11 アシーナとリュークレイン
*アシーナ視点*
滞在4日目は、リナと2人で街へ出た。リナ達がここに来ている時は、必ず街で一緒に買い物をしている為、街の人達もリナの事はよく覚えてくれていて、リナもよく声を掛けられる。貴族にありがちな傲慢さはなく、気さくに街の人達と話しているリナは、とても良い子に育ったなと思う。
『何となくなんですけど、リナティアさんが、自分は王太子様によく思われてないみたいに思ってる感じだったんです』
いつもと同じように笑っているように見えるリナ。
でも、見えているモノだけが全てとは限らない事は知っている。ただ、リナに直接訊いたところで、リナが正直に話してくれるとは思わない。
ーレインに訊くしかないわねー
と、取り敢えず、私は今はリナと買い物を楽しむ事にした。
「叔母様、今日は、ルーナと一緒に寝ても良い?」
と、リナが珍しく私にお願いをして来た。ルーナに視線を向けると、コクリと軽く頷いたような気がしたから「良いわよ」と答えると、リナは嬉しそうにルーナを連れて部屋へと戻って行った。ルーナの尻尾も揺れていたから、ルーナもリナの事が気に入ったのかもしれない。
「それに、丁度良かったわ。レインと話をしなければね」
と、私はレインに声を掛けて執務室まで来てもらった。
「言えない事なら無理に言う必要はないから、言える範囲で答えて欲しいのだけど、殿下とリナはうまくいっているの?」
まどろっこしい言い方はせずに、単刀直入にレインに質問をする。
「うまくとは、一体どう言う意味でですか?」
「言葉通りの意味よ」
と言うと、レインは少し思案した後
「そう言えば、リナが1年生の時は、よくリナから殿下の話を聞いていたけど、2年生になってからは、あまり聞かなくなったような気が……」
貴族の子達は、基本15歳から17歳の3年間は学校に通い、18歳で社交会デビューをする。
王太子とリナの年の差は一つ。今は、王太子が3年生でリナが2年生になる。
「近衛騎士団の副団長には、何も報告は上がっていないのね?」
「そう…ですね。何も上がってませんね。王太子と言っても、学校内の事だから、俺達大人が介入するのも…あまり良くないので、同年代の者達で護衛をさせているんです。まぁ、国王陛下が影を数名付けてはいますけどね」
国王陛下の影は、あくまでも王太子の命に関わる事が起こった時に動く者であり、逆に言えば、命に関わる事が無い限りは動かないと言う者である。常にその目で見て、耳で聞いてはいるが、決して表には出て来ない。仮令、王太子が命令しようとも、主である国王陛下以外の命には従わない。
故に、影が何かを知っていたとしても──
「影からは情報は得られないわよね」
「叔母上は……殿下とリナの間に、何かあると?」
「リナの笑顔がね…いつもと違う気がしたのよ」
ー気付いたのはルーナだけどねー
それも、気付いたルーナも、自分に似ているから気付いたのかもしれない。
「王都に戻ったら、少し調べてみます」
ーリナに関しては、今は何もできないわねー
私も探りは入れるつもりだけど、レインにも動いてもらった方が、更に情報は入りやすいだろう。
「話は変わりますが…叔母上。あの…ルーナは、犬ではないですよね?」
「あら、やっぱりレインには分かるのね」
我が甥であるリュークレインは、武術に長けていて第二騎士団の副団長を務めているが、魔力に関しても相当なモノを持っている。魔道士としてもやっていける程である。
「ルーナは、白狼なのよ」
「───は?」
ーレインのキョトン顔、初めて見たわねー
「ちょっと訳ありでね。国王陛下にも報告していないの」
「───は?」
そう。白狼とは、神や精霊の使い魔とされ、本来であれば保護した時は国に報告しなければいけないのだ。
ただ、白狼の存在自体がお伽噺で、誰もその姿を見た者が居ない上、ルーナは白狼でありながら白銀の毛色をしている為、見た目だけで白狼と判断する事ができないのだ。だから、誰もが皆、ルーナは犬だと思ってくれるのだ。
「月の加護があるのは気付いているわよね?」
「それは…はい」
「おまけに、水の精霊の加護もあるのよ」
「……………」
ーあら、ついにレインが黙ってしまったわねー
レインは暫く固まった後
「ルーナがどんな扱いを受けるか分からない。何かあれば、水の精霊がどう反応するか……分からないからですか?」
「ふふっ。流石はレインね。理解が早くて助かるわ」
ルーナ…キョウコは、東の森で過ごす事を喜んでいる。それを、国に報告した後、もし、悪気は無くとも、キョウコの嫌がる事をされたら──精霊は、自分が気に入った者にしか加護を与えない。そして、加護を与えた相手には無条件に過保護な程に護ろうとする。
特に、キョウコに関しては、色々な事情が絡んでいる。
ー実は、白狼ではなく、可愛らしい女の子なんだけどー
とは、レインにもまだ秘密だ。