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[短編]映し鏡のようなウイスキー小瓶と休日を

掲載日:2021/12/25




 12月25日の日の出を無事に迎える。


 徹夜の仕事を終えて、疲れ果てた体を引き()るようにして、コンビニへ。


 軽やかな音と共に、暖かい空気が冷えた体をふわりと撫でる。


 ちょうど品物の補充時間前だったのか、ガラガラのショーケースに少し肩を落とす。


 残っていた惣菜パンと魚肉ソーセージ、サラミも掴んで棚を移動すると、酒のコーナー。


 並んだ瓶に自分の姿に似たおっさんを見つける。

 トランプのキングに似たおっさんのイラスト。

 ポケットサイズのウイスキーの小瓶。


 なんだか、オレも歳を取ったなぁ。


 急にそんな感慨を抱き、思わず空いていた手で顎髭(あごひげ)を撫でる。


 徹夜明けで頭がハイになっているのかもしれない。

 ウイスキーの小瓶を手に取ると、そのままレジに向かった。



 コンビニも電車もスマホで済ませられる世の中になった。

 いちいち、物を贈るのは時代遅れなのかもなぁと、おっさんのオレは思ってしまう。


 早朝の少しだけ空いた電車を乗り継いで、人の少ないローカル線にたどり着く。


 スマホ決済ができないので、終点までの切符を買う。


 学生たちは休みに入り、土曜日の今日も出勤する大人たちは、ほぼ車のエリア。

 今どき珍しいボックス席の車両。


 午前中の透き通った光が車内を照らす。


 ボックス席の窓際に座り、コンビニのレジ袋からサラミとウイスキーの小瓶を取り出す。


 向かいの席には誰もいない。

 4人掛けのボックス席を独り占めだ。


 オレは音を立てないように、静かにキャップを開ける。


 パキッ


 蓋を開けて、小さな口の瓶をそのまま自分の口にあてる。

 流れ込む40度のアルコール。


 体温で気化されたウイスキーの香りが、一瞬で口の中に広がる。

 閉じた口から鼻へ抜けて、芳醇な香りに顔全体が包まれる。


 大きく、息を吐く。


 タタンタタン、タタンタタン…


 しばらく電車のリズムを楽しんだら、もうひと口。


 ウイスキーをポケットにしまい、パッケージを剥がし、サラミをかじる。


 まだ歯は丈夫だ。


 サラミを咀嚼しながら、またウイスキーに手を伸ばしてポケットに触れると、かさりと音がした。


「ああ、手紙を、もらっていたな…」


 開くまでもなく、内容は覚えている。


『サンタさん ありがとう』


 時代遅れでも、やはりまだ続けていこう。


 ほんのりと酔いの回った頭で、そう思った。


 少し高い位置になった太陽が、禿げたオレの頭を照らす。


「おっさんだから、できることもあるよなぁ」


 オレはウイスキーの香りと電車の音に、休日の始まりを感じながら、少しだけ笑った。






このまま終点まで乗って、タクシー運転手おすすめの食堂で、ビール飲みながら定食を食べる。旅館で温泉入って早めに眠って、日の出を眺めてから、朝市で食べ歩きしてまた電車に揺られて帰る。駅の構内の立ち食い蕎麦屋で締める。


そんな休日。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ブラ●クニッカですね!三鳥居よりニ●カ派の私にはちょっと嬉しいです。 後半までサンタさんだと気づかなくてびっくり。 確かにちょっとあの絵はサンタさんぽいかも! ほのぼので良かったです
[良い点] サンタを演じる人の良いオッサン。本物のサンタだったら、この日だけが徹夜でしょうが、現実のサンタは1年中はたらかないといけないのですよね。ほおえましく読ませて頂きました。 [気になる点] 鏡…
[良い点] ああ~いい……! いいですね……! 電車の心地よい揺れと、コンビニで買えるウィスキーの、芳醇とはいいがたい、あの独特の香りと、サラミの獣臭さ。 それから冬の眩しい白い光。 そういったも…
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