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98.『物質転送』対『冒険者』

「当初の作戦通り。上手く引き付けて、Sランクを分散出来たようだな。さてニール。こちらも負ける訳にはいかない。気を引き締めていくぞ」


 褐色肌の女戦士の言葉に対して、背の低い、それでも召喚勇者などを除いた、この大陸で生まれ育った人間では最強の称号を持つ冒険者、ニール・アルセリアは静かに頷いた。


 他のみんなと離れてしまった以上、目の前に立つSランクスキル『物体転送』を操る黒髪の男、生駒聖斗は、レインとニールの二人で仕留めなくてはならない。


「あのイレギュラー共よりは優先度の低い奴らか。まあ良い。ここで殺しておくに越した事はないしな。どこからでもかかって来な」


 余裕の表情で、相手は言い捨てる。Sランクスキル。確かに、スキルも何も持たない、この剣だけで戦ってきた二人を倒すなら。手で触れたものをどんなものでも、好きな場所へ、テレポートさせるこのスキルさえあれば一方的な戦いになる事は誰もが予想できる。


 ――でも。


「事前に打ち合わせした通りだ。アタシたちのコンビネーションを見せてやるぞ!」


「……ああ、レインさん」


 二人は同時、二手に分かれて全速力で走り始める。それも、普段より軽い足取りで。二人は――防具を着けていなかった。


(……ニール、敵が敵だから攻撃を喰らえば一度でも致命傷だから、防具を外して速さを優先しようなんてな。客観的に見れば馬鹿……でも、だからこそ、最強の座に立てたのだろうな)


『普通』では、最強になんてなれない。それを、時には飛び抜けた作戦、発想で乗り越える。故に、最強へと辿り着いた。努力と才能だけでここまで上り詰めたレインでは、彼には届かない訳だ。


 しかし、相手も『普通』が通用しない相手。『物体転送』を持つ相手は、向かってくる二人を見ると、学生服の紺色ブレザーの内側へと、手を入れる。――次の瞬間。


 ――パッ! と、向かってくる二人の正面にそれぞれ一本、ナイフが出現する。


 幸い。彼はまだ『前兆』があるので、いつ攻撃が襲ってくるのか分かりやすい。


 二人は、ブレザーの裏へ手を入れた瞬間に、一度横へと飛び、ぎりぎり現れたナイフの先を回避して、走り続けた。


 ナイフは二人を突き刺す事なく、カランカランと音を立てて地面へと転がり落ちる。


 攻撃は終わらない。相手がブレザーの内側から手を出さない事がその証明だ。ただし、その裏側は二人には見えない。


 ……つまり、どのタイミングで飛んでくるのかわからない。


 二人は全神経を集中させ、速度を落としながら走る。――そして、突然。目の前に再び、ナイフが現れた。


 ニールはそれを完全に見切り、ナイフの先を横腹スレスレで通る。


 そしてレインは。――サクリッ。防具を着けていなかった彼女の横腹を、軽く切り裂いた。そこそこ深い傷は、明確に彼女へダメージを与える。


「ぐ……ッ」


 しかし致命傷ではない。防具を着けていなかった故に開いた傷ではあるが、防具を着けていなかったおかげで何とか体が動き、正面からまっすぐに突き刺さる事はなかったとも言える。彼のギャンブルみたいな判断は正しかったらしい。


 避けられるとは思っていなかった相手は、一歩後ろに下がると、さらにナイフを進む先へと配置する。しかし、二度も同じ攻撃を喰らえばパターンも読めてくる。レインもニールも、ナイフが体に突き刺さる事はなかった。


 そして、互いに離れていたその距離も、あと十メートルといったところか。もう一踏ん張りで届く、その距離。ここで終わらせる為、二人は剣を握り、敵の元へと走る。


 一歩、また一歩。敵の元へと近づいていき、あと一歩。剣を振れば、その体を切り裂き絶命させられる。二人は躊躇せず、相手に向けて剣を振り下ろす。……その瞬間だった。



 ――彼は、自分自身に触れた。


 そして、彼の体は……どこかへと消えてしまった。



 二人の剣は何もない、ただの空気を切り裂く。


「そんなッ!? アイツは今まで、自分自身を飛ばしたことは無いはず。そんな便利な力があって使わないなんてあり得ない。つまり、自分は飛ばせないんじゃないのか!?」


 これまでの戦い、行動の中で彼が自分自身を転送した事は一度もない。……故に、勝手に『自身は飛ばせない』と思い込んでいた。


 しかし、違った。確かに、彼は目の前から()()()。自分自身を転送したのだ。


「……予想。飛ばせない事は無かったが、飛ばしたくない理由があった。――例えば、飛ばす事による()()()()()


 ニールは、小さな声で独り言のように呟いた。

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