40 魔導士の2人
大森彩香の鬼の様な形相を見た後やって来たのは、魔導士の訓練を受けている深沢君と関元さんが居る訓練場。
先程の所でもそうだったけど、王太子であるカミリア王女がやって来ても、魔導士達が挨拶をしに来る事はない。不思議に思って尋ねると「訓練中の挨拶は一切不要」と、前もって通達しているとの事だった。
と言う事は、訓練を受ける側にも周知されていた筈で、大森さんはその通達を無視して挨拶をしに来たと言う事になる。あぁ、だから、リュークレインさんはさっき、“態々”を強調していたのか。
で、大森さんの事は置いといて───
深沢君と関元さんに視線を向ける。
ーえ?まだ、この世界に来て1ヶ月位しか経ってないよね?ー
驚いた。1ヶ月しか経っていない。しかも訓練が始まってから2週間程なのに、深沢君は火、関元さんは風をとてもうまく操っていた。
『これが噂の“チート”だ………』
私は2年掛かった。召喚から外れてもふもふになった。私は、ラノベで言うところの“モブ”だったんだろうか?
ー別に良いけどー
そんな思考を振り払うように首を振った後、改めて2人の様子を窺うと、2人とも真剣な顔をして訓練を受けている。時折魔導士さんが何かを話し掛けると、2人とも少し笑ったりしながら頷き、また訓練──あの2人は、魔導士さん達ともうまくいっているようだった。
後で聞いた話によると、深沢君も関元さんも呑み込みが早いらしく、直ぐに魔力にも慣れて、どんどんレベルも上がっているそうだ。それに、2人共文句も言わず訓練をこなしていて、魔導士さん達からの評判も良いらしく、弟や妹みたいに可愛がられているそうだ。
きっと、もともと根は良い人だったんだろう。その話を聞いて、私は何となくホッとした。
それから、休憩になったようで、私達に気付いた深沢君と関元さんが、1人の魔導士さんとこちらにやって来た。
3人が軽く挨拶をした後、深沢君が申し訳無さそうに口を開いた。
「挨拶は不要と言われていたけど、どうしてもと思って、魔導士さんにお願いしたんです。すみません」
と、先ずは謝罪の言葉から始まった。
「それで…その……望月さん─杏子さんについて、何か分かった事はありますか?」
「ごめんなさい。まだ何も……」
カミリア王女が申し訳無さそうな顔で答える。
ーここに居ます。白狼ですー
「そうですか……。その…見付かったら、陽真と大森…彩香に知らせる前に、俺達だけに知らせてもらっても良いですか?」
「え?」
深沢君が、少し気不味そうな顔で視線を関元さんに向けた。その視線を受けた関元さんが口を開いた。
「直接本人から聞いた事はないけど、陽真君は、杏子さんの事が好き…なんだと思います。それで、その陽真君が好きな彩香は杏子さんの事を良くは思ってないから。今回、杏子さんが居ないのも……多分、彩香のせいでしょう?誰だって分かる事なのに、当の本人……彩香だけが理解しようとも、杏子さんを心配する事もないんです。寧ろ、今のこの状態を喜んでる」
『私が…私だけが聖女なのよ!聖女と言ったらラノベの定番じゃない!?陽真だけじゃなく、この世界のイケメンも私のモノにできるかもよね!?』
陽真君と樹君と別れて、王城にある客室に案内された後、美緒と2人きりになった時に、それはそれは嬉しそうに、愉しそうに言ったのだ。
何を言っているのか?と思った。彩香のせいで望月さんの行方が分からないのに。
それに、これは物語でもゲームでもなく、現実世界なのに。能力が高いと言われても、私達は戦わなければいけないのだ。それを、彩香は何一つ理解していないのだ。
「───なので、可能であれば、あの2人より先に、俺達だけで杏子さんに会って……話をしたいんです」
悔しそうに口を噤んだ関元さんの代わりに、また深沢君が口を開いた。
「分かったわ。王太子である私─カミリアが、その願いを叶えると約束するわ」
カミリア王女がニッコリ笑って答えると「「ありがとうございます!」」とお礼を言った後、2人はまた魔導士さんと一緒に訓練へと戻って行った。
ーあの2人には……会っても良いかもしれないなぁー
と、私は去って行く2人の背中を見つめながら、そう思った。
『─────って………陽真が……私を好き???いやいやいや……絶対無いよね!!アレで好きとか………おかしいよね?アレで好きとか言われても、それさえ嫌がらせかと思うよね?ないな…。深沢君も関元さんも………物凄い勘違いをしてるんだなぁ…笑える………』
「「………………」」
1人、去って行く深沢君と関元さんに突っ込みを入れているルーナを、リュークレインとカミリア王女が、少し憐れんだ?ような目で見つめていた。




