26 ゆっくりと
「あれから、そんな事があったんですね……」
ルーナとリュークレインがアリスタ邸へと飛ばされた後、王城で起こった顛末を、アシーナはリュークレインに話した。
「王太子アデルバート様が、あそこまで馬鹿だとは思わなかったわ。リナにとっては辛かったかもしれないけど、婚約解消になって良かったわ」
「そうですね。まぁ、リナもルーナのお陰で少しずつ落ち着いているようだし…大丈夫でしょう」
と、リュークレインの膝の上で眠っている白狼を、リュークレインはそれはそれは優しい目を向けて背中を撫でている。
「レイン。ルーナと何かあった?」
「流石は叔母上。聞いて欲しい話があります」
と、リュークレインも、ルーナとの出来事をアシーナに全て話をした。
「それじゃあ、レインも女の子姿のルーナを見たのね」
「はい。ウンディーネ様が、俺の目の前で白狼から人間の姿に変えましたからね」
嬉しそうに笑うリュークレインに、アシーナもつられて笑う。
ウンディーネが、リュークレインの目の前でルーナを元の姿に戻したと言う事は、ウンディーネはリュークレインを認めていると言う事だ。リュークレインなら、愛し子であるルーナを護ってくれる、幸せにしてくれると。
アシーナにとっても、これ程嬉しい事はない。
恋どころか、人間関係で苦労をしていたリュークレイン。人を愛する気持ちを知って欲しいと思っていた。魔力が強過ぎて、それは無理かもしれないとも思っていた。でも──
「レイン、私は嬉しいわ。ただ……ルーナは、どうやら恋愛事には慣れていないようなのよ。だから、ルーナに合わせて、ゆっくり歩み寄ってくれるかしら?」
「それは勿論分かってます。それに、ルーナは、俺の事は男として見て無いですからね。嫌われては無いと思うけど、男として意識してもらえるように、ゆっくり頑張ります」
と、それでも嬉しそうな顔で白狼を見つめるリュークレイン。
ルーナ─キョウコに関しては、まだまだ問題はあるけど、レインが居れば大丈夫だろう。
「レイン。ここからは東の森の魔女として、第二騎士団副団長のリュークレインに訊きたいのだけど……。幸いな事に、東の森にはウンディーネ様の加護持ちの白狼が居るお陰で、穢れがあっても魔獣が増える事が無いのだけど、国全体としては、魔獣が増えている傾向にあるわ。それで、国としては、これからどんな対応をしていく予定なの?」
「その事に関しては、次に行われる議会の主題になっていますね。おそらく、国中の聖女を連れて浄化巡礼する事になると思います」
数百年に一度、魔獣が増える時がある。そのまま放っておくとスタンピードを引き起こす事にもなる。ここ数年、少しずつ魔獣の出現率が上がって来ている為、そろそろ対処する必要があるのでは?と、東西南北の魔女で話し合っていたのだ。
「それなら次の議会には、私達4人の魔女も招集が掛かるわね」
「おそらくは……」
「これから、暫くは忙しくなるわね。ルーナが嫌がらなければ、落ち着く迄アリスタ邸で預ってもらおうかしら?」
「それは勿論預かりますよ。リナも喜びます」
「ふふっ。それじゃあ、ルーナが起きたら話をしましょうか」
と、今日はもう既に夜も遅い時間になっていた為、続きは明日─と言う事になった。
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『分かりました。アシーナさんの邪魔にもなりたくないので、ここの人達が良いと言ってくれるなら、私はここでお世話になります』
翌日、アシーナさんから、暫く忙しくなるから、その間嫌でなければアリスタ邸で過ごして欲しいと言われた。勿論、私は嫌ではない。リナティアさんやリュークレインさんが居るから。それに、なんと言っても、アシーナさんに迷惑を掛けるのが一番嫌な事だから、私は素直にその提案を受け入れた。
『でも……落ち着いたら、また迎えに来て下さいね?』
と、アシーナさんにお願いすると
「「ルーナが可愛い!!」」
と、アシーナさんとリュークレインさんに言われて、撫で回された。撫で回されたお陰で、垂れ下がった耳も元に戻りました。尻尾も自然に揺れてます。
はい。アシーナさんが迎えに来てくれる迄、私は良い子で待っています!!
私がアリスタ邸でお世話になる事を、リナティアさんもご両親も喜んで受け入れてくれた。
「お兄様だけ、ルーナと意思疎通ができるようになって……ズルイわ!」
と、リナティアさんはプクッと頬を膨らませて怒っていたけど、それは単に可愛いだけだった─と思った事は内緒にしておく。
兎に角、リナティアさんは体調もメンタルも良くなり、一週間学園を休んだ後、また学園生活をスタートさせた。
その学園には、王太子アデルバートの姿はあったが、ロゼリアの姿は無かったそうだ。「これ以上の恥は曝せない」と、アークルハイン伯爵がロゼリアが外に出る事を許さず、家庭教師を付け一からみっちりと教育をし直しているらしい。
ー親はマトモなのにー
そして、今回、王太子とロゼリアの噂を広め、その2人の仲を、リナティアさんに見せ付けた子息は侯爵家の三男だったらしいが、その子息は退学していたそうだ。既に、その侯爵家にも籍を置いていないと言う。
ー貴族社会って、恐ろしいよね。親子であっても、簡単に切り捨てられるなんてー
『…親……かぁ………』
くるんと丸まって目を閉じる。
ー皆…元気にしてるかなぁ?ー
泣かないように更に目にギュッと力を入れて耐えていると
「ルーナ、寝てる?丸まってるルーナも可愛いな」
と、リュークレインさんがソッと白狼を抱き上げて頭を撫でてくれる。その手はやっぱり優しくて温かい。私は目を閉じたまま、リュークレインさんに身を預けた。




