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走る!

 

 お昼ご飯を食べて、ちょっと眠気が襲う昼下がり。

 空には重い雲が所々にあり、貴重な冬の日差しを時折遮るけど、暖房の効いた室内は暖かかった。

 コーヒーを入れて、はぐちゃんと遊んでいたら電話が鳴った。

 また変なセールスかな?と出てみると...。

 「血だらけ、血だらけ、すごい出血!」

 シェパードの飼い主さんだ。

 「びっくりするくらい血が、ぼたぼたと出てるんです」


 また出血か。

 先日の手術の傷口から漏れ出したんだ。

 

 今朝、近況を報告に来てくれた時、

 『ひなたぼっこしてます。でも、ちょっとお腹が大きくなってきたかも』

 って、話してたんだよね。

 再出血だ。


 「連れて来れます?」

 「出血がすごくって...」

 「それじゃぁ、今からすぐ行きます」

 電話を切ったあと、急いではぐちゃんをケージに入れる。

 

 でも、行くって言ったものの、どーやって出血止めよう...。

 ゆっくり考えてるヒマないや。

 手術室に行き、ガーゼとホチキスを取り出し、その辺りにあったビニール袋に詰め込んだ。

 そして、病院を飛び出し、走る。

 実は近所なんだ。一方通行が多い場所だから、車で行くより走った方が早い。

 白衣着てビニール袋持って走る姿は、きっと怪しげ。



 現場に着いてみると、敷いてある毛布は真っ赤。

 その上で立っているシェパードのお腹からは、ぼたぼたと血が落ちていた。

 やや黒い血。

 まさしく腹腔内に貯まった血液が漏れ出ている。

 再出血で腹圧が上がったとは言え、あんなに細かく何重にも縫ったのに...。

 低タンパクでも起こして、治りにくくなっちゃったのかなぁ。


 飼い主さんに手伝ってもらってシェパードを横にする。

 抵抗せずに横になった。

 元気なくなっちゃったね。

 お腹を見る。

 手術の跡のホチキスとホチキスの間から漏れ出る血液。

 ガーゼを取り出して圧迫する。

 けど、そんなんで止まるはずもない。

 圧迫をやめればすぐに出血。

 そして、ガーゼは見る見る赤く染まっていく。

 出口を閉鎖するしかないものね。

 ホチキスを取り出し、出血しているところをめがけて打ち込む。

 1発目。

 止まらない。

 2発目。

 外れた。

 3発目。

 よし、止まった。

 さらにその周囲に追加して、傷の隙間をなくす。


 なんとか出血は止まったものの、ホチキスが緩めばまた出血するかも。

 包帯巻くわけにいかないし...。

 圧迫出来るといいんだけど。


 やれるかな?

 ガーゼを広げて細く巻いていく。

 そして傷の上に当て、それを覆うように両端から皮膚を寄せる。

 合わさった皮膚をホチキスで固定。

 なんとか出来そう。

 さらにいくつも固定していく。

 パチ、パチ、パチ...。

 時折、体が大きく動く。

 痛いよね。がんばれ。





 『安楽死も考えた方がいいのかなぁ...』

 病院への帰り道、飼い主さんがポツリと言ったそんな言葉を思い出した。

 お正月、迎えられるかな?


 空には大きく重い雲が広がっていた。

 これじゃぁ、ひなたぼっこはできないね。

 強い風が吹き、手に持ったビニール袋を巻き上げた。

 さむ...。

 そーいえば、

 手は血で汚れ、そして、ビニール袋の中には血だらけのガーゼとホチキス。

 これって、ヒトに見られたらまずい?!と、ふと思った。




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