90.Sランク『衝撃操作』
「はああッ! はああああぁぁぁッ!!」
「近づく事すら難しいな……こりゃ」
ギュウウウゥゥゥゥンッ!! と、轟音と共に放たれたのは『衝撃波』。それを何とか空を飛んで避ける工藤茂春。
空気の振動も、音速を越えれば可視化する。それを自在に引き起こせるのが、対する金髪で背の高い、綺麗な顔立ちと大人びた雰囲気の女性。
「ねえ、大人しく倒されてくれないかなあー。こんな所で時間掛けてたら、うちの奴らがうるさいんだよね。……だって君、逃げ回ってるだけじゃん?」
「チッ、コイツ……」
工藤は、何とか放たれ続ける衝撃波を縦横無尽に避け続けるが、それが限界。そこから攻撃に転じることが難しい。彼も、遠距離から放てるようなスキルも魔法も持っていない。持ち前の素早さのみが武器なのだから。
「仕方ないなあ……あまりリスクは犯したくないんだけど、このままじゃ埒があかないし――」
彼女はそう言うと、自身の足元に向けて衝撃波を放つ。ビュウウウッ!! と、空に浮かぶ工藤の元まで飛び上がってくる。さらに、そこからもう一発。衝撃はを放つと、彼の元まで一直線に近づいていくと、一言。
「ごめんね? 荒っぽいことは好きじゃないんだけど」
距離を詰めた彼女は、そのまま右手を振るい、工藤の元へ音速を超えた衝撃波を叩きこむ。
今まではある程度の距離があったから、避けることが出来ていたが……こんなに近くから放たれたものを避けるのは無理がある。そのまま直撃した彼は、墜落し、地面へと向かって真っすぐに落ちていく。
(……結局。ここまで戻ってきて、再びクラスを一つにしようなんて甘い考えは通らない。一度壊してしまったものを、元に戻すのがどれほど難しいのか。俺はどこまでも甘く、軽く考えすぎていたのか)
そして、彼の体は下へ思いっきり叩きつけられる。しかし、不思議と体に痛みは走らない。それどころか、下はふかふかで、やわらかい感触だった。
恐る恐る下を見ると……そこは、雲のようなふわふわの、綿の塊の上だった。
何が起こったのか自分でも分からない。そんな彼に、別の一人の女性が声をかけた。
「お久しぶりね、工藤君」
綿の上に転がる俺を見下ろしている、黒い長髪に綺麗な顔立ちをした女性。彼女は同級生であり、学級委員であった……水橋明日香の姿だった。
「……水橋……?」
「何処へ行っていたのかしら、とか、何故魔王が再び、それも貴方たちと共に現れたのか、とか……そんな事は後から聞かせてもらうとして。今は目の前の敵に集中する事ね」
彼女は冷たい口調で、工藤に向けて言い放つ。
「……済まない、助かった。後は俺に任せてくれ」
工藤はそう言うが、彼女は――
「Sランクは別に貴方だけの特権じゃないわ。どっちみち、貴方じゃアレに近づけないでしょう?」
「ぐっ……、済まない。力を貸して欲しい……!」
一方、衝撃波を操る金髪の彼女も地上へと降り立つ。衝撃波を使って飛び上がっただけであり、彼女は決して空を飛ぶことができる訳ではない。
そして、そのやりとりを見ていた彼女は……。
「そっちの男だけなら何とか持ちこたえれられるんだけど……流石に『物質錬成』まで一緒に相手にするとなると厳しいなあ……。悪いけどここは引かせてもらおうかな」
そう言って、地面へ衝撃波を放つと、斜め横へ、逃げていくように飛んだ。
「おい、待てッ!」
「いいえ、ここは大人しく逃がしておきましょう」
追いかけようとする工藤を止めようと、横から制止の声を掛ける、水橋明日香。
「何故止めるんだッ! あのまま逃がしても良いのか!?」
「先に倒すべき相手がいるの。どうせどこかに身を潜めているのだろうけど、それを倒さない限り、いくら追った所で無駄よ」
「……先に倒すべき相手だって?」
「ええ。Sランクの――『死者蘇生』」




