31 リュークレイン=アリスタ②
あの後、女の子から白狼に姿を変えて、ルーナが自分の部屋へと行った後、改めて、貰ったハンカチを見ると─
白銀色の三日月と、紫色で俺のイニシャルが刺繍されていた。
ルーナの色と俺の色だ。
「叔母上…………」
叔母上に、外堀を埋められているような気がするのは……気のせいか?別に構わないが………。
きっと、俺の魔力との相性がすこぶる良いルーナが、実は女の子だった─なんて両親が知ったら、それこそ外堀はガチガチに埋められるだろう。そうなったら、もうルーナは逃げられない。でも、それじゃあ駄目なんだ。
ー俺は、ちゃんとルーナ─キョウコの心も欲しいからー
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そんな感じで日々は過ぎて行き──
アデルバートが学園を卒業したのと同時に、アデルバートの廃太子とカミリア王女の立太子が発表された。
そうして、アデルバートはそのまま一代限りの領地無し公爵になり、予定通りロゼリアと結婚した。
ロゼリアの父─アークルハイン伯爵は、その爵位を国王に返上し夫人と共に平民となり、二度とロゼリアと関わる事なく静かに慎ましやかに過ごした。
(後々の話ではあるが、不幸に見舞われる事が無かった為、この2人に関しては、ウンディーネ様も罰を解いたのだろう。)
兎に角、カミリア王女の立太子、聖女達の訓練、召喚の儀の準備と、王城内は常にバタバタしている状態だった。
カミリア王女も学園生活を送りながら、王太子としての公務が増え、近場に限っての視察もするようになり、近衛騎士である俺もよく同行する事になった。
ーはぁ──ルーナが足りないー
「レイン兄様………感情が漏れているわよ?」
「すみません」
ここはカミリア王女の執務室。
明日の視察についての確認作業を行っていた。
カミリア王女が“レイン兄様”と呼ぶのは、他に人目がない時だけ。カミリア王女とリナがそうであるように、カミリア王女と俺も、所謂“幼馴染み”なのだ。
「余程、白狼とは魔力の相性が良いのね?」
と、クスクスと笑うカミリア王女。
最近、あまりの忙しさにアリスタ邸に帰る事すらできず、この一週間程は王城にある第二騎士団副団長の執務室に寝泊まりしている。その為、全くルーナに会えていないのだ。ルーナと一緒に居ると、魔力が安定するとカミリア王女は知っている為、ついつい気が緩んで言葉が零れてしまったようだ。
「そうですね。それに、ルーナは癒しですからね」
「リナからも聞いているわ。レイン兄様とルーナがラブラブで羨ましいって。そのルーナに会う為にも、明日の視察はしっかり頼むわよ?」
そう。明日の視察が終わると、3日間の休暇がもらえる予定なのだ。
ー久し振りに、ケーキでも買って帰ろうー
そう思いながら、明日の視察についての確認作業を進めた。
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そしてついに、召喚の儀を行う準備が整った─
と、知らせが入ったのが、半年以上経った時であった。
召喚の儀に立ち会うのは、国王陛下、カミリア王女、宰相、魔導士団の団長、第一騎士団の団長、神官長と東西南北の森の魔女達。それと、国王陛下とカミリア王女には近衛である第二騎士団の団長と副団長の俺が付く事になった。
ーまさか、俺が召喚の儀に立ち会う事になるとはー
何の前触れもなく、違う世界へと召喚される。召喚される者の条件として、“自分の世界で死と向き合った者”、“魂や身体がこちらの世界に馴染む者”だそうだが、実際は、本人達は元の世界では死を感じる直前に召喚されるのだから、その事実を伝えられても直ぐには受け入れられないだろう。
キョウコも、一晩中泣いていたと、叔母上が言っていた。
今回の召喚で、どんな人がやって来るかは分からないが、しっかりとフォローする体制を整えなければいけないだろう。
と言う事は、おそらく、カミリア王女も忙しくなると言う事─と言う事は、もれなく第二も忙しくなる─と言う事だ。
「…………」
ー召喚の儀迄に、もう少し進めるかー
「レイン兄様、何か黒い空気が溢れているけど、何を企んでいるの?」
執務中のカミリア王女に訝しげな顔で訊かれる。
「企んではいませんよ。計算しているだけです」
「同じ事でしょう。まぁ、レイン兄様の事だから、悪い事ではないと思うけど……程々にね?」
カミリア王女は、アデルバート王子とは違って、昔から勘の鋭い子だったなと苦笑した。
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その日は、王城内にある主立った機関の8割が休み状態となった。王城付きの使用人達も8割程が休みとなり、いつもよりもひっそりとした城内になっている。
召喚の儀が行われるのは、王城奥にある小さな神殿の地下。そこに、立会人達と、今回の召喚を行う魔導士10人が揃っている。
「では、始めてくれ」
国王陛下が静かに告げると、魔導士10人が一拍置いた後、魔力を少しずつ高めて行き、魔力がその部屋に充満したタイミングで、神殿中央6本の大きなアラバスターの支柱に囲まれた床に、大きな魔法陣が現れた。
ーこれは…思っていたよりキツイなー
あまりの大きさの魔力に中てられて、少しずつ気分が悪くなる。前もって、叔母上にも俺の体に結界を張ってもらってはいたが、それでも、ピリピリと溢れている魔力が俺を刺激する。更に、自分でも結界を張ると、少しマシになった。
そうして、改めて気を引き締めてからカミリア王女と魔導士達と魔法陣に注意を向ける。
付き添っているカミリア王女は、何ともない様子だ。
ー良かったー
と少し安堵した時、魔法陣から溢れていた光が弾けるように霧散して、その光が無くなった後に、数人の人影が現れた。
ー召喚されたのは、1人2人ではなかったのか?ー
と、目を凝らして確認しようとした時
「────キョウコ!!」
と言う叫び声が響いた。




