30 リュークレイン=アリスタ①
ハッキリ言って、ルーナは可愛い。
俺の膝の上に顔を乗せて、尻尾をユラユラさせて、耳をピクピク反応させながら俺の話を聞いているルーナが可愛い。
たまに分からない事や、分からない話になると、顔を上げて視線を俺に向けてコテン──と小首を傾げるルーナが本当に可愛い。
ー俺は試されているのか?それとも、ルーナは小悪魔なのか?ー
久し振りに叔母上に会った時のルーナは一段と可愛かったが、叔母上が浄化巡礼に同行すると言う話を聞いた途端、フルフルと震え出した。
ルーナがこの世界に落ちて来た時、魔獣に襲われたと言っていた。元の世界には、魔獣なんて居なかったとも。
ーこれからは、俺がルーナを護っていきたいー
そんな思いを込めて、俺はソッとルーナを抱き上げた。
ルーナと叔母上は一度東の森へと帰ってしまった。帰る日はどうしても仕事を休む事ができず、挨拶もできなかたった。
ー夜はいつも一緒に居たのに…ー
心にポッカリ穴が空いたような感覚だった。
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「聖女達の今のレベルでは、到底、浄化巡礼には耐えられない。浄化の力も……弱過ぎる」
これが、魔導士達、東西南北の魔女達の一致した意見だった。
年々、聖女達の力が弱くなって来ているのは分かっていた。そのせいもあって、穢れが増えていたからだ。そこで、議会で上がったのが──
“召喚の儀”だった。
“召喚の儀”─とは、異世界から聖女や剣士と成り得る者を召喚する儀式の事だ。
ルーナや未だ情報が得られない他の4人は、他国で召喚されてやって来たのでは?と、叔母上は考えているようだ。
過去の文献からすると、異世界を跨いでやって来る聖女や剣士は、必ず能力もレベルも高いと言う。兎に角、異世界から人を召喚する為には様々な準備が必要となる。それに、召喚する者だけに頼るのも良くないと、レベルが上がらないだろう者は除外して、この国の聖女にも引き続き訓練を行う事になった。
厄介な事になったなとは思うものの、またルーナと過ごせるのかと思うと、ついつい表情が緩んでしまうのは仕方ないだろう。
ちなみに、この召喚の儀については、ルーナには言わない事にした。尤も、国民にも前もって知らされる事もない。
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「リュークレイン、今日はもう上がっていいぞ」
その日は、予定していた仕事が延期になり、どうしたものかと思っていると、騎士団長にそう言われて断る理由もなかった為、俺は礼を言った後王城を後にした。
ー時間もあるし……何かお土産でも買って帰るかー
と、俺は邸に帰る前に街の方へと足を向けた。
ルーナには……何が似合う?
ルーナは、何が好きなんだ?
いや、その前に、どっちのルーナに買えば良い?
「うーん……」と悩んでいると、聞き慣れた声が耳に入り、そこに視線を向けると、黒色から白銀へとグラデーションになっている髪の女の子が居た。
「ルーナ??」と名前を呼ぶと、俺の方へと振り向いて、黒色の瞳と目が合う。
「今日は……その姿なんだな………」
「はい!今日は、アシーナさんとデザートを食べに来たんです!」
ルーナが満面の笑みを浮かべる。
ーうん。破壊力が半端無いなー
どうやら、可愛過ぎる反応をされると、俺は逆に……少しだけ冷静?になれるようだ。いや、心臓は鷲掴みにされたように……痛いけど。
それよりも──
「─────っ…そ…そうか……ルーナは、甘い物が好きなのか?」
と訊くと、これまた素直に、「白狼姿だと食べられないから」と言われた。確かに、俺と叔母上以外は、ルーナが女の子だと言う事は知らないから仕方無い。なら、これからは、俺がこっそりルーナに買ってあげれば良い。そうしたら、その時は、キョウコと一緒に過ごせる……のか!と気付き、また表情が緩んでしまうのをグッと我慢して、何とか声を絞り出す。
「──分かった」
叔母上には微笑ましい眼差しを向けられ、ルーナ…キョウコにはキョトンとしたような顔をされたが──
ーうん。可愛いから気にしないー
と、ルーナやキョウコを見ても“可愛い”としか出て来ない俺は、ある意味おかしいのかもしれないが、そんな自分が嫌ではなかった。
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「美味しいです!」
俺の目の前で、美味しそうにケーキを食べているルーナ─キョウコ。月属性特有の瞳の中の輝きが、更にキラキラしているように見える程の笑顔を俺に向けている。
ーどうする?可愛過ぎないだろうか?ー
あの日から、俺は時々お土産と称して、キョウコにケーキやクッキーなどを買って来ては、他の者にバレないように部屋に結界を張って2人の時間を作って過ごしている。最初の頃は、部屋に2人きりになる事やお土産に対して遠慮していたが、今では少し慣れたようで、よく笑いながら話をするようになった。それでも、まだまだ俺を異性としては意識していないようで、それはそれで残念なのか……微妙なところではあるが、今はまだこれでも良いか─とも思う。
「あの…リュークレインさん。いつもお土産をありがとうございます。それで…これ、お礼に……」
と、キョウコがおずおずと、手のひらサイズのラッピングされた物を取り出した。許可をもらい開けてみると─
「ハンカチ?」
「はい。この世界では、お礼なんかで、刺繍をしたハンカチを贈ると聞いたので…。私、もともと刺繍は好きだったので、丁度良いかなと思って…」
「……ありがとう」
お礼を言えば、ホッとしたように笑うキョウコ。
キョウコは知らないのだろう。否─叔母上に騙されているのだろう。
確かに、既製品のハンカチをお礼に贈る事はあるが、刺繍を施したハンカチを異性に贈るのは──相手が恋人や婚約者や夫の場合限定なのだ。
ーだからと言って、後からその事を知って「返せ」と言われても返さないけどー
叔母上、ありがとうございます──




