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9.深夜の決断

「これ以上犠牲を増やす訳にはいかないと、よそ者にはこの話はしないと決めていたんだがな……ここまでされては隠し通すことも出来ないだろう」


 村長は、深刻そうな顔つきをしながら言う。


「……何が起こっているんですか、この村に」


「一ヶ月前。この村の女性は皆、突然襲ってきた魔物によってさらわれてしまった」


「そんな事が……」


 悪い予感はしていたが、やはり。よくない事がこの村で起こっているらしい。


「その時、誰かがこっそり持っていた銅貨で目印をつけておいてくれたらしい。おかげでどこへ連れて行かれたのかは分かったのだが……問題はそこでな」


 村長は、深いため息を吐くと、続けて。


「近くの山に突如出来ていたダンジョンの中だ」


「……ダンジョン?」


「ああ。ダンジョンというのは……昼も夜も関係なく、呪いによって生み出された凶悪なモンスターが巣食う場所。しかし、前まではあんな所にダンジョンなんて無かったはずなのだが」


 ダンジョンというのも五百年前の呪いとやらで生まれたものなのだろうか? ……しかし、最近出来たというのは不自然じゃないかと疑問に思う。


 まるでこの村の女性をさらった後、閉じ込めておくために新しく作ったみたいだと、そんな事を想像してしまう。――という事は。


「そのダンジョンに、まだ村の女性は……」


「――無事だと思っている。わざわざ殺す為だけにあんな所へ連れては行かないだろう。目的も分からないしな。……だから生きている。いや、無事だと信じている、という方が正しいのかもしれないが……」


 ――まだ間に合うというのなら。行かない以外の選択肢はないんじゃないのか?


 それに、ここで行かなければ……俺にとっても何か大切な物を失ってしまうような、そんな予感がした。それが具体的に何なのかは分からないが、とにかく、そんな胸騒ぎに襲われたのだ。


 そして、気づけば俺はこんなことを口走っていた。


「村長さん。明日、そのダンジョンに案内してください」


「――ダメだ」


 考える間もなく村長は一言、強く言い放った。


「これまでに何人も、何十人もあのダンジョンに挑んだ。そして帰ってきた者はゼロだ。……これ以上犠牲を増やす訳にはいかない。それも、関係のないよそ者を巻き込むなんて言語道断だ」


「でも、こんな話を聞いて放っておくなんて――」


「それはこんな時間に家まで訪ねられて、仕方なく話しただけだ。君をこの一件に関わらせる気はない」


 村長は、俺の心を折り砕くかのように冷徹に、きっぱりと言い切った。


 対して、俺も少しだけ強い口調で、村長へと言い返す。


「……俺にはこの高いステータスがある。村のみんなを助け出すことだって! ――それに」

 

 俺は胸騒ぎのするザワザワとした胸に手を当てて、訴えるように言う。


「ここで行かないと……何か、大切な物を失ってしまうような、そんな予感がするんです」


「……」


 俺の言葉に、村長は黙り込んでしまう。そしてうつむき、しばらく考え込んだ後、迷いが吹っ切れたように。


「――君には負けたよ。俺も怖かったんだ。これ以上村の民を失う事が。そして無関係の人を巻き込むのが。……でももう大丈夫だ。覚悟を決めよう」


 村長の顔色が変わる。威厳の増した、村長にふさわしいような、そんな顔つきで。


「最後の奪還作戦を明後日。明後日に行う事にしようッ! 村の全てを賭けた、文字通り『最後』のダンジョン攻略だッ!!」


 威厳はありつつも穏やかな口調だった村長が一転、村の長としてふさわしいような力強い声が、夜の村中に響きわたった。


「作戦会議、作戦準備は明日行う。もちろん、主戦力である君にも参加してもらおう。……明日の朝は早いぞ、もう今日は宿に戻って寝るといい」


「――はい!」



 こうして俺は、多大な犠牲を払った末に諦めてしまった村長の心を再び動かした。

 たった一度きり、本当に最後の、全てをかけた奪還作戦が今、始まろうとしていた。

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