33 ルーナ、痛みを知る?
『ルーナには私の水の精霊の加護があるから、水がある所なら、水を介して行きたい場所に転移できるのよ』
『リュークレインが居る、あの孤児院にも噴水はあるから行けるわよ?』
そんな事を言われると、リュークレインさんがどうのこうのと言うよりも、転移できるの!?と言う興味の方が勝ってしまい、私は転移の仕方をウンディーネ様に教えてもらって『物は試しだ!』と、その場の勢いで噴水に飛び込んだ。
次に水面へと上がると、アリスタ邸の庭ではない景色が目の前にあった。
ーわぁ!本当に転移できたんだ!ー
ザバッと水から出て、ブルブルと体を震わせて水滴を飛ばす。認識阻害の魔術が転移されている為、誰も私の存在に気付く事はない。
ー静かだなぁ…まだ、視察に来てないのかな?ー
王女様が来るからだろう。庭にも人影はなかった。
そのまま暫く待っていると、庭の奥─孤児院の建物の方からざわめきが起こった。
ー王女様が来たのかな?ー
私は走って建物の方へと向かった。
建物入り口に数人の大人と、20人程の子供達がズラリと並んでいて、その目の前に王族の馬車とは思えないような質素な馬車がやって来た。いや、確かに、綺麗な馬車ではある。王族らしい豪華?威厳?ある馬車ではなく、一般的な貴族の馬車と言う感じだ。
その馬車が止まり、御者が扉を開けると、中からリュークレインさんが出て来た。
ーリュークレインさんだ!ー
いつぶりに見るだろう?元気そう─と言うか、流石は近衛騎士だ。いつものフワリとした目ではなく、少し冷たいような目で周りに視線を巡らせている。
その後、馬車の扉の方へ振り返り、スッと手を差し出すと、その手を取って馬車の中からカミリア王女と思われる女性が降りて来た。
ーうわぁ…これが、エスコート!?ー
物語とかで読んだりした事はあったけど、目の当たりにするのは初めてだった。
リュークレインさんは言わずもがな、イケメンさんだ。それに、今日は近衛騎士の服を着ていて、いつもよりもイケメンに見える。アッシュグレイの長い髪を後ろでキュッと纏めて、前髪も後ろへと流している。
そして、カミリア王女。金色の長い髪を後ろで一括りにしてアップにしている。クリッとしていて少し垂れ目がちの、ロイヤルブルーのような綺麗な青い瞳。ザ・お姫様!と言う感じの王女様だ。
『絵になる……2人だなぁ………』
そう口にすると、揺れていた尻尾が自然と動きを止めていた。
それから、カミリア王女は孤児院の院長らしき人に案内されながら、建物の中を視察していった。そのままお昼の時間になり、カミリア王女も子供達と一緒にご飯を食べ、お土産として持って来ていたクッキーを子供達に配っていた。そのクッキーも食べた後、カミリア王女は嫌がる事もなく、子供達に手を引かれるまま庭へ出て、女の子達と一緒にお花摘みをしたり本を読んだりしていた。
そんなカミリア王女を、近過ぎず、遠過ぎずな位置から見守っているリュークレインさん。周辺への警戒は怠らず、常にピリッとした雰囲気を纏ってはいるが、時折カミリア王女に向ける視線は──とても柔らかいモノだった。
『…………』
久し振りのリュークレインさん。元気そうで良かったと思っているのは確かなんだけど、チクリと胸が痛みを訴える。
ふと、カミリア王女がリュークレインさんに視線を向けると、リュークレインさんは何の躊躇いもなくカミリア王女の元へと歩み寄り、少し言葉を交した後手を差し伸べて、その手を取りカミリア王女が立ち上がる。そして、その手を預けたままで2人が歩き出し、その2人の後を子供達が付いて行った。
私はその2人の後を追わず、2人と子供達が建物の中に入って行くのを、ただじっと見つめていた。2人と子供達が建物の中に入り、姿が見えなくなると、私は自分の右前足に視線を落とした。
そこには、チョキができない、肉球のあるもふもふな前足があった。
ーこんな手じゃ、エスコートなんてされないよねー
『……………え?』
自分の思った事に対して、自分で疑問を抱く。
ー私…何を??ー
それ以上考えても答えは分からず、私は暫くその場で自分の気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしてから、アリスタ邸へと帰る為に、孤児院にある噴水へと飛び込んだ。
******
「ルーナ、久し振りだな。元気だったか?」
その日の夜、うとうととしているとリュークレインさんが、久し振りにアリスタ邸へと帰って来た。
ーあれ?何でリュークレインさんが?ー
夜も遅い時間で、私は寝ようと思って───と、そこで一気に覚醒する。
あれからアリスタ邸に帰って来ると、ウンディーネ様が『これで…少しは進められるかしら?』と、ちょっと意味が分からない事を愉しそうに言った後、また姿を消して居なくなった。それから、やっぱり色々考えても、さっき自分が感じた痛みや思考の理由が分からなくて──考える事を放棄した。
それから夕食を取った後、部屋に戻ろうとしたところで、ふと足が止まった。リュークレインさんの部屋の前で。
見上げたリュークレインさんの部屋の扉が、少しだけ開いていて、“駄目だ”と思いながらも、その扉をソッと押して中へと入った。
ーあ、リュークレインさんの匂いだー
フワリと優しい柑橘系の香水の匂い。何故だか緊張?するような気持ちになるけど、ホッとするのも確かだ。
ー少しだけなら……良いかな?ー
と、私はリュークレインさんがいつも座っている椅子の上に飛び乗った。
で、そのまま寝落ちしていたようです。




