異世界にようこそ 後編
ふと気づくと田中は暗闇の中からとある街に移動していた。
その街は見たところ中世のヨーロッパのような街並み。
まさに、ザ・異世界のようなところである。
「ま、まぶしい」
「ここが異世界?」
街並みに合わせて田中の服装もそれっぽくスーツから洋服に変わっていた。
田中は街の路地裏から表通りに出た。
すると、様々な人種の人々が行きかっていた。
金髪のいかにも外人という人もいれば、あれは中国の人だろうか?
そんな多種多様な人たちが生きる街。
そうここは、エルドリーヴァ。
古代からの知識を守る街。
様々な人種の知恵が息づく街。
「異世界に来たのはいいけど、これからどうすればいいんだよ」
田中は早速行き詰った。
が、田中はズボンのポッケに何か入っていることに気づいた。
「なんだこれ?」
ポッケから取り出すと、なんとスマホが入っている!
「うぉー!」
「神様がくれたプレゼントか、これ」
だがしかし、スマホの電源を入れてもネットは使えなかった。
当然である、ここは異世界。
ネットワークとは無縁の世界だ。
「いやいや、これネット使えないとただの物じゃん」
田中はスマホをやみくもにいじってみた。
すると見知らぬアプリが入っていた。
アイコンは『神』
だいぶ痛いアプリだ。
「これって、もしかして神様の?」
どうやら神がリリースしたアプリらしい。
田中はアプリを立ち上げた。
すると、神からのメッセージ動画が流れ始めた。
「神様、何やってんの」
『田中よ、異世界はどうじゃ?』
『おぬしのことだから、このアプリに気づいているはずじゃ』
『わしから冒険のヒントを授けよう』
『まず、街の北にある冒険者ギルドに向かうのじゃ』
エンディングが流れる♪
「なんで神様、動画の作りが凝ってんのよ」
「まぁいいか、とりあえずそのギルドとやらに向かおう」
田中は冒険者ギルドに向かった。
しばらくして、冒険者ギルドにたどり着いた。
入ると受付に何人かの女性がいる。
が、田中は話かけない。
まず、店内を見回す。
そう、初めて訪れる店でやるべきこと。
それは常連のしぐさをチェックするこである。
典型的日本人の田中。
若干の人見知りも入っていた。
しばらく、壁にある張り紙を見つつ(字が読めないが)常連が来るのをまっていた。
すると、いかにも屈強な男が現れた。
その男は一番右端の女性に声をかけた。
『いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ』
『おい、Cランクの依頼やってきたぜ』
『お疲れ様でした、Cランクのリザードマン討伐ですね、では、討伐の証であるリザードマンの牙を確認しますね』
どうやら右端がギルドの受付のようだ。
屈強な男が去ると、田中はいかにも冒険者のような感じで受付の女性に声をかけた。
「やぁ、この街初めてなんだけど、何か依頼あるかな?」
『いらっしゃいませ、ギルドカードの提示をお願いします』
ギルドカード?
うかつだった。
どうやら、この世界ではギルドカードが必要らしい。
「あ、あの、ギルドカード持ってないんですけど、、、」
『でしたら、左側のカウンターでギルドカードの発行を行っておりますので、そちらで手続きをお願いします』
「は、はい」
これはダサい。
初めて訪れる店で一番やってはいけない、常連のふりをして店のしきたりを間違えるやつ。
田中は汗がとまらなかった。
「あの、ギルドカード作りたいんですけど、、、」
『はい、冒険者ギルドに登録は初めてですか?』
「そうです」
『でしたら、簡単に冒険者ギルドの仕組みを説明しますね』
『この冒険者ギルドではランクを設定しており、ご自身のランクにあった依頼を受注してもらいます』
『ランクは下からEランク、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっております』
「SSSランクってどんな依頼なのよ!」
『SSSはもう、この世の終わり、簡単に言えば魔王クラスの討伐がメインになります』
「ピッコロ大魔王とでも戦うのだろうか」
『お客様はまずEランクからスタートしてもらいます』
『Eランクの依頼は主に、アイテム採取や低レベルモンスターの討伐になります』
「はぁ、俺にぴったりだ、はっはは」
なんだかんだありつつも、田中は無事ギルドカードを発行してもらい見事Eランクのギルドマスターとなった。
「と、とにかく、この世界で生き抜くには依頼をこなして稼がないとね」
ようやく、冒険のスタートが切れそうな雰囲気であったが、ここで田中はあることに気づく。
「まてよ、冒険って、俺戦闘できなくね?」
そう、田中が神から授かったものは交渉術とネットの使えないスマホのみ。
これでどう冒険しろというのだ神よ。
田中は受付の人に聞いてみた。
「あの、ちなみにギルドのメンバー募集してたりしませんか?」
『はい、2階のスタンバイスペースにいけば、今ギルドメンバーを募集している人がいますよ』
「よかった、流石に一人で冒険は絶望だったよ」
『あ、でも、今残っている人は一人だったような?』
田中は嫌な予感がした。
一人残っている、ということは余っているということでもある。
田中が小学生のころ、友達数人とバスケをやろうといった際に、田中の学校では一番バスケがうまい二人が別れ、じゃけんして勝った方から好きなメンツを選んでいくというやり方でチーム分けをしていた。
このチーム分けのメリットは好きなもの同士でチームを組みやすい反面、最後まで残るのは大抵運動音痴、もしくはあまり好かれていないやつなのだ。
ちなみに、田中は運動能力、人付き合いともに平均値なので、選ばれるのもいつも真ん中ぐらいである。
「なんか不安だけど、残り物には福があるだ」
そういって、田中は2階のスタンバイスペースに行った。
2階にあがるとテーブルと椅子があり、一番奥にソファーがある。
そこにただ一人座っている人がいる。
「あれが余っている人か、どうか福がありますように」
田中は恐る恐る近づいて行った。
近づくにつれて、その人物のルックスが見えてくる。
その人物は黒い甲冑にマントをつけて、ひげ、髪は長髪で上で束ねている。
そして、いかにも覇王のようなオーラを醸し出している。
「え、あれって、、、」
そう、そこに座っていたのは福ではなく、織田信長であった。