2.引きこもりは家族の愛を感じた
「ほ、本当に綾斗なのか?」
「あらあら、可愛くなちゃって」
「「でも本当に綾斗が無事で良かった(わ)」」
「綾斗がご飯も食べずに3日も部屋から出てこなくてもしかしたら部屋の中で命に係わるようなことになってるのかと心配で仕方なかったのよ。前に2日ぐらい閉じこもったときは部屋の中から音が聞こえたり、ずっと話しかけてたら返事が小さくは帰ってきてけど今回はそんなこともなかったから...」
姉さんが僕が女の子になったと伝えて大騒ぎしたしばらく後、両親が部屋に入ってきて放心状態になりながらも問いかけに頷くだけはしている僕の顔を覗き込んでくる。父さんは信じられないのか自分の頬をつねっている。母さんは、僕の姿かたちが変わるという大変なことが起こったとはいえ、1年も引きこもり迷惑をかけてばかりの僕が健康的に問題なさそうなのを見て目に涙をため、震える声で僕が無事で本当に良かったと呟いている。
いつまでも呆けてばかりもいられないと気を持ち直した僕は久しぶりに顔をちゃんと顔を合わせた家族に自然と口が動いていた。
「ずっと引きこもってて、心配してくれてたのに話を聞こうとも話そうともしないでいてごめんなさい。学校でいづらくなって、部屋にこもって母さんや父さん、姉さんが心配してくれてるのに無視したり暴言でかえしちゃったりして本当にごめんなさい。…」
家族とちゃんと喋るのがあんなにも怖くて出来なかったのに、両親の僕を本当に心配する顔や姉の一安心したような顔を見ると、両親や姉への感謝の気持ちと後悔の気持ちがとめどなく溢れてきて、涙ながらに家族へと謝罪する言葉が止まらなく出てきた。
泣きながら懺悔し続ける綾斗を母の楓は優しく抱きしめて、女の子になった彼が落ち着くまで頭を撫で続けた。父の健斗はそんな彼女たちの様子をしばらく優しい顔で見た後、小さくなった綾斗の背中を2撫ですると1階に降りてから煙草を吸いに外に出た。
父さんも母さんも姉さんも引きこもっちゃった僕を冷たい目でなんか見てなかったんだ。そういう風に見られてると感じてしまうぐらい僕は自分で殻を作ってそこに閉じこもっちゃてたんだなと感じた。それに、こんなどうしようもない僕でも愛してくれているのを感じ、胸がとても温かくなるのを感じる。
「そういえば綾斗、う、可愛い...ごほん、あんた女の子になっちゃてるわけなんだけどさ、なんか心当たりみたいなのあるの?あんたはずっと部屋にいただろうから特にないかもしれないけど...」
母さんに抱きしめられ続けて落ち着いてきた僕に姉さんは僕がこうなった原因に心当たりがあるかと質問してきた。
「実は、僕がこの体になった日にこのままじゃ駄目だと思って昼間に人目を避けながら外出してたんだ。心当たりとしては、家の近くにある教会で懺悔して新しい自分になりたいって4時間か5時間くらいお祈りするっていう変わった体験はしたけど関係ないか、そういえばその教会はめちゃくちゃ立派で...」
僕が外出していたという事実に2人は物凄く驚いた様子だった。しかし、僕が教会について話し出すともっと詳しく話してといわれたため、教会について話していく。教会での出来事や教会がどんなものだったかを話せば話すほど2人の顔は険しいものになっていった。
「綾斗、あんた本当に教会に行ったのね?家から徒歩で20分もかからないぐらいでしかもかなり立派な教会に。あと、教会に行って4時間越えのお祈りしてくることは十分に変わったことよ」
「その、綾斗、落ち着いて聞いてね。私たちの家の近く、少なくとも徒歩20分でいけるような距離には教会なんてないの。しかも、綾斗が向かった方向にはさっき話してくれたような街並みは広がってないのよ。推測にはなるけど、綾斗が女の子になっちゃった原因はその教会に訪れたことか、そこでお祈りしちゃったことが原因だと考えるべきでしょうね」
母さんや姉さんから教会なんてこの近くにはないということを聞いた瞬間、僕は背中がぞくっとした。たしかに今考えれば、あんな立派な教会が1年やそこらで知らない間に出来ていたのもおかしいし、教会に入って神像を見た瞬間、何故だか祈らなくちゃいけない気がして4時間や5時間も祈り続けちゃうことも座り込んで祈り続けていたのにすぐに立ち上がり帰ることが出来たこと、立っていることすら辛いほどの疲労感に襲われたことなど、少し考えればおかしなことが沢山あることを2人に指摘されて初めて実感した。まるで、僕が行った行為が至極当然の行為だと何物かに思わされていたんじゃと感じずにはいられなかった。
「まあ、その教会にもう一度行けるかは明日確認しましょうか。ひとまず今日はご飯食べてお風呂入って寝なさい。女の子になっちゃて分からないことも多いだろうしお風呂には灯と一緒に入りなさい。恥ずかしいだろうけど、女の子と男の子じゃ違うことも多いからしっかり教えてもらいなさい」
ええー!心の内を全部話せて姉さんへの苦手意識は薄まりはしたけど、いきなり一緒にお風呂は恥ずかしさも当然ヤバいけど、気まずさ的にもヤバいんだけどー!
そんな僕の心の叫びをよそにご飯はあっという間に食べ終わり、お風呂の時間になってしまうのだった。