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第四クズ王子、行っきまーす

 ウェルディス王国、第四王子の俺はこれまでにない程焦っていた。冷や汗ダラダラで喉が乾いて仕方ない。

 

「マズイ……非常にマズイ……どっちかと言うと、終わったってのが正しいな。具体的にいえばこの国が」


 ウェルディス王国は、大国故に恨みを買っている周辺国家が多く、戦争で合併吸収してきた属国同士の争いも盛んである。

 特に大敵とも言えるのが、隣国のセルネス皇国。

 ちょうど王国と皇国の境にある小国の資源を求めて争い始めたことによる敵対関係は、200年が経った今も続いており、血で血を洗う闘争を繰り返している。

 今は一時期停戦をしているため、ここ数年は冷戦状態に陥っているものの、何らかの大義名分があれば容赦なく侵略することだろう。


 んでもって、その大義名分をよりにもよって俺が作ってしまったんだよな!!

 敵国の第二皇女に手を出す、っていう一番やっちゃいけねぇパターンのやつを!!!


 国 際 問 題 。


 童貞の喪失=生命の喪失なんか?

 賭けるにしても立場含めて色々重すぎる。


「髪色と長さ違ったら気づけるわけがねぇんだわ。ろくに話したこともないし……」


 言い訳をダラダラ吐き連ねるものの、俺のピンチは何も変わらない。バレるのも時間の問題だ。

 お互い秘密にしてたらバレないとか言うのは紛れもなく愚者だ。確実にいずれバレる。

 具体的には第二皇女が結婚した時にバレる。

 とやかくは言わないが、皇国の密偵は非常に優秀で、何年も前の出来事すらも調べ上げ、証拠を入手する。

 つまり、行き着く先はジ・エンド。


「ヤバい……有耶無耶に誤魔化したけど、普通にあかん。もう会わないとか言ったらそれはそれでただのやり捨てクソ野郎だし」


 というか第二皇女が簡単に体を許すな! 拒否れ!

 やばい、思考がゴミクズ人間のソレだ。


「どのみちお互いの立場もあって、ずっと冒険者を続けていくのは不可能だ。破綻は近い」


 第四王子である俺も、第二皇女である彼女も、いずれは政略結婚の道具に使われる。冒険者としての活動限界は家庭を持つまで。

 

「あぁ、クソ……! でも絆されてんだよなぁ……!」


 チョロいと言ってくれ。

 俺はこれまで相棒と思っていた彼女に、今までにないほどに女を感じている。心を、許してしまっている。

 このままじゃ醜い独占欲を発揮する時も近いだろう。つまるところ、どこの誰だか知らん男と結婚して欲しくない。


「クソッ、やるしかねぇか……!! 和平ッッ!」

  

 失敗すればどのみち終わるしな!!!

 ヤケクソで結構。責任くらい取らんとな。


 そうと決まれば早速動こう。



☆☆☆


「皇国と和平? 無理だろうな。無論、私も何度か考えた。だが我々は血を流しすぎた。今更どうともできまい」

「デスヨネー」


 王太子、リスティル。

 金の長髪に、凛々しい瞳が市井に人気の完璧超人。

 そんな兄貴である彼の執務室に向かった俺は、開口一番「皇国と和平は可能か?」という問いを投げかけた。

 その返答がコレだ。

 半ば予想通りとはいえ、王国の智将とも言われている兄ならばどうだろうか、という期待があったことは否めない。

 トボトボと落胆を抱えながら去ろうとすると、ため息を吐いた兄上が俺を呼び止めた。


「まあ、待て。我々とて血で血を洗う戦争は避けたいのも事実だ。ようやく戦争の火種が薄れ、商工業に取り組もうという時期だ。しかし、また戦争が始まれば、文化や技術などは容易く燃やされる。未来への発展のために、和平は必須ではあるのだ」

「では、兄上はすでに動いてらっしゃると?」

「結論を急くな。私には和平交渉を動かすための裁量は無い。そこは我が王、父上の領域だ。提案はすれど、主となって動くことはできない」


 それもそうだ。

 王太子というのは権力があるようでない。

 皇族であれど、王ではない。和平ともなれば、国の行く先を大きく動かす出来事だ。

 王に王太子として「和平などを考えてみてはいかがか?」と発言こそできるが、主体となって何かすることは不可能だ。

 

「我々は王の忠臣だ。王命とあれば、全力を持って和平に取り組むことは間違いないだろうな」


 そう言って兄上は笑った。

 これは、俺に王を説得しろ、と言外に語ったのだろう。どうして何も聞かずにここまで語ってくれたのかは不明だが、光明は見えた。

 父上を説得できるかは分からない。だが、やらねば普通に国が滅ぶ。戦争に勝ったとしても、その犠牲は計り知れない。


 自らの責任逃れと、自らの恋愛のため。


 第四クズ王子、行っきま〜す!

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