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65.マーデンディア

 クラーケンの襲撃から二日後。人間である俺と、生物学的には魔人なのかもしれないが、根本的には人間である唯葉は、魔族たちの船の中ですっかり溶け込んでしまっていた。


 気づけば魔人たちも、俺たちを見かければ物珍しさからか話しかけてくれるようになった。……戦争の時のような、重苦しい雰囲気はすっかり吹き飛んでいた。――そんな中、一人の魔人の声が飛んでくる。


「グランスレイフが見えたぞー!」


 その声に釣られて、俺たちも前方を見ると――巨大な大陸が、遥か向こうに見えてきた。


 ここまで、どこを見ても海、海、海で、たまに陸地が見えても小さな無人島だったりで、久々に見た大陸に安心感が湧きあがってくる。


 遠目で見た感じだと、ヒューディアルとそこまで変わりはない気がする。


 魔族の大陸……という事で、毒々しかったり、禍々しかったりするのかもなんて思っていた俺が馬鹿らしく感じてしまうほどに。


 そもそも、魔族だろうと何だろうと、結局は人間や動物と同じく生きているのだから、当然と言えば当然だ。



 ***



 さっきは、ヒューディアルと変わりないと言ったが……港に着いてから見た光景で、その発言は撤回することにした。


「――何だこれは!?」

「まるで、日本みたい……」


 俺と唯葉、揃って驚きの声を上げるのも仕方がない。


 港の先に立ち並んでいたのは……近代的なビルやマンションが並ぶ、まさに『都市』だったからだ。


 クリディアでも、冒険者ギルドなどの大きな建物は少しながら存在はしていた。が、そういうレベルではない。


 数十階建ての高層ビルがズラッと並んでいたり、ホテルのような巨大な建物があったり、まるで俺たちの住んでいた日本の首都……いや、それ以上かもしれない、圧巻の光景だ。


 ヒューディアルとの文明レベルの違いに腰を抜かす俺たちに向けて、魔王プレシャが得意げに言う。


「驚いたか、人間! ここはグランスレイフで唯一の都市、『マーデンディア』。これが500年前の戦争で貴様ら人間が求めた、我ら魔族の技術力だッ!」


 綺麗に整備された、まさに想像通りの大都市へ、俺と唯葉は降り立った。……魔族が支配する土地、グランスレイフへ。



 港から降りると、プレシャに一台の黒くて車高の低い、見るからに高級車なオーラを放つ車へと案内され、そのまま後部座席へと乗せられる。


 中にはちゃんと車に必要な部品が揃っていて、この車が日本で走っていたとしても違和感のない、それほどの出来だった。……逆に、前の世界から持ってきたのか? と疑ってしまうほど。


「車まであるのか……。俺たちのいた世界と同じレベルの文明があるんだな、魔族には」


「……ん? 貴様ら、まさか異世界人か? それならその強さも納得ではあるが……」


 日本から来たという事を知られたところで、特に何も起こらないことを知ったので、特に隠したりするつもりはない。……逆に、魔族たちが相手なら、異世界人と知ってもらった方が良いかもしれない。


 そんな軽い会話を交わしながら。プレシャの運転する車が走り出す。エンジン音もなく、やけに静かに発車したので、


「……ガソリンじゃなくて、電気で動いているのか?」


 プレシャに問いかけるが、彼女はよく分からないと言った表情で返す。


「がそり、ん? でんき? ……それは良く知らんが、この街の技術は全て魔力エネルギーによる物だ。この大陸の豊富な魔石によって生み出されている」


 魔力というワードからは、魔法などのファンタジーなイメージしか浮かばないが……使いようによっては、魔力でこんなこともできるらしい。


 あのビルの壁に映し出されている街頭広告なんかも、全て魔力で動いているらしいが、とてもそうとは信じがたいほどに、この都市の技術は進んでいた。



 ***



 それから車でしばらく進むと、港からも見えていた一際高くて目立つ、巨大な黒いビルの敷地へと入っていく。


「ここがグランスレイフ唯一の都市『マーデンディア』を統べる建物……魔王城だ」


「……魔王城……?」

「城っていうより……」


 魔王城と呼ばれたその建物を見上げる俺たち二人は、同じ事を思ったであろう。


 魔王城っぽくない……、と。

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