[短編]映し鏡のようなウイスキー小瓶と休日を
12月25日の日の出を無事に迎える。
徹夜の仕事を終えて、疲れ果てた体を引き摺るようにして、コンビニへ。
軽やかな音と共に、暖かい空気が冷えた体をふわりと撫でる。
ちょうど品物の補充時間前だったのか、ガラガラのショーケースに少し肩を落とす。
残っていた惣菜パンと魚肉ソーセージ、サラミも掴んで棚を移動すると、酒のコーナー。
並んだ瓶に自分の姿に似たおっさんを見つける。
トランプのキングに似たおっさんのイラスト。
ポケットサイズのウイスキーの小瓶。
なんだか、オレも歳を取ったなぁ。
急にそんな感慨を抱き、思わず空いていた手で顎髭を撫でる。
徹夜明けで頭がハイになっているのかもしれない。
ウイスキーの小瓶を手に取ると、そのままレジに向かった。
コンビニも電車もスマホで済ませられる世の中になった。
いちいち、物を贈るのは時代遅れなのかもなぁと、おっさんのオレは思ってしまう。
早朝の少しだけ空いた電車を乗り継いで、人の少ないローカル線にたどり着く。
スマホ決済ができないので、終点までの切符を買う。
学生たちは休みに入り、土曜日の今日も出勤する大人たちは、ほぼ車のエリア。
今どき珍しいボックス席の車両。
午前中の透き通った光が車内を照らす。
ボックス席の窓際に座り、コンビニのレジ袋からサラミとウイスキーの小瓶を取り出す。
向かいの席には誰もいない。
4人掛けのボックス席を独り占めだ。
オレは音を立てないように、静かにキャップを開ける。
パキッ
蓋を開けて、小さな口の瓶をそのまま自分の口にあてる。
流れ込む40度のアルコール。
体温で気化されたウイスキーの香りが、一瞬で口の中に広がる。
閉じた口から鼻へ抜けて、芳醇な香りに顔全体が包まれる。
大きく、息を吐く。
タタンタタン、タタンタタン…
しばらく電車のリズムを楽しんだら、もうひと口。
ウイスキーをポケットにしまい、パッケージを剥がし、サラミをかじる。
まだ歯は丈夫だ。
サラミを咀嚼しながら、またウイスキーに手を伸ばしてポケットに触れると、かさりと音がした。
「ああ、手紙を、もらっていたな…」
開くまでもなく、内容は覚えている。
『サンタさん ありがとう』
時代遅れでも、やはりまだ続けていこう。
ほんのりと酔いの回った頭で、そう思った。
少し高い位置になった太陽が、禿げたオレの頭を照らす。
「おっさんだから、できることもあるよなぁ」
オレはウイスキーの香りと電車の音に、休日の始まりを感じながら、少しだけ笑った。
このまま終点まで乗って、タクシー運転手おすすめの食堂で、ビール飲みながら定食を食べる。旅館で温泉入って早めに眠って、日の出を眺めてから、朝市で食べ歩きしてまた電車に揺られて帰る。駅の構内の立ち食い蕎麦屋で締める。
そんな休日。