はじめての依頼 前編
そこに座っていたのは、どこからどう見ても織田信長。
おそらく日本人であれば90%の人が即答できるぐらいイメージ像そのままの織田信長。
田中は声をかけるのをためらった。
田中にとっての織田信長のイメージは、怖い、黒い、狂気の3Kである。
一般ピープルの田中には到底合わない人種である。
田中は気づかないふりをして、その場を去ろうとした。
が、
『おい、主、待てい』
気づかれてしまった、信長公に。
「あ、はい、僕ですか?」
『この場には、わしとお主しかおらぬわ』
「僕はその、たまたま通りかかったわけでして」
田中はなんとかその場を切り抜けようと必死だった。
『このわしが天下統一するその瞬間を見たいとは思わぬか?』
(天下統一って、ここ異世界だろ)
(天下もくそもないだろ)
「いや、その僕はアイテム採取を一緒に行ってくれる人を探してまして」
『ふふ、そこまで言うならよかろう、わしについてくるがいい』
(まったく聞いてないよ信長公)
こうして、ひょんなことから信長と一緒に天下統一、いや冒険に出ることになった田中。
「はぁ、なぜこうなるんだ」
田中は織田信長と共にギルドの受付に向かった。
「あの、依頼を受けたいんですが、できればアイテム採取で」
『ふん、わしにそのような戯言を申すな』
『この刀が躍るような戦いを差し出せい』
困惑する田中と受付の人。
『お二人ともDランクですので、いま受け付けている依頼はこちらです』
差し出されたのはゴブリン討伐!
「ゴブリン討伐ですか、これまた異世界スタートにありがちな」
『ゴブリンの巣窟に行っていただき、ゴブリンを殲滅していただきます』
『なお、殲滅の証としてゴブリンの巣窟にある、エルドリーヴァの神殿の水晶を持ち帰ってきてください』
「水晶ですか?」
『はい、どうやら神殿の水晶がゴブリンに盗まれたみたいで』
「神殿にあるものって、大事なものなんじゃないんですか、これDランクなんですか?」
『神殿のオブジェみたいなものなのでまったく急いでいませんが、なければないで少し困るので』
簡単にいうと、どうでもいい物のようだ。
『おい、さっそくその護武麟とやらを退治しにいくぞ』
信長様にせかされて、田中はしぶしぶゴブリンの巣窟へと出発した。
「はぁ、空気が重いよ、なんで織田信長と歩いてるんだ」
田中と信長はゴブリンの巣窟へと向かっているが、田中の足取りは重かった。
「しかも俺戦えないっつうの」
「うん、待てよ?」
ここで田中はあることに気づいた。
(確か、信長って本能寺の変で死んだんだよな)
(俺みたいに誕生日ぴったりで死んだはずじゃないはずだが)
田中はふとスマホを見てみた。
すると神アプリに何か通知が来ている。
田中は神アプリを立ち上げた。
『田中よ、今このアプリを立ち上げたということは、おそらく特例について知りたがっておるな』
「あぁ、そうだよ、あんた特例で異世界に送ってるって言ってたよな」
『田中よ、特例は特例じゃ』
『特例に当てはまらなくても異世界に行く人間はおるのじゃ』
『よい異世界ライフを』
エンディング♪
田中は思わずスマホとたたきつけた。
「結局、神様の匙加減かい!」
「しかも、都合よく通知してきやがって、ぜったい今この状況見てるだろ神」
『お主、何を騒いでおる』
「あ、はい、すいません」
『そういえば、お主の名前をまだ聞いてなかったな』
「田中です」
『よし、お主は今日からサルだ』
(まさかの秀吉ポジション!)
(てか、田中が全く関係なくね?)