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87.Sランク『物体転送』

 戦場で向かい合う、一人の男と一人の少女。


 一人は至る所に瓦礫を降らせ、もう一人はそれをひたすら正確に避けつづける。


 ――Sランクスキル『物体転送』。触れた物を任意の場所へと瞬間移動させる。


 ――Sランクスキル『未来予知』。十秒先までの未来が視える。


 どちらも、Sランクの名に相応しいスキル。両者共に譲らない戦いが続く。


「なあ。お前もオレ達と同じ『召喚勇者』とやらなんだよな? 何故この世界の人間に味方する? 帰りたいとは思わないのか? 戦力として使い潰されて、嫌じゃないのか?」


 黒髪の男の問いに、明るい橙色の髪を伸ばした、活発な雰囲気の、中学生の少女――七瀬裕美(ななせ ひろみ)は言う。


「確かに、ウチらを呼び出して使い潰そうとしたドルニアのことはよく思っていないよ。でも、それ以外の人々は関係ない。何もしていない人を巻き込む訳にはいかないでしょ?」


「……そうか。どうやらオレは出来れば殺したくはなかった、同郷の人間にまで手を下さなければならないようだな」


 残念といった口調だが、その男の顔からは悲しみの感情は感じられない。対する七瀬は、


「この世界に来てからたかだか一週間程度のキミには負ける気がしないけどね。……まあウチも、このスキルをフルに使って戦うのなんて、初めての経験だけど」


 今まで、ここまで激しい攻撃を仕掛けてくる相手と戦った事はなかった。未来予知で一度避けて、距離を詰めれば勝てる。そんな相手ばかりだった。


 しかし、この相手は違う。避け続けるのが精一杯で、攻撃に転じる隙がない。しかし、相手は余裕そうにガレキや廃材なんかを頭上へ飛ばし続けるだけ。


「それにしてはずっと逃げ回って、大変そうだな。……もういい、一瞬で楽にしてやるからじっとしていろ」


 未来が見えた。十秒後に、自分を貫くように長く太い角材が転送されてくる未来が。こんなものが突き刺されば、命は無いだろう。


 七瀬は、その時をじっと待ち――丁度五秒後。右足で前へと体を蹴り上げて、スタートダッシュを決めるかのように前へと飛び出した。


 角材は七瀬の元いた位置へと飛ぶが、角材は彼女の身体を貫く事はなかった。


 そのままの勢いで男の元へと走る彼女は、あと一歩。踏み出して剣を伸ばせば届く、そんな状況で。


 ……嫌な物を見てしまう。それは、目の前の相手の攻撃ではなく。


 それは、前の戦争で猛威を振るい、とある二人の犠牲によって倒されたと思っていた。


 もう、あれほどの強敵を目にする事はないと思っていた。


 もし、見えた事が本当に起こるならば――彼なんかよりも、さらに危険で、重大な事だ。


 七瀬は一度動きを止め、警戒する。


「――待って。……魔王が、来る」


「魔王? 何だそりゃ、何を言って――」


 その瞬間、彼の言葉を遮るように、


 ――ギイイイイィィィィィンッ!!


 少し離れたところで、紫色の爆発とともに甲高い音が飛んでくる。


 そして、その先には――どこからともなく現れた、紫色の巨大なドラゴンが立っていた。

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