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75.力の代償

「……お前たち……ッ! 本当に、助かったぞ。……ありがとうッ」


 死の寸前で助けられたプレシャは、大粒の涙を溢れさせながら俺たちに向けて言う。


「プレシャさんには、色々とお世話になったから……」


「行き場の無かった俺を、魔王城に迎えてくれたのは魔王、お前だろ。それなのに、見捨てるなんて事出来るかよッ」


 

 駆けつけた俺たちを見て、ダークエルフの男は舌打ちをして、


「何故だ! ……まさかこれが、()()()()()()()()()()()()とでも言うのか」


「ああそうだ。ただ強いから『魔王』をやっている訳ではない。魔族の信頼を――そして、それだけに留まらず! 人間との信頼関係を手に入れた。故に、我は『魔王』をさせて貰っているのだ。……これが貴様らダークエルフとの違いだッ」


「くっ、クソがあああぁぁぁぁぁぁッ!! 魔王ッ、いつの時代も、憎らしい奴だ。勝手に魔王を名乗り、いい気になって。本来、統治者など――必要ないと言うのに!」


 ヤケになった彼は、更に高度な魔法を唱えようと――残った左腕で、服の影から何やら不穏な、木を彫って作った笛のようなものを取り出す。


 その動きに嫌なものを感じた俺は――すぐさま走り、その笛を持つ腕に斬撃を撃ち込む。


 グシャアッ!! と切断された左腕は地面へと転がり――笛も一緒に転がり落ちる。俺はその笛に剣を突き刺し、バラバラに砕いた。


「トドメだッ!」


 工藤茂春は、高速で彼の元へと近づき――胸へその剣を突き刺した。ダークエルフの男は、悲鳴も上げずに、そのままオーブへとなり消えていった。



「……これで終わったのか?」


 安堵しようとする俺たち三人に、プレシャは喝を入れるように、


「まだだッ! 恐らく後一人、その茂みの奥に居るだろう」


 プレシャが言うと、間もなく。茂みがガサガサと動き、その奥からもう一人。ダークエルフの女性が姿を表した。


 男と同様で銀髪、褐色の、髪が長く美人なその姿。そんな印象通りの声と口調で、彼女は口を開くと――


「御名答です。……魔王さえ力を失っていれば、楽勝とまで思っていましたが。やはり、そう簡単には行かないようですね。良いでしょう。私が直接、決着をつけて差し上げます」


 丁寧な口調の彼女は、それでいて威圧感を放っている。……丁寧ながらも宣戦布告をした彼女は、こちらの返答も待たずに――魔法を放つ!


 魔法を口に出すこともなく、無詠唱で放たれた無数の紫色を帯びた矢は……どれも小さいがとにかく数が多い。


 さっきの男の矢が一撃で決める戦い方だとすれば、こちらは数で相手を追い詰める戦い方か。前方から向かってくる無数の矢に対し唯葉は、


「――『サンダー・シュート』ッ!」


 その全てを、真っ直ぐに伸びる雷撃で撃ち落とす。


 しかし、放たれ続ける矢の猛攻は止まらない。


 俺たちも剣で応戦するが……三人がかりで放たれる矢をなんとか防ぐので精一杯。


 流れ作業のように矢を生み出し続けるダークエルフの女と、それを全力で防ぎ続ける三人。


「……どちらが先に力尽きるかは明白のようですね。面倒事は嫌いなので、早々に諦めて頂けると有り難いのですが」


 彼女の言う通り、俺たちが押されているのは明白だった。


「――『サンダー・シュート』……ッ、はあ、はあ……」


 唯葉の魔法も、常に連射し続けるのは難しい。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 剣で矢を防ぐ俺と工藤も、少しでも気を抜けば矢に前進を貫かれる。とても反撃に出る余裕なんて無かった。


 それを見たプレシャは――


「仕方ない。……我の本気を見せてやる。お前たち、後は頼むぞッ」


 そう言うと、力を失っているはずのプレシャは全身に力を込め――


 ――ギイイイイイイイイィィィィィィィィンッ!!


 鼓膜を突き破るような、甲高い音が大地に響く。そして、その発信源には――


『グガアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアッ!?!?』


 悲痛な叫びと共に現れた巨大なドラゴン……ではあるのだが、その見た目は酷くグロテスクだった。


 鱗も皮膚もなく、全身の筋肉や血管が丸見えで熱を放つ。そのドラゴンの表情は険しく、激しい痛みに耐えているようだった。


 突然の出来事に、その場の全員がその甲高い音を放ったドラゴンの方に注目する。


 変わり果てた姿ではあったが、そのドラゴンの面影にその場の面々は見覚えがある。


「プレシャッ!? 力を失っているんじゃ……!」


「……無理矢理に力を引き出した代償のようですね。何と哀れな最期なのでしょう」


「そんな……プレシャさん、あんな姿に……ッ」


「……俺がもっと強ければ――アイツが無理をしなくても済んだと言うのか……」



 各々、その姿に圧倒されるが、そんな事もお構いなしにグロテスクなドラゴンと化したプレシャは――叫ぶ。


『グギャアアアアァァァァァァァスッ!?』


 苦しそうな叫びと共に、血の垂れる顔あたりから、熱線が放たれる。


「――くっ、自分がどうなっても構わないと。そういう訳ですか」


 肉体を燃やし、プレシャは文字通り命を削る攻撃を放つ。


 それを何とか避けるダークエルフの女だったが、その先にもう一撃。さらに太い熱線が撃ち込まれる。


 叫び声も無く焼き焦がされたダークエルフの女だったが――ただでは燃え尽きない。熱線の打ち込まれた先から、無数の矢が返ってくる。


 その矢全てがプレシャの体に命中するが――微動だにしない。その巨体に、元々の激しい痛みを耐え続けているせいか、矢が刺さったくらい関係がない。


 ――ギュウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!!


 その巨体を前にして戦慄する彼女を――プレシャは容赦なく、三発目の熱線で焼き焦がした。




 ……その熱線による煙が晴れた後、そこにはダークエルフの女の姿は既に跡形もなく消え去っていた。


 それと同時――ドスンッ!! と大地を震わせて、全身の肉が晒されたグロテスクなその巨体は溶けていき、バランスを崩して倒れる。


「……プレシャッ!!」


 俺は、その溶けた肉体による海を渡り、その中央に倒れる魔王、プレシャの元へと走る。


 どろどろとした海を乗り越えた先に倒れるプレシャに触れる。まだ息が残っているが意識を失っており、火傷してしまいそうなほどに体が熱かった。


「すぐに安全な所で治療をしないとマズイな……」


 俺は熱を放ち続けるプレシャを抱き上げると、既に辺りに広がり、水溜まり程度になった溶けた肉体の上を走る。

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