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86.Sランク『法則定義』

「ニールッ、アタシの事は構わなくていい。とにかくアイツを止めろッ!」


 大地に倒れる、褐色肌の女冒険者で、今はもうバラバラに壊されてしまったが……元はクリディアの冒険者ギルドのサブマスターをしていた女性、レイン・クディアは叫ぶ。


 叫んだ先には、小柄で銀髪の、最強の冒険者――ニール・アルセリアが無言で頷くと、剣を持ち、レインの前へ立ち塞がる。


「アハッ、アタシの『ルール』の前に屈服しちゃったってワケ。次はアナタの番。そこの女戦士みたいに、オモチャにしてあげるわぁー?」


「……」


 煽るような口調で彼に言うのは――ピンクのショートヘアに、ジャラジャラのアクセサリーを着けた女。


 戦い慣れなんてしている気配もなく、口だけのように見えるその女。正々堂々と剣を交えれば、最強の冒険者であるニールの敵ではないはずのその女だが、持っているスキルが厄介だった。


「アタシの『法則定義』で、すぐにアナタも、ルールの前に屈服させてあげるわぁー?」


 ――『法則定義』……そのスキルは単純でいて、最恐。ニールは、剣を向けて彼女の元へ突撃するが、


「――『法則定義』。剣は生身の体を貫けないッ!」


 ――キインッ!!


 ニールの剣は彼女の体に触れると、まるで金属にぶつけたかのような音を立てて弾かれる。


「……ッ!」


 ニールは、剣が効かないと分かれば――自由な左手を握りしめ、相手の女性の元へと叩き込む。


 小柄ながら、鍛え続けた強靭な体から放たれるその拳は、女性一人を吹き飛ばすなど造作もない。……はずなのに。


「――『法則定義』。力の概念を逆転するッ」


 ニールの放った拳は――撫でるように優しく、彼女の体を突っついた。


 彼女は逆に、力を込めずにゆっくりとニールへと触れると――ドゴオォッ!! 臓器がいくつか潰れるような生々しい音を立てて、彼は逆に殴り飛ばされてしまう。



 ――



 倒れたニールは、握る力を失い剣を落としてしまう。力を逆転され、全く未知の感覚に翻弄され続けてしまう。

 

 それでも、その手足に力を込めて立ち上がろうとするが……力を込めれば込めるほどに、力が抜けていく。彼女がこのルールを止めない限り、彼は永遠に立つことは出来ないだろう。


 ニールは無言でもがきながら、自身の終わりを悟る。『法則』を自在に操る圧倒的すぎる敵を前に、手も足も出なかった。ヒューディアル最強の冒険者であった彼が、ここまで完膚なきまでに一方的な戦いをしたのは一体、いつぶりだろうか?


「アハハッ、一生そうやって地面を這いつくばるつもりかしらぁ? ……アナタみたいな美少年ならお持ち帰りしても良いケド、リーダーが怒るだろうし。すぐに楽にさせてあげるわ」


 そう言うと、彼女はニールの落とした剣を拾い、一歩一歩近づいていく。


 そして、剣先を倒れるニールの背中に向けて、真っ直ぐに突き刺すために振り上げた、その時。



 ――ギイイイイイィィィンッ!!



 どこからともなく突然起こった紫色の爆発で、こちらに甲高い音が飛んでくる。


 彼女は一度そちらを振り向くと――その顔は、驚愕の表情に支配されていた。


「あれは一体何なのかしらぁ? ……どうやらアナタは後回しのようねぇ」


 そう言うと、彼女はそそくさと遠くに現れた巨大なドラゴンの元へと行ってしまう。


「……あれは魔王ッ!? あの時、倒したはずじゃ無かったのか!?」


 地面に倒れる女性、レイン・クディアは苦しそうにしながら言う。


 あの時、あの二人が魔王を倒してくれたのではなかったのか。第三次召喚勇者(サードヒーロー)に再び現れた魔王。どこまで、俺たちは追い詰められれば良いのかと、心の中でニールは叫ぶ。

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