焦って進む道を間違わないように
ちょっと遅く起きた休診日。
時計を見る。
9時30分。
朝、継続のネコちゃんの診察の約束があるけど、まだ十分に時間がある。
朝食の準備。
とっても良い天気。
ネコちゃんを診たあと、どこか、出かけようか。
朝食が出来て、さぁ食べようかとしたところで電話が鳴った。
下に降りて留守電のメッセージを聞く。
うちの患者さんからだ...。
折り返し電話してみると...。
「うちの知り合いのヒトのイヌなんですけど、少し前から食欲がなくって、よその病院にかかったんですけどよくならないようなんです。診てやってもらえないでしょうか」
こーいうのって、あんまり気が進まないなぁ...。
でも、いつも来てもらってる患者さんからの電話だからねぇ。
断りたいけど、断れないよね。
「分かりました、じゃあ来てもらって下さい」
「シェパードですので、よろしくお願いします」
ひえぇ~。シェパードかい?!
シェパード恐いからヤだよぉ...。
と思っても、時すでに遅し。
メスなら蓄膿症だと良いなぁ...。
それなら簡単に済みそうだし。
とか考えてたら、シェパードやってきた。
ふえ~、オスだった...。
年齢は9歳。
数日前、急に食欲、元気がなくなる。
下痢、嘔吐なし。
覚悟決めて診察する。
第一印象、ちょっと呼吸が深いかな?
背中を触ってみる。
シェパードが振り返ってわたしをにらむ。こえ~...。
痩せてる。でも、その割にお腹が大きくないか?
腹部触診。噛まないでね。
何か見つかるか?
何度も触ってみるけど、体格が大きすぎて指が届かなくって良く分かんない。
胸部に聴診器当てる。
雑音なし、ちょっと心音強いかな。
エコーをお腹に当てる。
液体を示す黒い部分が映し出された。
腹水?
かなり液体が貯まってる。
腫瘍でもあるのかな?
出血の可能性もあるぞ。
脾臓はどうかな?
液体が貯まってるのできれいに見える。
でも塊は、見当たらない...。
時々、もやっと写ってくるのはなんだろう?
肝臓、少し均一じゃないような映り方…。
だめだ。液体の貯留以外に明らかな異常は見当たらない。
液体は、やっぱり腹水かな。
次、血液検査。
採血したあと、待合室で待っててもらう。
その間に、約束のネコちゃんが来た。
FIVの末期。
腎不全を起こしてる。
補液を行う。
たくさん入れてもすぐに干涸びてしまう感じ...。
明日もまた来てあげてね。
さて、血液検査の結果。
やや貧血...。
それ以外、生化学、電解質も異常なし。
さて、困っちゃったなぁ...。
心不全からの腹水?
肝不全からの腹水?
腫瘍性の腹水?
どれもこの程度の貧血なら起こしそう。
でもって、どれも決定的なものがない。
焦るなぁ...。
困った。困ったぞぉ。
こーいうのって、すっごいプレッシャー。
うちでも分かんなくて、結局また転院ってパターンになっちゃたりして...。
飼い主さんは結論を待っている。
どーしよう...。
とりあえず腹水で推すか。
まてよ。
液体が水とは限んないじゃん。ちゃんと調べなきゃ。
ディスポに針を付けて、腹部穿刺。
赤黒い液体が出てきた。
ああ、血液だ。
よかったぁ...、穿刺して。(あっぶねーとこだった)
変な迷いと思い込みは、とっても危険だね。
とゆーわけで、腹腔内出血に決定。
エコーで見えたあのもやもやは破裂したあとの血餅か。
シェパードだと、やっぱり血管肉腫の可能性、大だね。
急に状態が悪くなったって言ってたから、その時に出血したんだ。
エコーで腫瘍は見つけられないけど、お腹を開ければきっと破裂した腫瘍があるはず。
これならつじつまが合う。
よし、これで行こう!
一通り説明したあと、飼い主さんは納得して帰って行った。
手術するかどうか、うちでするかどうかは分からないけど...。
病院を閉めて後片付けをしていると、インターホンが鳴った。
裏のインターホンだ。
宅急便かな?とインターホンを取ってみると、心不全で通っているヨークシャーの飼い主さんだった。
ヤな予感...。
出て話を聞くと、やっぱりそうだった。
昨日、亡くなったと。
数日前、最後に来た時にはもう立てなかったものね。
でも、飼い主さんは満足げな顔だった。
病気で何度も手術したし、心臓が悪くなってからも結構がんばったから。
ミルクちゃん、プリンありがとう。
舞ちゃんと一緒に食べるよ。
時計を見ると12時だった。
なんだか、慌ただしい休診日の朝だったな...。