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文通はほどほどに  作者: もちょ
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落し物




私の日常は至って平凡で、私の人生すら平凡に成り果てようとしていたと思う。

特別な楽しみも、夢中になれる趣味も、ましてや人生を捧げたい相手なんている訳がなかった。





大学を出て就いた仕事は、入社するためにしたあれだけの努力に見合う価値があるのかを考えないようにしなければ続けていけるはずがない程度には苦痛だった。

けれど、生きていくのにはお金がかかる。誰が私に命を与えたんだと天を睨んでも、返ってくるものなどない。何もかもがどうでも良かった。






いつも通りの出勤、退社。だけどその日は一つだけ違った。通勤に使う駅のホームで見つけた落し物。ベンチの端で綺麗な布で出来た藍色のハンカチを拾った。

「すごく綺麗なハンカチ、」

思わず手に取ってしまい、数秒間ぼーっとした。こんなに綺麗なハンカチなのに持ち主に忘れられてしまうなんて可哀想というより不幸だと思った。

駅員さんに届けようと思ってベンチを立ったその時、乗るはずの電車がホームに着いた。



今思えば、どうしてそんなことをしたのかは自分でも分からないが、私はそのハンカチを自分のスーツのポケットに押し込み電車に乗った。きっと私の判断ではない、他の誰かの判断だった気がしてならないのだ。





家に着いたころ、ハンカチの存在は脳内でかき消され、それは脱ぎ散らかしたスーツの中で眠り、私もすぐに眠った。





次の日、珍しく寝坊をしてハンカチのことを考える余裕もないほどに慌ただしく家を出た。怒涛の一日を終え、帰路でポケットの違和感に気づく。

「あれ、私これしまったんだっけ」取り出して再度見つめるとやはり綺麗で、昨日は持ち主に返すのが惜しくなったのだと思い出した。


「誰よ、こんなに綺麗なハンカチを持ち歩いてるのは」





今度こそ駅員さんに届けようと周りを見渡すと白い紙がベンチに挟まっているのを見つけた。座り込み、紙を開くとそこには

「僕のハンカチを返してください」

と綺麗な字で書いてあった。








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