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94.迎撃作戦

「これより第三次召喚勇者、迎撃作戦会議を始める」


 激しい戦いのその日の夜。リディエ前線基地……元は役所だったらしいその建物の小さな会議室で、作戦会議は始まった。


 そこへ集められたのは、主な実力者。会議の進行をしているのはこの軍をまとめる、リーダーを務めるレイン・クディア。最強の冒険者と呼ばれたニールや、水橋たち二人のSランク。そこへ俺たち兄妹や工藤茂春、プレシャも加わって、小さな会議室は埋まっている。


 

「戦力が増えた今、充分に勝機はあるだろう。目標の撤退だけではない。完全撃破を目指し、再び作戦を練り直す。特に注意するべき相手をおさらいしよう」



 敵勢力のSランクは全部で七人。


 ――一人目、黒沼龍弥(くろぬま りゅうや)。『加速装置』を持つ男。身体の一部であれば、どこに触れた物であっても物体の加速、減速ができる。その速度は驚異的で、破壊力は化け物揃いのSランクでもトップクラス。


 ――二人目、永見里奈(ながみ りな)。『法則定義』で、周囲に物理法則すらも無視したありとあらゆる『ルール』を適用する事が出来る。ただし、一度に適用できるルールは一つまで。二つ目のルールを定義すれば、その前に定義していたルールは解かれる。


 ――三人目、生駒聖斗(いこま せいと)。『物体転送』は、手で触れた物を別の地点へとテレポートさせる。ただし、自分自身を飛ばした所を見た者はいないので、自分を飛ばすことは不可能か、難しいのかもしれない。


 ――四人目、紗倉瑞紀(さくら みずき)。『衝撃操作』で、音速を超える衝撃波を放ったり、逆に攻撃を無効化したり、汎用性の高いスキル。黒沼の『加速装置』と似ているが、物体を直接飛ばす事はできないようだ。


 ――五人目、鬼堂桜樹(きどう おうぎ)。『重力支配』は、彼の周囲の重力を自在に変えられる。近づく者を圧倒的な重力で押さえつけたり、彼自身がふわりと浮かび上がったりと厄介なスキル。


 ――六人目、時枝芳乃(ときえだ よしの)。『時間停止』は、その名の通り時を止め、自由に動く事が出来る。その中で物も動かす事が出来るようだ。


 ――そして七人目、雫川実里(しずかわ みのり)。『死者蘇生』スキルは、その名の通り死体があればそれを生き返らせる。七人の中で、一番厄介だと言っても過言ではないスキル。



 さらに、注意するのはSランクだけではない。先の戦いで彼らが逃亡に使った『空間接続』など、Sランクでなくとも充分脅威となりうるスキルも多い。……つまり、敵には隙がないのだ。


「これらの敵をどう倒すかだが……中途半端な作戦が通用する相手では無いだろう。アタシたちのように、大きな一つの軍であれば、そんな作戦が通用するのかもしれないが、相手は少数精鋭。臨機応変に動ける相手には愚策だろう。……つまり、総力戦だ」


 ……しかし、それではやってる事が、何も変わらないのではないのか。そう思うが、そんな考えを否定するようにレインは続けて、


「しかし、これまでの戦いで敵の情報も揃っている。その情報を活かし、有利な状況を作ることは可能だろう。各自、有利な相手と一対一の状況を作る事ができれば、勝利は見えてくる」


 ……しかし、問題はそれだけではない。


「『死者蘇生』スキルはどうするんだ? アレをどうにかしない限り、また復活させられるのがオチじゃないか?」


 先の戦いでも、二人は確かに撃破した。しかし、蘇生という破格のスキルによって、その努力が一瞬にして水の泡となったのだ。しかし、俺の言葉にレインは自身ありげに言う。


「心配は要らない。各自倒した後、その場で死体を見張っていれば良いだけの話。奴は死体が無ければ、生き返らせることはできないのだからな」


「確かにそうだが……それって」


 しかしそれは、誰一人失敗することなく、Sランク六人全員を倒す事が出来る前提の話だ。撃破した者が援護に向かう事が出来ず、誰か一人が失敗すれば、戦況は一気に崩れることになる。そうなれば、犠牲は再び多く出る事になってしまうだろう。


 そんな考えを察したレインは、俺に向けて言う。


「……アタシたちの事が信じられないか? 誰かが必ず失敗すると、そう思っているのか?」


「いや、そうではない。ただ……あまりにも危険すぎるんじゃないのか」


 多くの犠牲があった。それなのに、さらに犠牲を増やすのか? そう思ったが、レインは――


「皆の顔を見るがいい。こんなにも自信に満ち溢れている、この目を」


 俺は、会議に参加する、そしてこの作戦が実行されればあの強敵たちと直接対決をする事になるそのメンバーを見る。その誰もが、俺なんかとは比べ物にならない、真剣な顔つきをしていた。


 むしろ、信じてもらえないのは自分自身なのではないか、そう思わせられるほどに。


「アタシはこれでも、人を見る目には自信がある。……でなければ、クリディアでサブマスターなんて仕事は任されていなかった。安心しろ。……誰一人死ぬことはない」


 勝手に自分が『守る側の人間』だと思っていたが、それはたまたま手に入れたこのステータスによる慢心だ。


 真に足を引っ張っていたのは自分自身だったのだと。この世界に来る前から何一つ変わっていない、人を信じたりするのを拒んでいた、この心なんだと――そう気付かされる。


 偉そうな事を言って。結局、一番変わるべきなのは――自分だ。

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