4 突き付けられた事実
「他に4人も居たの?」
『でも、私が気付いた時には…何処にも……』
あの4人は、何処に行ったのかと言うよりは、きっと、私が皆からはぐれてしまったんだろうと思う。大森彩香に突き飛ばされて─。
「隠していても、どうせいつかは知る事になるだろうから、今言っておくわね」
アシーナさんは、困った様な顔をしながら、私に説明してくれた事は──
魔力、魔素が存在する限り、それらが魔物や魔獣を創り出す。そして、余り過ぎる魔素はそのまま穢れとなり、魔物や魔獣を凶悪化させる。その為、魔素が溜まり過ぎないように穢れを祓ってはいるが、どうしても追い付かない──となると、この大陸の創世の女神が、何処からとも無く“聖女”や“剣士”となる者を召喚する。そうして、その召喚された者達に穢れを祓ってもらう。人攫いのようだ─と言ってしまえばそれ迄だが──
「その選ばれる理由なんだけどね。こことは違う世界で、命を落としそうな者が選ばれるらしいの。そして、異世界から来た者達は、召喚されると同時に加護や魔力が身に付くの。それも、この世界にも居る聖女や剣士達よりも、能力の高い聖女と剣士になると言われているわ」
“命を落としそう”
『それじゃあ…仮令、今から元の世界に戻れるとしても…戻ったところで死んでしまうかもしれないと言う事ですか?』
「過去に、召喚されて元の世界に戻った人は居ないし、居たとしてもどうなったかは、知りようがないから…確かな事は分からないわ」
“戻った人は居ない”
ーきっと、戻れないんだろうー
犬の感情?は素直なもので、自然と揺れていた尻尾はパタリと止まり、耳がシュン─と垂れた事が分かる。
ー帰れない。帰れたとしても、死ぬかもしれないー
もう二度と、家族に…会えない。
『───っ』
ベッドの上で体をギュッと丸める。犬だけど、涙はポロポロと出るようだ。
「話は……夜も遅くなってしまったし、今日はこれ位にしておきましょうね。私は隣の部屋に居るから、何かあったら声を掛けてちょうだい」
アシーナさんはそう言うと、また私の頭を撫でてから部屋から出て行った。
ーお母さん、お父さん…もう、帰れない。もう、会えないみたいですー
******
『─────』
良い匂いがして目を開けると、部屋の中が明るくなっていた。
部屋にある小さな窓に視線を向けると、外も明るい。
ー朝になったのかなぁ?ー
昨日は、あれからいっぱい泣いた。泣いて、泣いて─
泣いたせいか、少しスッキリして、気持ちも少し落ち着いている。ベッドから降りて、アシーナさんが出て行った扉に向かい、前足を(頑張って)伸ばして扉を開けて、良い匂いのする方へと向かった。
「あら、起きたのね?おはよう。気分は……大丈夫?」
そこには、料理をしているアシーナさんが居た。
『おはようございます。昨日はごめんなさい。えっと、今は少し落ち着きました』
「謝る必要なんてないわよ。朝ご飯なんだけど、食べれそうかしら?」
『はい──と言うか、お腹が空いてて、良い匂いに釣られて目が覚めました』
と、素直に伝えると、アシーナさんは「なら、良かったわ」と言って笑った。
それから朝食を取った後、昨日の話の続きをする事になった。
「貴方のその姿の事なんだけどね。貴方には、水の精霊の加護が付いているみたいで、そのせいだと思うわ」
『水のせいれい?』
「簡単に言うと、水を司る神みたいなものね。だから、貴方も水の魔法は使えるわ。それで、その水の精霊なんだけど…彼女、心配性なのよ」
『──心配性??』
「召喚されたけど、貴方は1人だけ違う場所に飛ばされたでしょう?だから、1人で危険だと思って、その姿にしたんだと思うわ」
ーえ?危険だから犬?ー
『えっと…すみません。ちょっと意味が……。犬の姿になったところで、もう既に危険に晒されましたけど?』
今の自分よりも何倍も大きかった魔獣に、もう少しで食べられそうになったのだ。それはそれは恐ろしかったし、アシーナさんが居なければ今頃死んでいたかもしれない。
「貴方は犬じゃなくて、狼──白狼よ」
『狼!?白!?』
犬じゃなかったんだ。しかも白狼って──私の毛色、白銀だけど??
「何故、“白”じゃなくて“白銀”なのかは、貴方が“月属性”だからよ。“水”だけではなく、“月”の加護も付いているのよ」
『月?うーん??』
ー色んな情報があり過ぎて、何がなんやら…ー
コテンと首を傾げると、アシーナさんは「ふふっ。可愛いわねー」と笑った後、私をワシャワシャと撫で回した。
ー撫で回されると、気持ちが良いんですねー
と、一通り?撫で回された後。
「先ずは“白狼”についてね」
“白狼”とは、この世界では女神や精霊の使い魔とされているらしく、その白狼に手を出す事は禁忌とされているそうだ。
「だからだと思うのだけど、貴方があの魔獣にやられる前に、運良く貴方を見付ける事ができて、あの魔獣も……急に倒れたのだと思うわ」
あの時私を食べようとした魔獣は、私が意識を失った後、急に唸り声を上げた後倒れたそうだ。
兎に角、意識を失った私を助けてくれたのが、アシーナさんである事には変わりない。