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93.二人の決意

「本当に、申し訳ない……ッ」


 一人の男の声が、小さな部屋に響き渡る。


 小さな部屋には、男女が一人ずついるだけだった。そこは、大陸の東にあるリディエの中でも最西端、第三次召喚勇者たちを迎え撃つ、前線基地の建物の中。


 Sランクスキルを持ち、前線で戦い続けた召喚勇者の一人、水橋明日香の部屋の中だ。……厳密には他の女子もそこで寝泊まりしている訳だが、今は戦いを終えたばかりで、怪我の治療などで出払っていた。


 別に変なことをしている訳でもないし、見られた所で……とは思うが、一応同部屋の人たちが戻ってくるのも時間の問題だろうと、これまでの事を簡潔に話した。


「それで戻ってきたと。……まあ、その気持ちには賛同したい所だけれど、それは残念ながら叶う事は無いわ」


「……どういう事だ?」


「クリディアで起こった召喚勇者との戦いで、私たち二年四組も……多くの命を失ったからよ。今回の戦いでは出ていないけれど、貴方たちがいなければ……出ていたでしょうね」


 工藤はその言葉を受け止め、悔しさから右手を強く握りしめる。どういう事かだなんて聞かなくても、なんとなく想像はできていた。しかし、それを信じたくなかった。言葉で聞きたくなかった。


「大体、考えが甘すぎる。貴方は一度このクラスを去った。で、気が変わったから戻ってくる。その間に、私たちがどれほど苦労したのかも知らずに。それで、バラバラになったクラスをもう一度戻したいだなんて、説得力がなさ過ぎるわよ」


「……だよな。俺もそんな事くらい分かっちゃいるんだ」


 そんな都合の良い事、少し謝ったくらいで許されるはずがない。それは自分が一番分かっていたつもりだ。


「でも。もう死んでしまった命が帰ってくることは無いにしても。償いになるなんて思っちゃいない。ただの俺の自己満足だろうが……もう一度、このクラスの為に戦わせて欲しい。『強さ』の使い道が、やっと分かったんだ」


 この世界に来て身に宿ったスキル『超速飛行』に、この体を魔人へと改造してまで手に入れた圧倒的な力。途方もないくらいの強さの使い道を見誤っていた彼は、やっとその力の本当の使い道に気がついた。


 遅すぎる、なんて言われれば返す言葉もない。そんな工藤の言葉に、冷たくも優しく、水橋は返す。


「別に、戦力が増えるのは悪いことじゃないわ。ただ、貴方が私欲の為だけにこのクラスを捨てていなければ、失わなかった命もあるという事は分かって頂戴」


「……ああ、もちろんだ。償いとか、そういう訳じゃないが……もうこれ以上、誰も失わせねえ。その為だけに、俺はこの力を使うことにする」


 強い意志で言い放つ工藤に、水橋も真剣な眼差しで、


「当然よ。私も、その為に戦い、強さを求めているんだから。もう失ってしまった命を取り戻すことはできない。でも、その死を無駄にせず、次へ活かす事ならできる。これ以上の死もなく、無いと言われた帰る方法も探し出して、絶対に元の世界へと帰る。それが、力不足だった私に出来る、せめてもの償いだから」


 水橋明日香は、強い意志の宿ったその目で、工藤茂春を見据える。


 それに応えるかのように、彼は――


「分かった。今の状況と敵について、詳しく教えてくれ。あの時は情報がなさ過ぎて、戦おうにも戦えなかった」


「ええ。梅屋君たちの方も、大体そんな話題になっているでしょうし。次の襲撃まで時間もどれほど残っているか分からない。敵について軽く話しておく必要があるわね。きっと、この後の作戦会議で詳しいことを話すことになるだろうから、簡単に説明しておきましょうか」

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