表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

焦って進む道を間違わないように


 ちょっと遅く起きた休診日。

 時計を見る。

 9時30分。

 朝、継続のネコちゃんの診察の約束があるけど、まだ十分に時間がある。


 朝食の準備。

 とっても良い天気。

 ネコちゃんを診たあと、どこか、出かけようか。


 朝食が出来て、さぁ食べようかとしたところで電話が鳴った。

 下に降りて留守電のメッセージを聞く。

 うちの患者さんからだ...。

 折り返し電話してみると...。

 「うちの知り合いのヒトのイヌなんですけど、少し前から食欲がなくって、よその病院にかかったんですけどよくならないようなんです。診てやってもらえないでしょうか」


 こーいうのって、あんまり気が進まないなぁ...。

 でも、いつも来てもらってる患者さんからの電話だからねぇ。

 断りたいけど、断れないよね。

 「分かりました、じゃあ来てもらって下さい」

 「シェパードですので、よろしくお願いします」

 ひえぇ~。シェパードかい?!

 シェパード恐いからヤだよぉ...。

 と思っても、時すでに遅し。


 メスなら蓄膿症だと良いなぁ...。

 それなら簡単に済みそうだし。

 とか考えてたら、シェパードやってきた。


 ふえ~、オスだった...。


 年齢は9歳。

 数日前、急に食欲、元気がなくなる。

 下痢、嘔吐なし。


 覚悟決めて診察する。


 第一印象、ちょっと呼吸が深いかな?

 背中を触ってみる。

 シェパードが振り返ってわたしをにらむ。こえ~...。

 痩せてる。でも、その割にお腹が大きくないか?

 腹部触診。噛まないでね。

 何か見つかるか?

 何度も触ってみるけど、体格が大きすぎて指が届かなくって良く分かんない。

 胸部に聴診器当てる。

 雑音なし、ちょっと心音強いかな。

 エコーをお腹に当てる。

 液体を示す黒い部分が映し出された。

 腹水?

 かなり液体が貯まってる。

 腫瘍でもあるのかな?

 出血の可能性もあるぞ。

 脾臓はどうかな?

 液体が貯まってるのできれいに見える。

 でも塊は、見当たらない...。

 時々、もやっと写ってくるのはなんだろう?

 肝臓、少し均一じゃないような映り方…。


 だめだ。液体の貯留以外に明らかな異常は見当たらない。

 液体は、やっぱり腹水かな。


 次、血液検査。

 採血したあと、待合室で待っててもらう。


 その間に、約束のネコちゃんが来た。

 FIVの末期。

 腎不全を起こしてる。

 補液を行う。

 たくさん入れてもすぐに干涸びてしまう感じ...。

 明日もまた来てあげてね。



 さて、血液検査の結果。

 やや貧血...。

 それ以外、生化学、電解質も異常なし。


 さて、困っちゃったなぁ...。

 心不全からの腹水?

 肝不全からの腹水?

 腫瘍性の腹水?

 どれもこの程度の貧血なら起こしそう。

 でもって、どれも決定的なものがない。

 焦るなぁ...。

 困った。困ったぞぉ。

 こーいうのって、すっごいプレッシャー。

 うちでも分かんなくて、結局また転院ってパターンになっちゃたりして...。

 飼い主さんは結論を待っている。

 どーしよう...。

 とりあえず腹水で推すか。


 まてよ。

 液体が水とは限んないじゃん。ちゃんと調べなきゃ。

 ディスポに針を付けて、腹部穿刺。

 赤黒い液体が出てきた。


 ああ、血液だ。

 よかったぁ...、穿刺して。(あっぶねーとこだった)

 変な迷いと思い込みは、とっても危険だね。

 とゆーわけで、腹腔内出血に決定。

 エコーで見えたあのもやもやは破裂したあとの血餅か。

 シェパードだと、やっぱり血管肉腫の可能性、大だね。

 急に状態が悪くなったって言ってたから、その時に出血したんだ。

 エコーで腫瘍は見つけられないけど、お腹を開ければきっと破裂した腫瘍があるはず。

 これならつじつまが合う。

 よし、これで行こう!


 一通り説明したあと、飼い主さんは納得して帰って行った。

 手術するかどうか、うちでするかどうかは分からないけど...。



 病院を閉めて後片付けをしていると、インターホンが鳴った。

 裏のインターホンだ。

 宅急便かな?とインターホンを取ってみると、心不全で通っているヨークシャーの飼い主さんだった。

 ヤな予感...。

 出て話を聞くと、やっぱりそうだった。

 昨日、亡くなったと。

 数日前、最後に来た時にはもう立てなかったものね。

 でも、飼い主さんは満足げな顔だった。

 病気で何度も手術したし、心臓が悪くなってからも結構がんばったから。

 ミルクちゃん、プリンありがとう。

 舞ちゃんと一緒に食べるよ。


 時計を見ると12時だった。

 なんだか、慌ただしい休診日の朝だったな...。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ