから魔導士の会合があるから行くわね」
樹君とは一言も喋らず、美緒はニコリと笑った後部屋から出て行った。
「それで?陽真は……出て行かないの?」
陽真もまた、一言も喋らずに私から離れた位置に立っているままだ。2人が出て行き声を掛けると、ゆっくりと私の側迄やって来た。
「俺は、お前が聖女の力を失って……ざまあみろって思ってる」
「あっそう……」
「それに、お前のせいで……杏子が俺から離れていってしまった。おまけに結婚するとか!俺以外と!俺は、お前を赦さない!」
「“赦さない”?ははっ…笑えるんだけど?アイツは、陽真の事なんて見てない……寧ろ嫌ってるのに。それも、陽真の自分勝手な独占欲のせいでね。アイツが、陽真のせいで苛められてた事も知らなかったくせに、何が“離れていってしまった”よ。アイツは、陽真から離れられて喜んでるぐらいでしょうよ!」
「────なっ!?お前っ!」
「ははっ!図星だよね?それで?ムカつくから、私を殴る?どうぞ、殴れば良いよ!」
ーあぁ、本当にイライラするー
言うことを聞かなくなった美緒。
私の存在を空気の様に扱う樹君。
私に嫌悪感を顕にする陽真。
聖女としてやって来て、私の思い通りになると思っていたのに、全て失った。
あんなに輝いて見えていた陽真が、こんなにも馬鹿でクズだったなんて……
それに何より、望月杏子──地味子のくせに。テンプレみたいに全てがうまくいって、リュークレイン様となんて!!本当に、イライラする。
『本当に……反省しないのね?』
頭の中に響くような声。
ヒュッ─と息を呑んだのは、私だったのか、陽真だったのか──。




